【概要】
今回の大沢下りは総勢9名。大沢駅では快晴の空が広がっていた。久しぶりに天候の心配はなさそうな状況をみて、みんなの表情からは笑顔があふれていた。この天候ならば吾妻のツアーコースもかなりにぎわうだろうと思っていたのだが、結局、天元台から山に入ったのは我々だけだった。
山の天候は予報どおりとはゆかない。薄黒い雲が稜線一帯を覆ってしまい日差しはいつのまにかなくなっていた。気温もかなり低く、リフトに乗っていると凍えそうな寒さに体が震えるようだった。リフト終点での気温は氷点下15度前後だが、風の強さもハンパではなく、体感温度はかなり低いだろうと思った。上空には寒気がまだ居座っていていまさらながら厳冬期の厳しさを思うばかりだった。
視界もはっきりしない中だったが、人形石からはシールをはがし早速ひと滑りとなる。いつものように右寄りに回り込んで行くと雪は柔らかくなり、各人思い思いのシュプールを刻んで行く。予想以上のパウダーにみんな大満足である。短い区間ながらもこの心地よい滑りに今日の大沢下りへの期待がおのずと高まるようだった。シールを貼り直して、一路、明月荘へと向かった。
今がちょうど季節の変わり目なのだろうか。風雪に晒されたかと思うと、目の覚めるような青空が現れて、ときおり藤十郎や東大巓がまぶしいほどに輝いた。東大巓のすそ野を右手から迂回して行くと眼下に明月荘が見えてくる。その明月荘は2階の入口が全くわからなくなるほど雪に埋まっていた。全員がザックからスコップを取り出し、早速除雪作業を開始する。まもなく入口を掘り出したまではよかったのだが、今度はいくら叩いても押してもドアは開かない。幸い東側1階の窓から小屋に入ることができ、ドアを開放できたのだが、なんと内側からカンヌキがかかっていたのである。最近、避難小屋ということをわかっていない登山者が誤って鍵をかけたのだろうか。稜線の厳しい天候に比べると小屋の中は天国だった。温かい食べ物や飲み物が体にはいると自然と疲れもとれて行くようだった。今日は他に訪れる登山者もなく、静かな山小屋でのひとときを過ごした。
明月荘からはいよいよ大沢下りの本番が始まる。まだまだ天候の回復は見られず、クジラの大斜面までは厳しい北西の風に晒されながら突き進んだ。ドロップポイントに立つとようやく視界がでてきて、栂森や砂森のピークが前方に見渡せるまでになっていた。もちろん滑降ルートも一目瞭然だ。これをみてみんな一斉に斜面に飛び込んで行く。雪はもちろんディープパウダーで、どこでも自由自在に滑ってゆけるから楽しいばかり。厳冬期の吾妻連峰のすばらしさはこの雪質の良さにつきるといえそうだ。稜線では風の影響もあって雪面は堅く波打っていたのがウソのようである。ここまで厳しい寒さに耐えてきたボク達にとってはとっておきのご褒美だった。9名という大所帯でも全員が無線を所持しているのでそれぞれが自由気ままにコース取りをしてゆく。広い斜面が終わると今度は少し混み合う樹林を縫うように一路忠チャン転ばしをめざしてゆく。ここも深い雪を蹴散らしながらみんなスプレーを巻き上げてゆく。今回はコースからあまり逸れないように気を配ったおかげだろう。たちまち忠チャンの急斜面へと着いてしまった。
忠チャン転ばしは豊富な積雪のおかげで、急斜面はいつもよりも幾分なだらかに見えた。そして雪面は驚くほどフラットだった。ボクは撮影のため一足早く沢底へとおりていったが、ノントラックの雪面にトレースを刻みながらの浮遊感はまさしく至福の一言。みんな全身にスプレーを浴びながら次々と深い沢底へと滑り込んで行った。下りたった沢底は渋川の渡渉点。もちろん林道の道形などはどこにも見当たらない。いつものようにここからはシールを貼り直して砂盛のコルをめざした。
砂盛のコルに立つと眼下に吾妻放牧場が見えた。遠方の平原は米沢市街地だった。標高が下がったおかげでいつのまにか風は治まり、まぶしいくらいの日差しが降り注ぐまでに天候が回復していた。砂盛の北斜面も無木立のとっておきのゲレンデである。みんな思い思いに斜面に飛び込んでゆくと、ここから茂皮平まではほとんどノンストップ状態となる。途中、緩斜面のためわずか下りラッセルを余儀なくされたが、斜度が出てくるともうスキーは止まらなくなっていた。そこはちょうど九十九折りの林道。雪の状態によってはこの林道を絡めたほうが楽なのだが、今日はあまりに雪質がよいので、久しぶりに右よりの尾根伝いに滑り下りて行く。林道は一切通らないここのツリーランは、まさに極上といえそうなほどに雪がよく、瞬く間に大小屋川の橋まで滑り降りてしまった。滑り出してからここまでは数分もかからなかった。林道経由の後続隊と合流後は林道を滑って吾妻山麓放牧場へ向かった。
牧場の最上部からはのんびりと下ってゆくばかりとなる。楽しかった一日がまもなく終わろうとしていた。ボク達はここで最後の大休止だ。心地よい疲れと満足感に浸る一時はなにものにも代え難い時間だった。しばし談笑に花が咲いた。眼下には広々とした斜面が延々と続いていて、牧歌的な風景が広がっているところだが、早くも天候は下り坂のようだった。雪雲が上空を一面に覆っていて、稜線はすでに見えなくなっている。いつのまにか津々と雪が降り始めていた。放牧場一帯はスノーモービルのトレースが入り乱れていて、今回は下りラッセルの心配もなさそうである。林道にでればあとは高速道路をほとんどノンストップとなる。心地よい微風を全身に受けながらスキーに乗っていると大沢駅は目前に迫っていた。
大沢駅 |
明月荘 |
砂盛のコル |
砂盛のコル |
渋川源頭 |
渋川源頭 |
忠チャン転ばし |
忠チャン転ばし |
忠チャン転ばし |
忠チャン転ばし |
忠チャン転ばし |
砂盛北斜面 |
クジラの斜面 |
砂盛北斜面 |