登山口では朝から真夏を思わせるような日差しが降り注いでいた。今日は清川行人小屋までなのでゆったりとした行程である。月山を知り尽くしている渋谷会長を先頭にのんびりと歩き始めた。6年前と同様に今回も尾根道をたどるドウタン街道コースで小屋をめざす。登山道はいたってなだらかでハイキング気分で歩いてゆけるのがいい。それにタケノコや山菜採りのためヤブに入ったりするのでなかなか進まない。今晩の宴会材料がこの収穫にかかっているとあってみんな必死に探し回った。
30分も歩くと残雪が現れるようになった。暑さに参りそうだったこともあって、残雪を流れる涼風はまさしく天然のクーラーのような心地よさだった。また登山道にはサンカヨウやエンレイソウ、ツクバネソウ、ウメバチソウ、マイヅルソウ、ゴゼンタチバナ、ウラジロヨウラク、イワハゼなどたくさんの高山植物が咲いていて写真撮影もなかなか忙しい。
本道寺分岐をすぎてしばらくしたところで昼食休憩となったが、ここでも食事そっちのけでタケノコ採りとなる。見晴らしも結構よく豊富な残雪を抱いた月山を眺めながらの休憩は最高の気分だった。まもなく1339mピークを通過すると旧のろし場に着く。ここはその昔宿泊者がやってきたことを清川行人小屋にのろしをあげて知らせた場所なのだという。たしかにここから眺めると清川行人小屋は谷を挟んで向かい合う位置関係にあった。のろし場の少し先では清川行人小屋の管理人とすれ違った。管理人のザックにはタケノコがどっさり入っているらしくみんなから羨望のまなざしがふりそそいだ。
横道分岐付近は雪渓を利用しショートカットで小屋へと向かった。美しいダケカンバの尾根を越えるとそこからは一面の雪原となっていて清川行人小屋までは目前だった。ここから左手は月山へ通じる東沢だがここも広く雪渓に覆われていてまるでゲレンデを見ているようだった。
山小屋に入るととりあえず缶ビールで乾杯となりさっそく前夜祭の準備が始まった。採取したタケノコやウド、イワダラ、ギョウジャニンニク、ササユリなどが床一面に広げられ、そこへ遅れてやってきた環境省の若きゲスト佐々木さんも加わって宴会の下準備が着々と進む。そしてテーブルにはタケノコ汁や様々な山菜のおひたし、さらには肉料理やフランス料理のようなものもつぎつぎと並べられて豪華な前夜祭がはじまった。
山小屋は西川山岳会の貸し切りだと思われたが途中で米沢からの来客が1名小屋にやってきて、その後は宴会もますます盛り上がったようだった。例によって早々と酔いつぶれたボクは日が暮れかけたころを見計らって早めに2階にあがりシュラフに潜り込んだ。
(1日)
午前4時起床。早朝から雲ひとつないような青空がひろがっていて小屋の2階からは朝日を浴びた月山が見えた。朝食を食べ終え6時30分には小屋を出発。雪渓からはアイゼンを装着して月山をめざして登り始めた。清々しい晴天に恵まれて今日もすばらしい1日になるだろうと思われたが、晴れていたのはわずかな時間であった。歩き始めてから30分もたたないうちにガスが広がりだし視界は10mほどしかなくなってしまった。天候の崩れは午後からだろうという予報だったが、山では予想よりもかなり変化が早いようだった。
雪渓の広がる大雪城をあちらこちらとさまよいながら登って行くとやがて雪渓が切れて草地の広がる夏道にあがった。ここではチングルマ、ヒナザクラ、イワカガミ、ミヤマウスユキソウ、イワイチョウ、ミネザクラなどが咲き乱れていて一面のお花畑になっていた。あいかわらず濃霧が立ち籠めていて展望はなかったが、この高山植物の豊富さに今日は救われるようである。霧は風を伴いながら次第に濃くなってゆく。雨こそ降っていないのだが全身がたちまち濡れてしまうようになり途中から全員雨具を着用した。今日はせっかくの開山祭というのにこの天候では日帰りで登ってくるひともがっかりするだろうと思った。
やがて山頂が近づくにつれてハクサンイチゲの群落が広がるようになった。クロユリもいたるところに咲いていて今年はクロユリの当たり年のようである。月山神社が目前となると多くの日帰りの登山者や参拝者たちと行き交うようになった。月山神社の本宮に参拝したあとは山頂小屋で早昼食を取りながら休憩となった。しばらくすると当日班の13名が小屋に到着し合流した。
前泊班は当日班よりも山頂小屋を一足早く出た。視界は相変わらずだったがそれでも時々雲が切れると時々庄内平野や日本海まで見渡せた。鍛冶小屋跡からも花のオンパレードが続いた。今度は新たにイワベンケイ、ハクサンチドリ、ヨツバシオガマなども加わりさらに華やかさが増していった。牛首からは雪渓の広がる沢コースへと下りてゆく。四ツ谷川への分岐点をすぎると当日班も追いついてきて、そこかはさらに賑わいを増しながらリフト上駅に向かった。