今日は朝から冷え込みが厳しかった。2、3日前に雨が降ったせいで雪面は固く締まっている。おかげでラッセルの必要がないのはありがたいのだが、反面、急斜面ではスキーアイゼンも必要なほどなので、気温の上昇を期待しながらのハイクアップとなりそうだった。
県道の分岐点からは前回とは違ってコースは大きく左に迂回する。高みに上がるとこれから歩いてゆくスカイラインがほとんど見渡せるようになる。快晴の空を背景にコニゴリや婆岳、三体連山などの稜線がくっきりと浮かぶ。2週間前とは比べものにならないほどの光景が広がっていた。コニゴリへの取り付け付近では突然○場さんが追いついてきた。予想していなかったがこれで総勢5名となったわけだった。里見坂辺りまでくれば高度はだいぶ上がり、祝瓶山や朝日連峰はますます神々しさを増して行くようだった。
里見坂を登り切り最後の急坂をのぼればコニゴリノ頭に着く。ここは広い雪原となっていて前方には三体連山の大きな山塊が迫る。その直前の丸いピークは婆岳だった。婆岳までは割合に平坦な稜線歩きとなる。雪庇に注意しながら進むと直下の急斜面にでた。登りきったところからトラバース気味に進むとまもなく婆岳だった。婆岳からは前方のピークが圧倒的な迫力で迫る。そこは三体連山の南端の一角だが、登ろうとするにはあまりに勾配が急で、さらに一段上部の雪稜には大きなクラックも走る。今日のアイスバーンではとても直登は無理だろうとなり、しばらく大休止をとりながら作戦会議となる。結局、地形図を見て南斜面のほうが勾配はなだらかそうだとなり迂回策をとることになった。
婆岳から南斜面に100mほど下り大きく回り込むと稜線までは難なく登れそうだった。南斜面からは吾妻連峰が真後ろになる。直下に見えるはずの米沢市の街並みはまだ雲海に覆われていてすっきりとは見えなかった。稜線に飛び出すとそこからは三体山がいよいよ間近に迫ってきた。ここからはまさしく絶景ともいえるような息をのむ展望が広がっていた。稜線の西側には宇津峠から続く有名無名の山々が連なり奥には飯豊連峰がどっしりと居座る。一方右手には朝日連峰、蔵王連峰、振り返れば吾妻連峰や磐梯山がぐるっと取り囲む。小国町のあたりを見渡せば横根スキー場も見えるほどだ。三体山まではまだ1147m峰や1183m峰などのピークがあるものの、アップダウンは小さく危険な箇所もなさそうだった。この大展望を楽しみながらの稜線歩きは快適の一言だった。1183m峰手前に大きな雪堤がありその東側は風もなさそうだった。休憩地点としては最高の場所でありボク達は大休止をとりながらランチタイムを過ごした。
休憩地点から三体山までは30分もかからなかった。たった1週間で積雪はかなり減っており、前回は雪に埋まりわからなかった山頂のキャラボクも今回は半分以上あらわになっていた。この先、合地ノ峰、柴倉峰、そして祝瓶山と稜線はまだ続いている。状況次第では合地ノ峰まで足を延ばす予定もあったのだが今回はここまでとする。両足は痙攣寸前になっていてボクの体力もすでに限界だった。山頂ではしばらく展望を楽しみながら、合地ノ峰は次回の楽しみにすることにした。
山頂からは三体沢の右俣を下る。これは山頂から直接三体沢へと滑り降りるルートであり、これ以上の滑降ルートはそうそうないものだ。最初は広い尾根だがまもなく斜度が急になるのを見計らい三体沢へと落ちてゆく。尾根の途上でみんな思い思いに下ってゆく様子を動画に納めてから沢底へと向かう。障害物などなかったのだがボクはこの広い尾根上でしたたかに転倒した。ボクの両足は半分攣っているらしく、制動が思うようにできなくなっていた。しばらくアルペンターンでごまかしながら下流へと下った。他のメンバーはそれほど疲れもないのか優雅に広い三体沢を楽しんでいる。途中で尾根に戻る案もあったのだがせっかくだから下れるだけ下流へと下ってしまおうとなり、どんどんと下った。最後はわずかにトラバースしながら右手の沢へと移る。山頂からは一気に600m以上を下ってきた。小休止をとったあとは再び右手にトラバースをしながら広い台地にでた。そこから濁沢までは平坦な雪原を滑ってゆくだけとなる。ここでは取り残しのキノコを採取しながらのんびりと下った。
濁沢の渡渉点からはシールを貼って不伐の森駐車場の雪原を登ってゆく。見渡すと今日歩いてきたスカイラインのほとんどが見渡せた。一時は三体山まで歩き通すのはほとんど不可能だろうと思えた長い稜線でもあった。それだけに振り返ってみる三体連山は感無量だった。県道の最高地点からは長井ダムまでスキーで滑ってゆくだけとなる。早くも陽は少し西に傾きはじめていた。日陰の部分も多くなったこともあるのだろう。なだらかな県道も今回は意外にも快適に走ったおかげで瞬く間に長井ダムが近づいていた。