駐車場から舗装された賽ノ碩遊歩道を15分ほど歩き、末端からは標識に従って濁沢への急斜面を下りてゆく。ここは170mほども下るから帰りは結構つらい登り返しとなる。沢底の標高は約1110m。濁沢にかかる橋を渡って対岸へと進み、さらにその先で丸山沢にかかる橋を渡ればかもしか温泉跡につく。ここで先客の夫婦に追いついたが同じようにロバの耳に向かうようだった。
ここからは草刈りがされていないので少し藪っぽいが、温泉の流れる丸山沢を横断すると藪から解放されて見通しのよい新噴気口に出た。噴気口への急斜面を登ると右手の高見に若者が数人たむろしていてこちらへと手招きしている。思わずその方向に誘われそうになったのだがなんとなく様子が違う感じがした。昭文社の登山地図では噴気口の左手が登山道なのである。若者達はかもしか温泉の露天風呂にいるのだとわかりボクは左手へと方向転換した。藪を少しかき分けてゆくとまもなく踏み跡があり岩場へと取り付いた。そこは沢状につけられた見上げるほどの急斜面となっていた。細いロープがぶらさがっているのだが、滑りやすくてここは落石の恐れがあるところだった。
先ほどの二人連れは途中で休みをとったのか、あるいは道に迷ったのか不明だったが、振り返っても姿は見えなかった。登り詰めたところが狭いテラスになっていて左手には不帰ノ滝が見えた。そこからも岩場が続いているが足場は比較的安定していた。踏み跡がまだないところを見ると今日のこのルートを登っている人はまだいないようだった。右側はすっぱりと切れ落ちている急峻な崖だが、ところどころにロープもあり足場やホールドもしっかりしているのでそれほど危険な感じはない。また岩場にはペンキ印もあって道迷いの心配もなかった。ペンキと踏み跡を頼りに登ってゆくとやがて見晴らしのよい尾根に出た。ここには横倒しになった標識があり前方には大きなドーム状の岩峰と右手にはロバの耳も見えた。その手前に荒々しい岩壁が立ちはだかっているようだった。
ザレた斜面を登ってゆくと灌木帯に入ったが、わずかな踏み跡だけが頼りなので五感を最大限に使う必要がありそうだ。大きな岩峰から右手の灌木帯に進むとルンゼのような岩場が現れた。ロープにつかまりながら岩壁の上に出ると、前方に五色岳の大きな稜線があり、ピークを歩いている登山者も見えた。常には見られない光景に思わず興奮した。
低い灌木の間を縫ってゆくとしだいに樹木はなくなってゆく。この辺の岩登りはフリクションがきいて実に快適だ。少し大げさに言えば穂高連峰を歩いているようでもありアルペンムード満点なのである。ところどころにしっかりとした案内の標柱がたっているので不安感もない。ロバの耳岩への登りは思ったほどきつくはなかった。ピークを乗り越えると前方にはもう熊野岳の頂稜が見えた。最後の岩場の急坂をジグザグに登ってゆくと傾斜ががくんと落ちる。左手にはエメラルドグリーンのお釜があり、刈田岳や馬ノ背を歩く豆粒ほどの登山者が大勢見えた。緩斜面をのんびりと歩いてゆくと北蔵王縦走路と合流する。熊野岳はいろんな方角から集まってきた多くの登山者で賑わっていた。稜線を流れる風は冷たいほどで、見上げると澄んだ秋空が広がっていた。この心地よい山頂でしばらく周囲の山並みを眺めながら休憩をとった。
北蔵王縦走路に向かうと登山者はほとんどいなくなった。そしてガスが上がってきたと思うとまもなく一帯を覆ってしまい視界はほとんどなくなった。下るに従って暑くなるばかりなのでかえってありがたかった。自然園まではしばらく大きな石ころがゴロゴロしているところでなかなか歩きづらい区間が続いた。その石がなくなるとしっかりとした山道となる。登山道は最近刈り払いが終わったばかりらしくヤブになっているところは全くなかった。自然園から追分の分岐までは10分ほどで着いた。コースタイムではここから名号峰まで20分ほどで往復しても1時間弱しかかからない。
名号峰では二人の若い登山者が休んでいた。二人は山形市の関沢から蔵王温泉までの縦走らしかった。ボクは名号峰からすぐに折り返すつもりだったが、この人たちの話も面白くしばらく一休みをとった。追分に戻るとあとはかもしか温泉跡へと下るだけとなる。7年前に歩いたときの記憶はかなり薄れていて、まるで初めてのコースを歩いているようでもあった。登山道はよく整備されていたのだが、深くえぐれている箇所はどうみても歩きづらく、この7年の間にも荒廃がかなり進んでいるように見えた。右手に新噴火口が見えてくるとかもしか温泉跡はまもなくだ。濁沢の沢底には追分からちょうど1時間かかって降り立った。ここから賽ノ碩までは170mの登り返しが待っているが小一時間ほどで戻れるだろう。長い周回コースがようやく終わろうとしているのを感じた。
ここから濁沢へと下ります |
濁沢から対岸へ |
かもしか温泉跡の分岐点 |
新噴気口(野天は右手奥) |
不帰ノ滝(上はエコーラインの駒草平) |
この辺りは登りやすい岩場です |
右手に回り込むと尾根に出る |
尾根に出ました |
こんなところを登ってきました |
ルンゼを乗り越えるとロバの耳が間近です |
荒涼とした五色岳の裏面(ピークに一人の登山者) |
ロバの耳が目前 |
ロバの耳岩のピーク付近(右奥は熊野岳) |
五色岳の背後に刈田岳とレストハウス |
ロバの耳と熊野岳の鞍部 |
ようやくお釜が見えてきました |
北蔵王縦走路とロバの耳との分岐点 |
北蔵王縦走路 |
追分 |
名号峰 |