【概要】
中沢峰は朝日軍道における長井葉山と御影森山のちょうど中間地点にあたる。何回か訪れている三角点もある山だが、好天が予想される1日、のんびりと朝日軍道における要所ともいえるこの中沢峰に登ってみることにした。祝瓶山荘から中沢峰は8年ぶり。この時期の中沢峰を登る最大の魅力は、葉の落ち尽くした灌木の枝越しに見える祝瓶山、大玉山、平岩山、大朝日岳の展望に尽きるだろうか。この大パノラマを常に眺めながらの稜線歩きが手軽に楽しめるのである。山頂から至近距離に見える大朝日岳や御影森山。そして焼野平、八形峰、長井葉山と続く朝日軍道と魅力が満載なのである。祝瓶山より若干低いとはいえ、アップダウンが多いことと距離が長いので行程的には少しきつい山である。
祝瓶山荘の裏手から急坂を登ると目にも鮮やかな紅葉が飛び込んでくる。標高はおよそ800m。紅葉前線もだいぶ下がってきたのを実感する。急坂を登り切ると尾根は割合平坦となり遠目に木地山ダムが見えるようになる。その向こうには吾妻連峰や磐梯山があり近くには三体連山が南方へと稜線が続く。振り返ると祝瓶山の鋭峰がそびえ立っていた。登山道はカラカラに乾燥していて気持ちの良い尾根歩きである。広々とした登山道も歩きやすいばかりだった。小さなアップダウンを繰り返すと前方に中沢峰を仰ぐようになる。左手からは木立越しに大玉山、平岩山、大朝日岳が見渡せる。平岩山と北大玉山間の山塊は西朝日岳のようだ。高度が1200m峰を超え大朝日岳が正面に見えるようになると中沢峰はもうまもなくだった。
中沢峰の山頂は縦に長いヤセ尾根になっている。三角点をそのまま進むと御影森山への分岐点で、そこには朽ちて読めなくなった標識が横たわっている。ここは朝日軍道の一角で、眼前に見える大朝日岳と御影森山が圧巻だ。
上空には澄んだ秋空が広がっていた。カップラーメンを作りながらその傍らでコーヒーを淹れる。このできあがるまでのゆったりと流れる山の時間はとても貴重なひとときでもある。焼野平や八形峰を経て長井葉山へ続く縦走路にはブナの原生林が広がっている。しかし灌木やブナ林は葉をすっかり落としてしまい、つい数日前までみせていたはずの紅葉は微塵も見られない。どこを見渡してもモノトーンの灰褐色に沈み、笹藪だけがわずかに淡い緑を残しているだけだった。朝日連峰は早々と衣替えを済ませてしまい、冬の到来をただ静かに待っているだけのように見えた。