南小国地区の片貝集落をすぎるとまもなく中田山崎集落に着く。酒屋さんのバス停が登山口になっていて向かい側の駐車スペースに車を止めた。一帯は盆地特有の濃霧に覆われている。気温も低くどことなく寂しい雰囲気が漂う。時間が早いこともあり登山者は誰もいないようだった。
水路の左岸側を進み、砂防ダムの堰堤下から対岸に渡ると大境山頂と書かれた標柱が立っていた。用水路なのか杉林の中を立派なコンクリートの蓋が続いている。100mほど先にも進路を示す標柱があり迷う心配は少しもなかった。ちょっとだけの泥濘地と小川を通過。湿地には昨日のものと思われる多くの踏み跡が残っていた。
山道はいきなり急坂から始まる。冷え切っていた体は一気に温まってゆき、傾斜がゆるやかになる頃には防寒着は不要となっていた。付近はナラとブナが混在する疎林帯。標高はそれほどでもないのに紅葉はかなり進んでいた。登山道には多くの落ち葉が降り積もりカサカサとした乾いた音が響き渡った。30分ほどすると上空に青空が見えるようになる。早くも雲海から抜け出したらしく、当然ながら雲の上は快晴だった。傾斜が落ちて緩やかになったところで軽い朝食をとった。
勾配が再び増すようになると登山道の両側は次第に沢に挟まれながらやせ尾根になってゆく。水音が絶えない。右手の沢がやけに近くいつでも水が汲めそうなほどだ。標高600付近で登っていた尾根がしだいに消滅してゆき、道は少しヘツリながらトラバース気味に進む。枯沢を渡り登山道が左手に移るとさらに傾斜がきつくなってゆく。付近は灌木帯となり岩場も目立つようになると視界が一気に広がった。
見渡す限り雲海が広がっている光景には息を呑むようだった。左手から朝日連峰、蔵王連峰、吾妻連峰と続き、栂峰や飯森山の右手は飯豊山だった。見慣れた展望と違うので最初はとまどったのだが、冠雪した飯豊山を基点にすると飯豊連峰の様々な尾根やピークが判明した。850m標高点付近の平坦部に乗り上げるとそこは県境の稜線だった。たいした標高でもないのにかなりの高山帯を歩いているような不思議な感覚がたえずつきまとう。コースは稜線の西側をトラバースしながら大セド峰(874m)の北西側を巻くようになる。稜線の西側にはまだ日も射さず、朝露に足下が濡れてしまう前にスパッツを装着した。次第に下り坂となり前方には大境山の一角が見えてくる。やがて水場ともなっている沢を通過するとここからは失った標高差を取り戻すかのような急坂となった。
大境山から東に延びる稜線に飛び出すと再び視界が広がった。岩肌もあらわな正面の急斜面は大境山の南東斜面で左手には枯松山が聳える。右奥の大きな山塊は杁差岳のようだ。飯豊山から延びる主稜線が一望となりその大展望に圧倒される。時間はまだ午前9時。雲海はまだ下界を覆ったままで、主だった高山だけが雲の上に姿を見せているだけだった。ここまでくれば大境山は目前で紅葉に彩られた山稜歩きは快適だった。急坂が一段落すると平坦地に小さな池がある。水面は快晴の青空を反映してまるで山上の宝石のような美しさを見せている。この後大境山までは小さなアップダウンがあり2回ほどニセピークに騙される。ずいぶんと気を持たせる山頂だった。
山頂には測量杭と二等三角点があるだけで殺風景としていた。しかし山頂からの展望は絶景のひとことだった。まさしく遮るもののない360度の展望が広がっている。広い海原を思わせるような雲海ということも大きな一因なのだろうが、このような感動は久しく味わったことはなかった。一通り写真を撮り終えてから今度は地図を広げてみる。朝日連峰の大朝日岳、蔵王連峰のザンゲ坂、吾妻連峰の家形山とそれぞれ特徴的な山を探すとあとは芋蔓式に判明する。梶川尾根から頭を少しだけ見せているのが北股岳で丸森尾根の一番高いピークは地神山。視線を右にずらしてゆくと小さいながら頼母木小屋も見える。西俣ノ峰は残念ながら枯松山に隠れて見えなかったが、光兎山や鷲ガ巣山は意外な近さに聳えている。大朝日岳の右手に見える小さなピークは何だろうと目を凝らしてみるとそれは祝瓶山だった。大朝日岳とほとんど重なるように見えていてなにか妙な感じがする。とすると右手の明瞭な三角錐は御影森山か。飯豊本山の真下に見えるこんもりとした山は倉手山だった。雲海が少しずつ晴れ上がっていてようやく小玉川の集落もうっすらと見え始めている。中央の壁のように見える大きな山の連なりは宇津峠の山並みのようだ。杁差岳の右奥には二王子岳も見える。あまりに多くの山並みがぐるっと取り囲んでいるためか視点が定まらない。一方、大石ダムの後方には新潟東港が見えていて、北西方向には荒川や国道113号、関川村などが見えた。この大パノラマはいくら眺めても見飽きることがなかった。
展望をこころゆくまで堪能し10時に下山を開始する。日差しがかなり強くなっていて気温も徐々に上昇してきていた。今日は一人だけの大境山と思っていたらまもなく大勢の登山者とすれ違うようになる。5、6人のグループが3団体、それに単独や二人連れ、3人組なども加えると全部で20名近くもいたのだろうか。こんなに混み合う山だとは全然想定もしていなかったので唖然とするばかりである。マイナーな山だろうと考えていたのはボク一人だけだったようである。その後はいっそう輝きを増してきた紅葉を愛でながら下山路を楽しむことにした。
登山口の標識(右手にバス停がある) |
右手の堰堤を渡ってきました |
日差しが降り注ぎます |
下界は雲海です |
紅葉が眩しい |
小玉川地区は雲の中(右奥は飯豊山) |
雲海の向こう側は宇津峠の稜線が |
大朝日岳から以東岳の連なり |
ようやく大境山が姿を現しました |
大境山の南東斜面(奥は枯松山と杁差岳) |
飯豊本山と倉手山が見えます |
山頂はもう少し奥です |
登路を振り返ります |
山頂直下にきれいな池がありました |
まもなく山頂です |
飯豊山から杁差岳の稜線(手前は枯松山) |
山頂に到着です |
北西方向には荒川や関川村高瀬温泉 |
西側の向こう側はは新発田市と新潟東港 |
杁差岳が眼前に |
光兎山(左)と鷲ガ巣山(中央奥)の山並み |
登山者が大勢登ってきました |
紅葉の尾根を下ります |
これから登って行く登山者 |