山 行 記 録

【平成27年9月18日〜22日/裏剱縦走 (室堂〜剱沢〜仙人池ヒュッテ〜阿曽原温泉小屋〜欅平〜宇奈月温泉】



八ツ峰を映す仙人池(二日目の朝)



【メンバー】9名(遠藤敏、佐藤節、駒沢、木村夫妻、安孫子、三宅、金井、蒲生)
【山行形態】前夜発、山小屋泊(下山後、宇奈月温泉「烏帽子山荘」に素泊まり泊、山行は2泊3日)
【山域】北アルプス
【山名と標高】別山乗越、仙人峠ほか
【地形図】(2.5万)欅平、十字峡、立山、剱岳(20万)高山、富山
【天候】(18日)雨(19日)小雨のち晴れ(20日)晴れ(21日)晴れ(22日)晴れ
【温泉】阿曽原温泉露天風呂(宿泊者無料)、宇奈月温泉500円
【参考タイム】
(18日)寒河江SA19:00〜R287〜R113道の駅関川〜荒川胎内IC〜立山IC〜立山駅2:00(仮眠)
(19日)立山駅6:00(立山黒部アルペンルート)室堂着7:10
     室堂発7:30〜剣御前小屋10:20〜剣沢キャンプ場11:00-11:20〜真砂沢ロッジ13:10〜二股吊橋14:55〜仙人峠17:00〜仙人池ヒュッテ17:30(泊)
(20日)仙人池ヒュッテ6:15〜仙人峠6:42〜池の平小屋7:15〜仙人池ヒュッテ8:00〜仙人温泉小屋10:00-11:40〜仙人ダム15:00〜阿曽原温泉16:40(泊)
(21日)阿曽原温泉4:00〜折尾谷7:00〜大太鼓7:50〜欅平10:20
     欅平駅11:46発(トロッコ電車)宇奈月温泉13:15〜「烏帽子山荘」(泊)
(22日)宇奈月温泉「烏帽子山荘」〜黒部IC〜荒川胎内IC〜R113道の駅関川(解散)〜長井〜寒河江SA
     ※GPSによる3日間のデータ(総上昇量2024m総下降量3891m積算距離45.30km)

【概要】
 日本屈指の秘境として知られる北アルプスの裏剱。今回はこの山岳会事業に参加させてもらった。特に際だったピークを登るわけではないが日本三大雪渓といわれる剱沢雪渓をはじめ黒部峡谷の絶壁に切られた下ノ廊下に続く水平歩道をたどりながら最後はトロッコ電車で有名な欅平駅に下る。室堂から欅平駅までの全行程は50kmにもなり、コース全般に渡ってハシゴ、クサリなどもある厳しい超ロングコースだけに侮れない。山小屋に何泊もすればいいのだろうが途中の真砂沢ロッジは満杯で予約が取れなかったらしく、初日は室堂から仙人池ヒュッテまで10時間(休憩含まず)の行程を1日で歩かなければならない。そのため立山からはケーブルカーとトロリーバスのチケット購入のため午前4時から1番に並んだ。シルバーウィークと重なり立山駅は非常に混んでいた。駅で登山届を提出してさっそく別山乗越をめざして歩き始めた。

 室堂はあいにく雨が降り続いていた。気分は落ち込み初日の天候はほとんどあきらめかけていた。ところが雷鳥沢キャンプ場をすぎる辺りから天候は一気に回復をみせる。それは劇的とも言えるほどで、もしかしたら神様がわざわざこの場面を作るための演出かとさえ思えるほどの天候の急変だった。約3時間で剱御前小屋を通過。剱沢キャンプ場で早めの昼食をとりながら大休止をとる。リーダーが仙人池ヒュッテに確認電話を入れると「まだそんな場所にいるのですか」と山小屋のスタッフから唖然とされる。この時点で私たちの仙人池ヒュッテへ到着はほとんどないものと山小屋からあきらめられたようだった。このやりとりを聞いてボク達はまだ今日の行程のホンの序の口にいるのだということをあらためて知った。剱沢小屋では山岳救助隊から雪渓の状況を確認した。雪渓通過に際しての指導を受けたものの平年とはちがって雪渓の状態がかなり悪そうだった。剱沢雪渓に下りてゆくと紅葉に彩られた平蔵谷や長次郎谷が美しい。剱沢雪渓はアイゼンなしで下った。雪渓を下り続け真砂沢ロッジには午後1時過ぎ到着。休憩後、雪渓を高巻いて河原に降り立つと、続いてハシゴ場や鎖場が次々とあらわれる。踏跡も不明瞭な河原をたどりながら午後3時ようやく二股吊橋に出た。ここからは仙人新道の急坂が待っている。仙人池ヒュッテまでのコースタイムは3時間。まるで飯豊の梶川尾根を彷彿させるような急勾配に汗が流れた。しかし左手からガスに見え隠れする八ツ峰や日本初の氷河『三ノ窓雪渓』『小窓雪渓』が現れるとその山岳景観に圧倒される。仙人峠まで登り詰めれば赤い屋根の仙人池ヒュッテはまもなくだ。後方の稜線は後立山連峰で右肩には鹿島槍の双耳峰が見えた。

