駐車地点からはわずかに登れば宮様コースの取り付き地点だった。ボク達はいつものように道路をショートカットするコース取りで登って行く。急斜面から一段高みの台地に登ればそこには新緑のブナ林が広がっていた。この風景を眺めることができただけでも満足するような感動に満たされる。まもなくすると前方には秀麗な鳥海山が姿を現した。青空とともに残雪に輝く鳥海山は感激ものだが、今年はその残雪がかなり少なく愕然とする。5月初旬のこの時期にこれほど残雪が少ない景観は見たことがなかった。
雪渓は少ないが天候の問題はなさそうだった。しかし八丁坂を登っているうちに、突然、怪しげな雲が出現してボク達の前途に暗雲が垂れ込めるようになる。鳥海山は鳥海山でぶ厚いレンズ雲のようなものが山頂付近を覆いはじめたのだ。どうみても天候は下り坂のようであった。そんな心配もあったのだろう。みんなは前日の文殊岳で燃え尽きてしまったのか、山頂まで行こうというモチベーションがあまり感じられなかった。そうなると今日の行程をどうしようかとなる。あーだこーだといいながら、結局、月山森などの小ピークもからめながらせめて外輪山近くまではゆこうかとなった。八丁平からは残雪をつなぎながら伏拝岳に向かって雪渓を登りはじめた。
河原宿小屋が下方に見える頃には傾斜もだいぶきつくなっている。目の錯覚だろうが外輪山の稜線は目前なのに距離がいっこうに縮まらなかった。いつのまにか雲行きまでが怪しくなってきていた。こういった場合の不安感は結構当たるもので、残雪が切れるあたりまで登り切ったとたん、突然濃霧に包まれてしまい視界がなくなってしまった。
標高は1930m地点。稜線までは残り100mぐらいしかなかったが悪天候では無理はできない。まだ雨が降る兆しはないので急いでシールをはがすことにした。さいわい少し下がっただけで視界は戻ったため、あとは200mほどの滑降を楽しむ。雪面はほどよいザラメとあってこの予想外のコンディションの良さには登りの苦労が一気に吹き飛んだ。
スキーが快適に走ったのは滝の小屋付近までだった。前日もそうだったのだが滑降しているうちに突然スキーが走らなくなったのだ。ブナの花粉なのかわからなかったが、ソールに黒い物質がべっとりとついていた。これは容易に取れるようなものではなく、しばらくこのクリーニング作業に全員時間を費やさなければならなかった。
滝の小屋から駐車地点までは結構な距離が残っている。傾斜があるうちはそれなりにスキーが走ったが、それでも突然ストップしたりするので思わぬところで転倒したりした。傾斜がゆるんでくるとほとんどスキーは滑らなくなっていた。これではこの先どうしようかという気もしてくる。今年の板収めを考えればこの鳥海山がちょうど潮時かもしれない。駐車地点まではそんなことを思いながら下った。(※作業中)