【概要】
久しぶりにテントに泊まりたくて大日杉に向かう。豪雨による土砂崩れのため通行止めとなっていた大日杉の林道は、前日の夕方になり解除となったばかりだった。途中で雨が降り出してきたが集落が途切れるあたりから曇り空となる。大日杉の大駐車場はすでに満車状態で大型バスもとまっている。まだ福島県の川入登山口からは入山できないため、この週末の大日杉は激込みの様相だった。
ザンゲ坂付近から再び細かい雨が降り出してくる。この分だと梅雨明けはまだまだ先かも知れないなと思いながら雨具を着た。視界はない上に鬱陶しくて気分は滅入る一方だった。途中ですでに10名近く追い越していたが別に急いでいるわけではなかった。天候さえ良ければ本山小屋までゆく予定もあったがこの雨では切合小屋に早めにテントを張ってしまおうと考えていた。地蔵岳では20数名の団体が休んでいて、タダでさえ狭い山頂は芋の子を洗うような混雑ぶりである。腰を下ろす場所もなく立ったままでおにぎりなどを食べた。
稜線にでても雨は降り止まなかった。あいかわらず登山者は多いものの、予報とは裏腹の天候にみんなの表情は沈みがちだ。ボクは雨に濡れた花々の写真を撮りながら黙々と歩いてゆくばかりだった。御坪で少し長めの休憩をとってから種蒔山への登りに取り付いた。
種蒔山直下の水場はまだ多くの雪渓に覆われていた。スノーブリッジもだいぶ薄くなっていて少しヒヤヒヤしながら対岸へ渡った。切合小屋がまもなくだったが飯豊本山は雨に煙っていて見えなかった。この辺りではまだヒメサユリが花盛り。他にはニッコウキスゲ、イワハゼ、ノウゴウイチゴ、ハクサンコザクラ、ウメバチソウなどが咲く。
切合小屋には6時間ほどかかって到着した。意識的にスローペースで歩いてきたとはいえ、疲労感はいつもとほとんど変わりがなかった。テン場には3張りが設営中で意外と空いている。雨は小降りになっていたがまだまだ降り止む気配はなかった。テントの設営が終わってからテン場の申し込みをした。切合小屋は次々とやってくる登山者で大賑わいのようだった。水場にも大勢が並んでいて水汲みにも時間がかかった。水の確保を済ませればとりあえずビールで祝杯だ。雨のテン場をながめていると自然と気持がほぐれてゆく。外は悪天でもテント内は狭いながらも楽しい我が家。重荷を背負ってきた甲斐はありテントの良さは格別だった。
夕方になり雲がめまぐるしく動いていた。霧雨は降り続いていたが小屋近くの高みに登ってみると、上空の雲が割れてその雲間からは茜色を帯びた青空がわずかながら見えていた。大日岳が時おり雲の間から少しだけ顔を出したりした。ラジオによるとようやく東北地方の梅雨が明けたようだった。明日はきっと晴れるだろう。肌寒いくらいの風が流れていたが久しぶりに眺める山の夕景にしばらく見入っていた。その夜、テントの入り口を少しだけ開けてみると、天の川が南北の方角に輝いていて、満点の星々が夜空を埋め尽くしていた。
翌日は3時頃に目を覚ました。疲れていた割にいつまでも寝付けなかったのだが、それでもいつのまにか眠ってしまったようだった。煌々とした三日月が東の空から登っていた。ヘッデンを灯しながらコーヒーをドリップしラーメンを作りはじめる。ほかには果物と漬け物だけの朝食だったが、これでも十分すぎるほどのエネルギーが満ちてくるようだった。
4時半を過ぎてからテン場を出た。東の空にはまだまだ雲が目立つものの上空を見上げると一片の雲も見当たらなかった。下界は雲海に隠れて見えなかった。東の空からご来光が始まろうとしていた。日の出は4時45分。山の上から荘厳なご来光を見るのはいつ以来だろうか。草履塚の雪渓が朱に染まり周りの灌木が一斉に光り輝いている。久しぶりに味わう感動の時間帯だった。
早朝のひんやりとした空気感が心地よく稜線歩きは快適だった。草履塚からは暗いうちから歩き始めたと思われる昨日の団体が、姥権現で数珠つなぎのように列をなしているのが見えた。幸いに御秘所の手前で追いつきボクは先に行かせてもらった。その先では早くも御前坂を下ってくる多くの登山者とスライドした。
本山小屋には切合から1時間10分で着いた。まだ6時前という時間帯が信じられないほど周囲には明るさが広がっていた。小屋前では多くの登山者で賑わいを見せている。もちろん中高年は多いのはいつものとおりだが中には高校生らしい若い人もかなりいるようだ。8月に入り飯豊連峰はようやく本格的な夏山シーズンを迎えているようだった。
飯豊山への道中ではイイデリンドウが目立った。イイデリンドウは溢れるばかりの朝の光を浴びて、一斉に開花しようとしているようだった。御西の向こう側には秀麗な大日岳がそびえ立っている。雲海から顔を出しているのは大朝日岳と中岳、西朝日岳で、その後ろにうっすらと見えるのは月山のようだった。素晴らしい光景だった。ダイグラ尾根の稜線は朝日を浴びて緑が眩しいほどに輝いている。陰影は深々として山襞がくっきりと浮かび上がる。梶川尾根には綿帽子のような白い雲が浮かんでいるのも夏山らしい風情があってなかなかいいものだった。
飯豊山を後にすると切合小屋までは写真を撮りながらのんびりと下ってゆく。草履塚で休んでいると意外な人々と出会ったりした。このグループは丸森尾根から大日杉への縦走らしくみな大きなザックを背負っている。体力が有り余っているようなこのメンバー達とは山スキーや山岳会の話などでしばらく花が咲いた。
切合小屋には8時半に戻った。宿泊した人々はほとんど出払ってしまい閑散とした雰囲気に包まれていた。テン場は結局6張りだったのだが残っているのは2張りだけとなっていた。ボクはしばらくテント撤収に時間を費やした。日差しは強く干していたテントやシュラフなどは瞬く間に乾いていった。
切合小屋を出ると強い日差しが降り注いだ。汗は全身から吹き出していた。急に気温が上がったためだろうか。新潟側から湧き上がった雲はたちまち広がりはじめ、今まで見えていた飯豊山も雲に隠れてしまっていた。反面、日差しを遮ってくれたおかげで凌ぎやすくなったのはいうまでもない。時々沢筋から吹き上がる涼風は細胞の隅々まで生き返るような心地よさがあった。この風があるならばそれほど難儀することもなく今日は下山できそうな気がした。この好天に誘われたかのように今日も大日杉からは次々と登山者がやってきていた。
大日杉を出発です |
雨の御坪で大休止しました |
種蒔山直下の水場はまだ雪渓に覆われていました |
切合小屋直下の雪渓(今年は問題ありません) |
切合小屋に到着しました |
テン場に設営完了 |
くつろぎのひとときです |
まずはこれ! |
夕刻になりようやくテン場の上空に晴れ間がでてきました |
ご来光が始まりました(草履塚の登りで) |
日の光がまぶしい! |
草履塚付近 |
雪渓も輝いていました |
草履塚と本山 |
にぎわう姥権現 |
御秘所 |
御西(御秘所付近から) |
御前坂直下 |
大朝日岳と月山が見えました(飯豊山山頂から) |
飯豊山 |
早朝のダイグラ尾根 |
本山小屋へと戻る途中 |
草履塚から大日岳 |
テン場と飯豊本山(右奥) |
雲が湧く切合小屋 |
御沢別れから切合を仰ぐ |