 仙人池ヒュッテ到着は午後5時30分。かなり陽が落ちていてまわりはすでに薄暗くなっていた。我々の到着をほとんど諦めていたという山小屋のスタッフからはよくぞこの時間に到着したものだと驚かれた。夕食前、仙人池に映る裏剱の絶景を見に行く。ほとんどの登山者はこの景観のためにこの山小屋に泊まるといっても過言ではなく大勢の登山者がカメラをかまえている。紅葉と裏剱の絶景にはみんなから感嘆の声が上がった。夕食は6時30分。今日のがんばりに全員で乾杯の声が高らかにあがった。10時間もひたすら歩き続けたおかげでこの日のビールの味は最高だった。

(二日目)
 朝食は午前5時。主な荷物を小屋前において池の平小屋を見るために6時に小屋を出た。朝からまぶしい日差しが八ツ峰や周囲の山肌を染める。紅葉がひときわ鮮やかだ。2時間で池の平小屋を往復して仙人池ヒュッテに戻った。阿曽原小屋を下るとまもなく仙人谷の雪渓を歩く。仙人温泉小屋には順調についたのだがここで耳を疑うようなアクシデントが待っていた。雪渓が崩壊してしまい山小屋でストップさせられたのである。この先通行の見通しも立っていないらしく、阿曽原温泉からの登山者も同様にこちら側に渡れずにいる。私達にしてみれば室堂に引き返すことにもなりかねない緊急事態だった。例年は雪渓も消えて何の問題もなく通過できるところが今冬の大雪のため現在もまだ7月のような雪渓が残っているためらしかった。ちょうど訓練にきていた富山県警救助隊と小屋の管理人から、ルート検討とその対策に少なくとも3時間待ちといわれたためメンバーは缶ビールを山小屋から次々と購入しては休憩を兼ねてプチ宴会をはじめている。しかし関係者が崩落した場所に急ごしらえの丸太の階段を造ってくれたおかげで2時間もたたずに通過可能となったのは幸いだった。救助隊から一人一人誘導されながら薄氷を踏む思いで雪渓を慎重に通過した。一時はどうなることかと思ったこのアクシデントだけに必死で対応してくれた関係者にはただただ感謝であった。

 対岸からは雲切新道の急坂を登る。ここは鎖やロープの連続で緊張の連続だった。急なハシゴを何本も下り最後は垂直の長いハシゴを伝って仙人谷ダムへと降り立った。標高2100mの仙人池ヒュッテから標高870mの仙人谷ダムまで一気に1200mを下ってきたことになる。ここは黒部ダムからの下ノ廊下との接続点でS字峡の直下。迷路のようなダム上を進み「旧日電歩道」の看板に従い作業用トンネルに入る。途中で谷を渡るトンネルを横切るのだがまるでサウナのような熱風が吹き出ている。他の山ではとても考えられない、この変化に富んだコースに飽きることがなかった。しばらくするとふたたび山を登るようになる。たった100mぐらいだがこの時間帯の急坂はけっこうきつい。水平歩道が続き最後に100m下って今宵の宿、阿曽原温泉に着いた。今日も10時間を超えるハードな行程だった。荷物を下ろしたところでビールを注文し全員で早速乾杯。ここにはなんとビールの自動販売機まであった。宿泊の手続きをしていると、山小屋の主人から「今年のシルバーウィークは大混雑が予想されていて11時までに欅平に着かないとその日のトロッコ電車には乗れないだろう」といわれる。予定では小屋を8時頃のんびり出発するはずだったのだがこれを聞いて急遽予定を変更。最終日は最低でも6時間ほどの行程なので起床を午前3時半。朝食は食べずに午前4時には小屋をでることに決定した。

