【概要】
新山釣堀から右手の林道を進みまもなくすると登山口に着く。ここは三叉路になっていてそのちょうど真ん中に新山コースと書かれた標識がある。右手が登山道で左手の林道はさらに先に延びているようだった。三叉路の手前が4〜5台程度の駐車スペースになっていた。
登山者は誰もいなく虫の音だけが辺り一帯にかまびすしく鳴り響いている。登山道も以前には林道だったのかカーブミラーがこの先6箇所ほどに設置されていた。しかし今ではかなりの悪路となっていて、四駆でさえも走れるような道ではなかった。林道はいつしか沢の徒渉を繰り返しながら登ってゆくようになる。しかし標識らしいものはないのでわずかな踏み跡だけが頼りである。また道刈りもされていないのでヤブ同然のような箇所もある。急坂はなく登りはいたって緩やかだったが、ヤブ漕ぎではたちまち朝露にズボンが濡れてしまった。さらに登ってゆくと今度は倒木が登山道を塞いでいてよけいに道がわからなくなったりした。
それでもなんとあきらめずに登り続けたのは暑くなかったせいもある。奥羽山脈は厚い雲に覆われ、日差しもないので周囲は不安になるほど薄暗かった。笹谷峠からの登山道が合流する新山分岐へは2時間近くかかった。見上げても雁戸山は霧に隠れて見えなかったが、見覚えのあるコースに出たことで安心感が広がった。ここからはけっこう大勢の登山者と行き交うようになった。ほとんどが下山者で大学生のような若者も目立った。
視界はなかったがヤセ尾根では涼しい風が吹いていて心地よい登りだった。新山の分岐点から山頂までは30分弱の距離。やれやれと思ってたどりついた山頂ではわずかに3名の登山者しか残っていなかった。みんな期待はずれの天候に落胆したのか静かに昼食を食べながら休憩をしているようだった。
山頂を後にするとようやく薄日も差すようになっていた。新山分岐からひと登りするとわずかながらも小高いピークとなっている。振り返ると霧が流れて雁戸山の全容が見えた。薄日とともに気温が上がってきているようだった。それまでは肌寒いほどだったが、わずかばかりの日差しだけでたちまち体が温まっていった。このあたりにはハクサンチドリの群生があり、その周囲にはユキザサやマイヅルソウが一面だった。午前中は朝露で鬱陶しいばかりだった山道も午後になると湿っぽさはすっかりなくなっていた。その乾燥した空気は全然別の登山道を歩いているようだった。頭上からは木漏れ日が降り注ぎ、ブナ林には明るさが戻っていた。