柳ノ沢は肘折に抜ける国道途上の最終集落で訪れるのは今回が4回目。除雪終了地点にはボク達の車が2台だけだった。雪がまだ降り出す気配はなく穏やかな高曇りといった山日和の朝だった。駐車地点から500mほど道路を進み登りやすい地点から杉林に入る。30センチほどの新雪があってはじめからラッセルが続く。この周辺は月山と葉山にはさまれた狭間にあって名だたる豪雪地帯の一角でもある。積雪は豊富でどこでも登って行けそうだったが、最初は樹林が密集していて、さらには林道の道形がでてくるとそこからショートカットするのに手間取ったりした。ボクは体調がいまひとつで、ラッセルしていてもすぐに息があがった。ラッセルといっても3名での交代だから楽勝なのだが、これが単独ならば標高差はたいしたことはないとはいえかなり難儀しそうである。急斜面を前にしてかなりの汗を搾り取られてしまった。この急斜面は木立もなく、小さなゲレンデのようだったが、今回のように積雪が多い場合には雪崩れる心配もありそうだった。なるべく危険箇所を避けながら登り、斜度が少しゆるんだ地点で斜面の反対側にトラバースした。そこを過ぎると明瞭な尾根となり、雪崩の危険はほとんど無くなった。地形図の717mピークは気づかないうちに通過しており、見あげると上ノ山の山頂部が前方に現れた。この付近はブナの疎林帯となっていて実に心地よい区間だった。どこでも滑ってゆけそうで、自由なツリーランのイメージが膨らんでくるようだった。やがて斜度が落ちてくるとそこが上ノ山の山頂だった。ここまでちょうど3時間。3名でのラッセルは結構きつかったがそれだけに登り切った満足感は格別だ。天候はまずまずでツェルトを張る必要もなかった。山頂で休んでいる間、束の間だったが山岳会のメンバーと無線がつながったりした。この週末は会の山行で7、8名が朝日連峰の竜ヶ岳に入山していて、現在山頂から下っている途中らしかった。
食事が終わる頃から天候が変わり始めていた。小雪が舞いはじめたと思ったら、たちまちのうちにガスが一帯を覆っていた。シールをはがしていると、突然、人の気配がして振り返った。ボク達よりも1時間30分遅れで登り始めたという後藤さんが登ってきたところだった。人の気配など全くしなかっただけに、この予想もしない突然の来訪者には正直驚いてしまった。ホント、幻でもみているような塩梅だったのだ。こんなことから山頂からの滑降は4名で下ることになった。山頂部は南北に長くなっていて、少し北に進んだ地点から滑り出す。見下ろすと斜面は結構な斜度があって身震いしてくるほどだ。さらに積雪も半端ではない。転倒すれば一人で起き上がるのはかなり困難で、トレースでもなければスノーシューやカンジキで下るのはまず不可能だった。当然ながらここからは激バウの始まりだった。反対に斜度がゆるむとほとんど滑りにならなかった。みんなは雄叫びをあげながら休みもせずに次々と下ってくる。登ってきた尾根とは違い、樹林はまばらで、ところどころに自然のゲレンデのような広がりもあってただ陶然とするばかりである。こんな斜面がずっと続いていてくれたら、と思っていると眼下に杉林が見えてきた。林を抜ければもうそこは道路らしく、耳を澄ませば川の流れも聞こえてくるようだった。標高差が600mにも満たないのだからしかたがないが、3時間もかかって登ったところもスキーで下ればあっという間である。道路は意外と勾配があってスキーがよく走った。国道といっても冬季閉鎖されたこの山奥では人の気配は全くなく、薄暗さを増した冬空からは津々と雪が降り続いた。
ラッセルがきついです |
771m峰付近 |
山頂への最後の急坂 |
山頂が目前です |