 夕食前のひととき、阿曽原温泉名物の露天風呂に入る。風呂はひとつしかなく男女1時間ずつの交替制。露天風呂にはテン場から5〜10分ほどかかるのだが、露天に行く途中テン場で何気なく話をしていたら突然自分の名前を呼ばれた。振り向いたらなんと阿部ニーではないか。はじめは信じられないほど驚いたのだが阿部ニーはボク達とは逆コースで今日欅平からあがってきたらしかった。今回は北峰稜線をたどりながら剱岳を登り立山へと下山するようだった。風呂に入っているとその阿部ニーもやってきてしばらくぶりの邂逅に話もはずんだ。夕食はコロッケ付きの絶品カレー。あまりにおいしいので何杯もお代わりをした。夕食後は節っちゃんと二人で、テントで休んでいた阿部ニーを呼びにゆき小屋前のベンチに座って消灯時間までの2次会を楽しんだ。

(三日目)
 小屋で作ってもらった朝食弁当をザックに入れ山小屋を予定どおり午前4時に出発した。真っ暗なので全員ヘッデンをつけての行動。危険な箇所も多いので前方を照らしながら慎重に先を進んだ。午前5時を過ぎ薄明るくなったところで朝食をとる。その後は旧日電歩道の水平歩道を欅平まで延々と歩く。この道は黒部川の電源開発の為に作られた道幅約80センチ程の道なのだが、谷底までの高度差は高いところで300メートル程もあり、垂直の壁に掘り切られた道や、丸太で作られた桟橋を、深い谷底を見ながら通過するのはかなり緊張の連続。間違って足を滑らしたら、それこそ一巻の終わりなのだ。折尾大滝で大休止をとったあとは、頭上に切り抜いただけの大きな岩がのしかかる大太鼓、不気味で真っ暗闇の長い志合谷トンネルの通過と、この先もいささかも気が抜けない。この志合谷トンネルを抜けてもまだ緊張の水平歩道が5キロメートルも残っているのだ。

 欅平には10時20分到着した。欅平は大勢の観光客で溢れていて現実の世界に戻ってきたのを実感させられる。危惧していたトロッコ電車は幸い11時46分発が残っていたがそれ以降はすべて×印。私たちは駅二階の食堂でさっそく乾杯をし、久しぶりのラーメンを味わう。欅平からは最後に黒部峡谷鉄道のトロッコ電車が待っているがもう歩きの行程はない。9名全員が無事に全行程45km以上を歩き通し、裏剱を堪能した感動の3日間が終わった。


早朝の立山駅(午前5時50分)


急速に晴れる剱御前小屋への道


剱御前小屋から剱沢キャンプ場へと下る


剱沢キャンプ場から剱沢雪渓へと下ってゆきます


剱沢雪渓上部から稜線を見上げる
稜線の紅葉が見事です


剱沢雪渓を下る


平蔵谷


長次郎谷


前方に真砂沢ロッジが見えてきました


真砂沢ロッジから剱沢雪渓を振り返る


真砂沢ロッジから剱沢を高巻きします
この巻道は黒部ダムからの登山道を一部使用します


高巻きの後は仮設の木橋を渡り対岸へ


四ノ沢付近のヘツリ道


ようやく二股吊橋に


仙人新道から振り返る対岸の山と紅葉


仙人新道の足元で


日本で初めて氷河の認定を受けたといわれる
三ノ窓雪渓と小窓雪渓(右)


仙人新道から八ツ峰を仰ぐ


仙人峠から
右奥は鹿島槍ガ岳、左端は仙人池ヒュッテ
長かった一日目がまもなく終わりそうです


ようやく仙人池ヒュッテに到着しました


夕暮れ迫る仙人池


山小屋の朝(二日目)


ご来光前のひととき(バルブ撮影)


八ツ峰をバックに
池ノ平と仙人峠の途上で(2日目)


池ノ平への途上で八ツ峰を仰ぐ


仙人谷の雪渓を下る


雪渓が崩壊したため仙人温泉小屋で2時間足止めを食う
急遽富山県警と山小屋で拵えてくれたハシゴを下り阿曽原温泉へ


仙人谷ダムへの下降(雲切新道にて)


仙人谷の通過(雲切新道にて)


仙人谷ダムの上が登山道
このあとダムのダム内部を通過します


二日目の宿、阿曽原温泉小屋に到着です


夕食前のひととき、さっそく露天風呂に


折尾大滝(3日目)


絶壁の水平歩道をゆく


大太鼓付近の水平道


欅平に無事下山しました


欅平駅からトロッコ電車で宇奈月温泉に向かいます


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