林道終点には車もなくほかに登山者はいないようだった。山日和に恵まれそうな初秋の一日、葉山へのメインコースというのに少し寂しい。9時20分登山口を登り始める。杉林を通り過ぎて沢を1箇所横断すると尾根に取り付く。最初から怒濤のような急坂がしばらく続く。先日までの猛暑であれば登りたくはない急坂だが、ここ数日で季節はすっかり入れ替わってしまい、今日も朝から涼しい風が吹き渡っていた。登りが一段落すると視界が開けて滝見台という踊り場のような地点に着いた。ここから右手奥に糸滝が見えたが、日照りが続いたためか水の流れはなかった。
登るにつれて周囲のブナ林が顕著になってゆく。灌木の一部は色づき始めていたが紅葉にはまだまだ早いという印象である。さらに登り続けると清水の標識がある。この辺りまでくるとかなりの高度感も出てくる。見通しもきくようになって山登りの爽快感を感じられるところだ。前方を見上げると稜線の左手に烏帽子岩のトンガリが見えた。
梨木平の標識を見るといよいよ稜線が間近となった。傾斜はさらに増してきて、この最後の急坂はまるで祝瓶山を彷彿させた。烏帽子岩の基部の通過は急峻なためにロープが張ってあり、慎重に進むと稜線にひょっこりと飛び出した。
登りがきつかっただけに登り切った爽快感は格別だった。一気に視界が開けて高山に登ってきたのを実感する。稜線の向こう側は肘折温泉だろうか。烏帽子岩からは富並川の源流を取り囲むように、なだらかな稜線が葉山へと続き、葉山からは大ツボ石、大僧森、小僧森へと南に長い稜線を延ばしていた。一方ではガスが次々と湧いていて山容が不明瞭だったが、それだけに幻想的な光景ともいえるようだった。
小休止を終えて葉山へと向かうと、これまでのヤセ尾根とは一変しおだやかな稜線漫歩といった雰囲気となった。まもなくお花畑という標柱がたつ湿地帯となり木道が現れる。花の時期は過ぎ去り今はオヤマリンドウしか見あたらない。湿地帯から見上げると奥ノ院の神社が小さく見えた。
ブナ林が再び現れ、沢状の山道をひと登りすると草原地帯に飛び出した。この辺りは山スキーで喘ぎながら登ったのを思い出す。再び湿地帯を縫ってゆけば奥ノ院の分岐点で、ここには半分朽ちた標柱が横たわっている。葉山神社の奥ノ院はのちほど休憩をとることにしてとりあえず葉山本峰を往復してくることにした。
葉山の山頂到着はちょうど12時。登山者の姿はなくひっそりとしていた。積雪期では全方位を見渡せるこの葉山本峰も、いまはまわりを灌木に囲まれていて残念ながら展望はない。写真だけ撮って奥ノ院へと引き返した。葉山神社の建つ奥ノ院には夫婦連れがひと組休んでいた。十部一峠から登ってきた人たちで、結局今日の登山者は3名だけのようだった。この奥ノ院からは月山や朝日連峰などの展望が素晴らしいのだが、あいにく今日は雲が多くてほとんどの山並みはみえなかった。ボクは軽い昼食をとってから奥ノ院を後にした。
下りの途中で座禅石というのがあり立ち寄ってみることにした。すぐ目の前だと思ったのだがどんどんと下りてゆくと絶壁の末端にでた。すごい高度感で足がすくむようである。そこから覗くと人一人が座れるだけの岩頭が飛び出していて、上から見ると空中に浮かぶテラスにもみえた。しかしロープもないのでそこに下りるのは困難だった。
あとはのんびりと歩いてゆくだけだったが、烏帽子岩の上空には雨雲のような黒い雲が居座っていて、午前中のような爽やかな秋空はいつのまにかなくなっている。薄暗さが辺り一帯を覆い始めて天候は早くも下り坂のようだった。
登山口 |
糸滝には水がありません(滝見台) |
少しずつ色付きはじめていました |
烏帽子岩(左奥)が前方に |
お花畑の湿原 |
オヤマリンドウ |
木道が続きます |
葉山(左奥)と奥ノ院(右) |
葉山から仰ぐ奥ノ院 |
烏帽子岩(右)に厚い雲がかかりはじめました |