【概要】
今週は恒例の山岳会主催による月山肘折。参加者が多いためにマイクロバスをチャーターしてのスキーツアーである。今回の参加者は総勢11名。うちコース初体験者が4名ほどいて少し不安感を抱いての出発となった。昨年は鍛冶小屋直下で滑落者が続出してしまい、月山を越えることができずにツアーを断念した経緯がある。
姥沢では小雨が降り続いていた。出だしからブルーになりそうだったが、気温は高く風もいたって穏やかと、今年はアイスバーンに難儀することもなさそうだった。リフトを乗っている頃から雨は小雪に変わり始める。リフト終点に降り立つと積雪の少なさにまず驚いた。尾根筋はすでにブッシュがかなり出ていて、まるでGWの月山を見ているようだった。アイスバーンの心配は無かったが、今回は牛首を通らずに一本南側の尾根を使うことにして、リフト終点からは四ツ谷川へと下りてゆく。沢底でシールを貼り一路月山の山頂をめざした。
天候の回復を祈りながらの登りだったが、天気はそうそう期待通りにはゆかない。視界はますます悪くなる一方だった。月山の山頂にはリフト上駅から約3時間で到着した。もしかしたら晴れるかもしれないといった一縷の望みはあっさりと砕かれ、山頂付近は一寸先も見えないほどの濃霧に包まれていた。建物や木立でもあれば滑るときの目印にもなるのだが大雪城の雪原では完全なホワイトアウト状態。幸いにスキーの初心者はいないようなので、シールをはがし全員トレーンで下ることにした。
大雪城はスピードを殺しながらの滑降だったが、目標物が全く無いときのトップというのはつらい。まるで闇の中を滑っているようなもので、前後左右さらには高低感もわからないために、ときどき船酔いのような感覚に襲われてしまい、何でもないところで転倒したりした。急斜面なのだが後ろに滑っているような幻覚さえ感じるほどだった。ガスの中をトレーンでなんとか乗り切り、千本桜へと降り立った時には正直肩の荷が下りる思いがした。月山山頂から標高差にして500m。ここにきてようやく視界が戻ってきていた。
千本桜で少し遅めの昼食休憩をとった後は、立谷沢川の源流部へと尾根筋を滑ってゆく。出だしの大きなクラックを避けながら高度を下げれば、斜度も落ちてきてあとは快適なザラメを楽しむばかりとなる。広大な尾根を勝手気ままに滑ってゆき、立谷沢川への急斜面までくると周囲の景色が見渡せるまでになっていた。最近降り続いていた雨のため縦溝が心配だったがそれは杞憂に過ぎなかった。雪面はかなりフラットで斜面を舐めるように滑り降りて行く。立谷沢川源頭部へは難なく下り立つことが可能だった。
立谷沢川からは再びシールを貼れば、初日の最後の行程、念仏ヶ原への登りを残すのみとなる。休憩をとっている間に、上○さんが例によってザックから釣り竿を取り出し、まもなく尺岩魚を○匹もゲットした。あいかわらずたいしたものだ。沢伝いに高度を上げてまもなく飛びだした広大な雪原は秘境念仏ヶ原。晴れたときの念仏ヶ原はまるで桃源郷を思わせるような場所なのだが、あいにく再び濃霧に包まれてしまったために展望はなかった。
念仏小屋は屋根の一部が出ているだけでほとんど積雪に埋まっていた。小屋に入るためには最低でも4〜5mは掘り出さなければならずテントにしようとしたのだが、入り口をどうしても掘り出してほしいとの事務局長からの依頼を思い出し、みんなでスコップを片手にしばらく小屋の掘り出し作業に精を出した。しかし入口を掘り出したものの肝心のドアがどうやっても開かない。小屋の中に大量の雪が入り込んでしまいブロックされたような状態だった。これでは小屋泊はあきらめるしかなくテント泊に急きょ変更となる。いつものテン場にテント設営後は、総勢11名がテント内で車座になると、まずは月山越えを祝って一同乾杯。賑やかな夕食の開宴となった。そして満点の星空を楽しみながら夜も更けていった。
翌日は5時前に起床。外に出てみると快晴の空が広がっていた。有明の月が頭上に鎮座しご来光が始まろうとしている。周囲の景色が色彩を帯びてくるとともに月山は鮮やかなモルゲンロートに染まり始める。その神々しいまでの姿はここまでたどり着いた者だけが味わえる特権であろう。この美しい月山を前にボク達は言葉もなくただ佇むばかりである。見上げても雲ひとつ見当たらなく今日は暑くなりそうな予感が早朝から漂っていた。
テント撤収後、全員で記念写真を撮りテン場出発は8時20分。予定よりも1時間以上遅い歩き出しとなった。念仏ヶ原からはいつもの快適なシール登行が続いた。天候が良いだけに今日はなんの心配もなさそうである。登り切った小岳山頂からは快適なスキー滑走の始まりとなる。赤砂沢に沿って尾根伝いに快適に飛ばして行くと沢底からはすぐに978m峰への登り返し。気温はどんどん上昇していて汗が流れる。978m峰からひと滑りすればネコマタへの最上部にたどりつく。いつもは大量のデブリに埋まるネコマタ沢だが、今回はデブリがほとんどなく、急斜面も例年よりはかなりなだらかに見える。稜線からの大きな雪庇もほとんど落ちてはいない。いつもは何かが起こるネコマタ沢だったが、今回はほとんど見せ場らしい見せ場もなく単なる通過点のようだった。
ネコマタ沢の末端からは778m峰への登り返しとなる。778m峰からはブナ林をすり抜けながらのツリーランがあり、大森山直下までの長いトラバースと続く。小岳を出発してから、赤砂沢、978m峰、ネコマタ沢、778m峰と、次々尾根と沢をつないでゆき、最後は長いトラバースを経て大森山直下へと至る。このめまぐるしいまでの変化を楽しむのがこのツアーコースの魅力のひとつでもあり、何回経験しても飽きることがない。
大森山山頂までは見上げるほどの急斜面が待っている。疲れてきた体には一番こたえる区間ともいえそうだ。雪面に一歩一歩キックステップを刻みながら急坂を登るのだが、ここのきつい登りには知らず知らず喘ぎ声が漏れるようだった。大森山に早めに登り切った者からさっそく宴会用のテーブル設営となる。ここは年に一度だけ開店する「大森山レストラン」。ザックに残っていた食材や飲み物などが次々と雪のテーブルに広げられ早速開宴となった。宴会のメインディッシュは「野菜入り具だくさんラーメン」。長いツアーコースの終盤にきて味わうこのラーメンのおいしさは格別だった。西には早朝通過してきた小岳があり、いくつもの峰峰を越えて肘折温泉はもう目前に迫っている。繰り広げられてきた夢のような舞台が間もなく終わろうとしていた。
大森山の山頂からは最後の滑走となる。ブナ林を縫って行くここは一部に急斜面があるもののツリーランが楽しめる区間。林道に降り立てば今回のツアーも終盤だ。林道をショートカットしながら最後の滑走を楽しみ、降り立ったところは肘折温泉の朝日台である。今年は除雪が早めに進んだせいだろう。朝日台は道路で分断されていてそこはいったんスキーを担いだ。そしてふたたび雪原を進んで肘折小学校前へと滑り込み今回のスキーツアーは終了した。そこには事務局長自らが運転するマイクロバスがいまかいまかとボク達の到着を待っていてくれた。下山後は「肘折いでゆ館」のしっとりとした温泉で二日間の汗を流した。舟形町「重作」のおいしい蕎麦で締めくくり、西川町の開発センターで解散となった。