山 行 記 録

【平成25年2月11日/吾妻連峰 天元台〜大沢下り】



風雪の明月荘前



【メンバー】西川山岳会7名(柴田、上野、大江、荒谷、神田、佐藤節、蒲生)
【山行形態】山スキー、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】中大顛1,963.6m 東大巓1,927.9m
【地形図】(2.5万)天元台、(20万)福島
【天候】雪(風雪)
【参考タイム】
天元台リフト終点(北望台)9:50〜中大巓10:40〜人形石11:00〜明月荘13:40〜渋川16:00〜放牧場上部林道17:50〜大沢駅19:30

【概要】
 大沢集落は深い雪にすっぽりと埋まっていた。通常は集落内の道路に車を止めさせてもらっているのだが、準備をしていると地区長らしき人が近づいてきて、路上駐車ではこれからの除雪作業に支障があるから駅の構内にとめてくれとの指示を受ける。ごもっともなことゆえ5台を大沢駅に、もう1台は支障のない場所を指示してもらい路上駐車をした。そんなこんなで電車の発車時刻も近づいていたことから慌ただしいなかでの列車乗車である。米沢駅からは例によってバスを利用して白布温泉湯本駅へと向かった。

 今日は朝から大荒れの天候だった。上空にはかなり強い寒気が入っていて、予報によると日本海側はこの冬最悪ともいえる大寒波の直撃を受けそうだった。悪天時における2000mの稜線がどうなるかは容易に予想できたのだが、一方では山はいってみなければわからないということもある。

 この1週間で積雪はかなり増えており、北望台からは膝ラッセルから始まった。柴田さんのスーパーファットでもそんな状況なのだ。心配していた天候は、下界よりも雪は小降りになっていた。しかし、意外と良くなるのではないかと思ったのもつかのまで、中大顛から人形石に向かう辺りから天候が悪化し始めていた。人形石は風雪だった。かろうじて人形石を示す標柱はあるのだが、大きな石のかたまりが見えなかった。この地点が引き返すか先に進むかの分岐点となる。視界もないので悩ましいところだったが、午後から天候は少し回復するかもしれないという、今になってみると何の根拠もない希望的観測からツアー続行が決まる。GPS頼みとなるのは当然だった。幸い全員がGPSと無線を携帯しており、少々のトラブルがあっても迷うことはなさそうだった。そうと決まればとりあえずシールをはがして人形石の東斜面をひと滑りしようか。しかしホワイトアウトでの急斜面ほど危険なものもない。安全地帯を進んだためにほとんど滑降らしい滑降にはならなかった。この時点での視界は50mぐらいか。それもうっすらと藤十郎がわかるぐらいしかない。猛ラッセルは7名の交代で延々と続いた。

 コースは弥兵衛平の西端でひとつのピークを巻く。その鞍部はいつもの休憩地点だがここで現在の時刻を聞いて正直驚いてしまった。出発してから1時間ぐらい経ったぐらいにしか考えていなかったのだがすでに12時を過ぎているというのだ。小屋はまだまだ先だと言うのにもう2時間以上経っている。モンキーラッセルを黙々と続けている間にも時間は相当経過していたのを知った。休憩もそこそこだった。ここでシールを貼り直してラッセルの再開となる。ラッセルは少しぐらい楽になるかと思われたが完全に期待はずれだった。膝ラッセルが時々膝上か股下までとなり、こうなるとさすがに簡単には進めなくなる。普段は真っ平らな弥兵衛平も、今回は地吹雪で激しく波打っていて、浅いところでも膝下、深いところでは股下ぐらいのラッセルになるのだった。ホワイトアウトでは明月荘を探すにも困難をきたした。気づいたときには弥兵衛平の東端まで進みすぎていた。明月荘をやっとの思いで見つけだしのはかなりたってからだった。

 明月荘の入り口はすべて雪に埋まっていた。しかし小屋の入口を掘り出している余裕はなかった。ボク達は明月荘と雪壁との窪みの地面までおりてゆき小休止をとることにした。ここは一種の雪洞のようなものでようやく一息をつくことができた形だった。この時点で13時40分。天候や積雪に問題がなければ16時頃には大沢駅まで下れる時間だったが、今日は下山時刻が何時頃になるのかは皆目見当がつかなかった。わかっているのは途中で日没になることだけだった。そのため、いつでも取り出せるようにここでヘッデンを全員が準備した。天候は昼前よりもむしろ悪くなっていて、ますます悪化の兆しが伺える。想定していた以上の猛吹雪が吾妻連峰を吹き荒れていた。ラッセルによる発汗のためか、ボクのゴーグルは内部の水蒸気がガリガリに凍り付いてしまい、ほとんど役立たずとなっている。今回は替えのゴーグルもザックにいれていたが取り出すのも面倒だった。激ラッセルを続けてきて疲労困憊状態だった。これは他のメンバーも同じだったろう。とりあえずの目標は少しでも先へ進み標高を下げることが一番か。

