(8日)本山小屋5:50〜草履塚7:00〜切合小屋7:10〜御沢分岐7:40〜地蔵岳9:30-10:15〜長ノ助清水11:15〜大日杉12:00
【概要】
昨年はヘルニアの闘病もあって飯豊山の山頂は1回も踏んではいない。気合いが入るところだが、一方で体力が相当落ちているためどこまでゆけるだろうかという不安がつきまとっている。大日杉には結構な数のマイカーが止まっていた。ほとんど県外ナンバーで九州や関西方面も多かった。登山届けを投函して出発するといきなりのザンゲ坂。朝から暑いことあってたちまち汗を搾り取られた。尾根に出たところで長袖シャツはお蔵入りとなった。今日は無風快晴とあって朝から暑い日差しが降り注ぐ。長ノ助清水ではペットボトルをたっぷりと満たした。この辺りにはカタクリやショウジョウバカマが多いが、他にイワハゼ、コケモモ、ハクサンフウロ、キクザキイチゲ、ウラジロヨウラク、ミツバオウレン、タムシバなどもかなり咲いている。特にタムシバは今が満開といってもよく、青空に映えるその鮮やかさには目を見張った。
地蔵岳までは3時間もかかった。かなりの疲れを感じているためとりあえず大休止だった。本山が正面に見える絶好の展望台なのだが、木立が伸びたせいか見晴らしはあまりよくなかった。地蔵清水や目洗清水どちらも多くの残雪に埋まったままで水は汲めない。この辺りから下山者とすれ違った。本山と切合に泊まった人たちだった。週末にもかかわらず、どちらも5〜6名程度と小屋はがら空きだったようである。この区間はヒメサユリがかなり咲いている。蕾も多く明日にはすべて開花する気配が濃厚である。近くで少し大きくなりすぎたが山ウドを見つけた。食材には野菜類がなにもないのを思い出し、ひとつかみだけだったが採取した。
御坪にはヨレヨレの状態でたどり着く。切合小屋まではまもなくなのだが、はたして小屋まででさえもゆけるのだろうかとかなり弱気になっている。暑さも相変わらずで汗がいっこうに止まらない。近くにミヤマハンショウヅルが咲いている。シャリバテもあるのだろうかと菓子パンやバナナをたらふく食べた。種蒔山は一面の残雪に覆われている。切合のトラバースが不明のためそのまま直登する。雪面がまぶしくてとても目を開けていられなかった。サングラスを忘れてきたことをいまさらながら後悔した。川入分岐まで雪渓を下りてゆくと向こう側から若いカップルが歩いてくる。これから御沢を下るらしくアイゼンをザックから取り出している。御沢もまだまだ分厚い雪渓で埋まっていた。
切合小屋からは草履塚と飯豊本山が正面となる。左手の大日岳も久しぶりだった。両足は極度の疲労感だったがここまでくればもう少しがんばろうかという気持ちに切り替わっている。とりあえずの目標を草履塚と決めて歩き出す。ここにもまだまだ多くの雪渓が残っているものの、雪は柔らかくアイゼンもピッケルも不要だった。姥権現付近はハクサンイチゲとオヤマノエンドウの大群落となっていた。大日岳を背景に写真を何枚も撮る。他にもミヤマウスユキソウやミヤマダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマキンバイ、イワウメ、ノウゴウイチゴなどもあってここはまさにお花畑だった。御前坂からはいよいよ最後の登りが待っている。標高差は200m。見上げると目眩がしそうだ。足はすでに棒のようだったが一歩ずつ数を数えながら登った。
本山小屋到着は14時50分。先客が二人いて1階と2階に別れている。今日の泊まりは3名だけのようだった。水作りは後で行うことにしてとりあえず山頂に向かうことにする。ザックには最低限必要なものだけを入れた。日差しはまだまだ強かったが稜線には涼風が流れていた。2000mの風は心地よく体が生き返るようだった。登り始めてからちょうど9時間。ようやくたどりついた飯豊山の山頂だった。今回ほど途中で何回も挫折しそうになったことはなかった気がした。それだけに感無量の心地よさと達成感に満たされた。ここからは飯豊連峰のほぼ全域が見渡せる。南端の三国岳から北端の杁差岳まではいうにおよばず、朝日、蔵王、吾妻の各連峰。そして鳥海山や月山までが一望だった。ここからの大展望は飽きることはなくしばらく動く気にはなれなかった。
本山小屋の水場はまだ使えないので近くの雪を掘り出した。缶ビールを飲みながら、自転車で全国を旅しているという熊本の若い人としばらく話をする。4年前に出発してから自宅にはまだ一度も帰っていないというから驚く。帰るつもりもないらしいのだ。時折農家の仕事を手伝いながら放浪を続け、日本一周もすでに二周目なのだという。山は最近になってからはじめたばかりで、つい先日は鳥海山と月山を登ってきたらしかった。それも重いザックを背負っての山頂泊まりであった。真冬の北海道における自転車の旅のエピソードやアクシデント或いは旅のノウハウなども聞いていて飽きることはない。まるで絵に描いたような鉄人の若者だった。
翌日のご来光は蔵王連峰の一角からだった。少し雲があって今ひとつだったが山頂からの光景はやはり心に沁みるようだった。山小屋は6時前にでた。朝の清々しい空気は火照った体に心地良く、どこまでも歩いて行けるような錯覚さえ覚えた。御秘所付近で切合泊まりの女性の二人連れとすれ違った。昨夜の宿泊はやはり3名だけだったという。これから山頂を往復して今日中に大日杉まで下山するらしかった。切合からは御沢を下ることにした。アイゼンはなかったがウィペットさえあればなんとかなりそうだった。小屋直下の急斜面を靴スキーで一気に滑ってゆく。まわりは全て雪渓に囲まれていてたちまち夏道とは別世界となる。穴堰まではほとんど滑るように下ってゆけるのでこの時期の雪渓歩きは楽しいばかりだった。もちろん穴堰はまだまだ雪に埋まっていて影も形も見えなかった。
地蔵岳までは下りのようでいて実は大半が登りで上り下りが延々と続く区間。一晩寝て疲労は取れたはずと思っていたのだが、ここのアップダウンはボディブローのようにじわじわと効いてくる。両足は足かせを嵌められたように重く体力が奪われてゆくようだった。何回も休憩をとりながらなんとか地蔵岳に登りつく。しかし、ここまで来れば後は大日杉まで下るだけだ。ようやく肩の荷が下りる。明日は雨が予想されているため登ってくる人もいないようだった。すぐには動き出せるような気力も体力もなくなっていて、地蔵岳では1時間近くも休んでいた。