 明月荘からもシールのまま進んだ。地吹雪はいっこうに止む気配はなかった。普通はシールをはがして滑降に移る場面だが、今回は激しい地吹雪のうえに雪が深すぎるため、クジラの大斜面もシールで歩くしかないという判断である。視界がない中でのスキー滑降は即、遭難に結びつくのは明白だった。小屋からは一直線に進むだけだったが、知らず知らずのうちに左に大きく回り込んでゆく。それを修正しようとして今度は右に行き過ぎたりした。GPSで逐次チェックしているにもかかわらずである。クジラの大斜面への滑降ポイントに出るだけでも右往左往した。いわゆるリングワンデルングにおちいりそうだった。

 クジラの大斜面は広々としたいるだけに厳しい吹きさらしとなっていた。ホワイトアウトでは現在地を判断するのも容易ではなくGPSのルートだけを頼りに進んだ。そうしているうちにボクの両足が攣ってしまったりした。ラッセルのツケが早くも回ってきたのかと嘆いてみてもはじまらないが、痛みが治まるまではかなりの時間がかかった。

 いくらかでも標高が下がったためだろう。大斜面の末端近くまできたところでようやく風が弱くなりはじめていた。視界も出てきたことからここでシールをはがすことにした。やっとスキーで滑れる。大沢下りの超激パウの始まりだった。渋川までは結構な斜度もあるから深雪でもスキーは走る。これで2時間程度の時間短縮は図られそうだった。忠チャン転ばしまでは雪崩も要注意だった。特に木立のない急斜面が何カ所かあり、トラバースする場面では足元から40センチぐらいの厚さで表層が崩れていったりする。気が抜けないのは忠チャンも同様だった。幸いにトップの柴田さんが表層を崩しながら進んでくれたため、後続の危険はほとんどなくなったが、この忠チャンで雪崩れるのを見たのは初めてだった。

 下り立った所は渋川の横断地点。ここからは林道をたどりさえすればいつかは大沢駅に着けるのだ。この地点での標高はおよそ1350m。吾妻連峰の稜線から600mも下りたことで天候は穏やかなものに変わっていた。時刻はちょうど午後4時。薄暗くはなっていたがまだ1時間以上は明るいはずだ。栂森の上空の一部には青空も見えた。ここにきて安心感が広がったのかみんなの表情にようやく本来の笑顔や明るさが戻ったようだった。もう危険箇所はないという安堵感とともに小休止をとる。ザックの内部には大量の雪が吹き込んでいた。ポカリスエットを入れておいたペットボトルは真っ白く凍り付いてカチンコチン状態。もっとも冷たいものを飲む気にもなれなくて、テルモスのお湯で冷え切った体を温めた。ここでシールの張り直しとなったが、厳しい寒気のせいかシールの糊は少しも効かなくなっていた。

 大沢下りも15〜16回目ぐらいになるが、林道をそのまま歩くのは何年かぶりだった。ここからもラッセルが続いたが、幸いにスキー靴程度のラッセルに落ち着いてきていた。大きく砂盛を回り込み、少し斜度がでてきたところでシールをはがした。途中で何回も歩く場面はあったが、シールをはがしたのは結果的に正解だった。ゆるやかでもスキーは意外と走った。トップだけはラッセルでも、セカンド以降はスキーが滑るので体力の消耗が全然違った。日没となったのは林道のつづら折りをショートカットして茂皮平を過ぎたあたりからだった。西の空は美しい夕焼けに染まっていた。真冬の夕暮れはつるべ落とし。それからはまたたくまに暗くなっていった。真っ暗い中をしばらく歩き続けたが、その暗さにも耐えきれなくなってヘッデンを取り出したのは吾妻放牧場付近だった。見あげると星空がまたたいており、これから向かう方角には街の明かりがほんのりと夜空を照らしてているのが見えた。

 牧場内の林道はスキーでの歩き半分、スキー滑走半分といったところだろうか。それでも順調に大沢駅は近づいており、カタツムリ山荘への小さな斜面を登り切ったところで少し長めの休憩をとることにした。大沢駅までは残り30分の地点だった。ここまで昼食も休憩らしい休憩も取っていなかったので口に入れるものがなんでも美味しかった。

 大沢地区の小さな集落は夜の闇に包まれていた。大沢駅が近づくにつれて家々の窓からは小さな明かりが灯っているのが見えた。大沢駅到着は19時30分。20キロ近い距離を猛ラッセルしながら歩き通した今回の大沢下りがようやく終わった。

 ※後でわかったことなのだが、朝方、駐車場所を指示してくれた住民の方が、下山したメンバーの車までやってきて、ボク達のことを心配してくれていたことをメンバーK嬢からのメールで知った。
  そのやりとりの一部から・・・・

住民 「警察に 今、捜索願を出そうとしていたところだ」
K嬢 「ご心配をおかけして 済みませんでした」
住民 「この時間では・・・」
K嬢 「・・・・」
住民 「大沢駅に米沢駅から入る最終列車を待ってからにしようかとも話し合っていたところだった」



北望台から登り始めます


風雪の人形石


風雪の人形石


風雪の人形石


藤十郎の少し先


ホワイトアウト


ホワイトアウトの明月荘


中チャン転ばしの上部付近


大沢駅にて


大沢駅にて

※ほとんど上野さんの写真を使用させていただきました


ルート

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