山 行 記 録

【平成24年5月6日/朝日連峰 白兎尾根から長井葉山】



山頂近くから長井市内を俯瞰する



【メンバー】単独
【山行形態】日帰り
【山域】朝日連峰
【地形図】(2.5万)羽前葉山、(20万)村上
【山名と標高】長井葉山1,210m
【天候】晴れのち雨
【参考タイム】
白兎登山口9:30〜葉山山荘11:30〜白兎登山口12:20
  
 今日は昼前から雨が降り出す予報がでていた。それも大降りになるかもしれないというので最初から山の予定はなかった。それで近くの山に山菜採りへでかけたのだが全く収穫がないことから急きょ山登りに切り替えることにした。すぐ近くが葉山登山口だった。しかし山の道具は用意してはおらずせいぜい車にあるのは登山靴と山菜採り用の雨具程度。食料や非常食もなかったがまあ往復4時間程度の山ならばなんとかなるだろうといつもの行き当たりばったりである。水だけは欠かせないので4リットルのペットボトルに近くの沢水を汲んだ。カメラは携帯の安物カメラ機能を使うことにした。

 出発は9時30分。朝自宅で確認したレーダー画面によると午前11時頃からは雨が降り出すらしかったが予報はあくまで予報。見上げても澄み切った青空が広がっていて雨が降り出す気配などどこにもなかった。少しでも予報がはずれてくれればと淡い期待を抱きながら登り始める。どちらにしても今日は時間との競争になりそうだった。おのずとペースはいつもよりも急ぎ足となる。しかしいったい本当に雨など降るのだろうか。気温も夏空を思わせるようで汗がしたたかに流れた。

 男二人が途中で休んでいた。しかし二人とも猟銃を持っていて山登りが目的ではなかった。なんでも今日は熊狩りのため葉山一帯に大勢のマタギ達が入っているらしかった。ボクは間違って発砲されないようにしなければと気を引き締めた。まもなくすると登山道に残雪が現れ始める。それは徐々に増えていってやがて完全な雪上歩きとなった。雪上には踏み跡がうっすらとあり先行者がいるようだった。この時期はブナの新緑と残雪の取り合わせが青空に映えてうっとりとするほどだ。

 11時10分。その先行者に出会ったのは山荘まで残り30分ぐらいの場所だった。二人は朝6時半に出発したというからかなりの早立ちで、山頂から展望を楽しんだりしながら葉山山荘で昼食を済ませてきたらしかった。山荘付近の様子を伺うと大朝日岳もすっきり見えていたのだが急に霧に覆われてしまったとのこと。いつのまにか空全体に薄雲が拡がり始めていていままで見えていた青空はどこにもなかった。

 最後の雪の急斜面を登り切ると稜線の向こう側は真っ黒だった。急速に暗くなり風が強まってきていた。足早に山荘まで向かうとついに雨が降り出してきた。この間5分もたっていなかった。葉山山荘着は11時30分。嵐が目前まで迫っていた。とりあえず葉山神社だけは参拝したが大朝日岳の展望どころではなかった。西側からは異様としか言い様のないドス黒い雲がこちら側に向かっていた。すぐにでも上空を覆い尽くしそうな勢いだった。小屋のドアは鍵がかかっていた。開けるのももどかしかった。急いで雨具をきてすぐにUターンした。稲妻が空を走り雷鳴が頻繁にとどろいていた。雨と強風に加えて大粒の雹(ひょう)や霰(あられ)がまるで機関銃のように降り注いだ。一瞬にしてすさまじいほどの吹雪模様となった。ホントに一瞬にして変わった。信じられない天候の急変だった。風景はまるで日没後のように暗くて白いはずの雪面さえよく見えなかった。しかし恐いのはやはり雷だった。ボクは一目散に雪山を駆け下りた。急斜面は転げ落ちるように滑りながらおりた。こんなに山を早く走るのは初めてだった。この悪天候の中で稜線にいたら命がいくつあっても足りない。まだまだ雷雲が上空を覆っていて稲妻がボクを追いかけて来ていた。とにかく走り続けた。恐ろしかった。立ち止まったらアウトだと思った。

 どれくらい走ったのだろうか。気が付いたときにはブナ林の中だった。なんの根拠もないのだが多くのブナに囲まれるここは安全地帯のような気がした。それでも早足はやめなかった。まわりは相変わらず暗くて目が変になったのだろうかと思うほどだった。先ほど出会った二人のトレースもよく見えなかった。喉はカラカラだった。夏道が少しでてきたところで立ち止まり、大きな4リットルのペットボトルで水を飲んだ。ようやく一息をつくことができたが両足はかなり疲れ切っていた。

 先行者の二人に追い付いたのはかなり下ってからだった。二人は山菜取りを楽しんでいるところだった。そんな様子を見ているとようやく安心感が拡がった。周囲には少しずつ明るさが戻っていた。雷雲は山形市の方に去っていったようだった。登山口着は12時20分。葉山山荘から50分だった。こんなに短時間で下ったのは初めてだったがこんな経験はたくさんだった。近いうちにのんびりとした山登りをしなければと思った。



ブナと残雪


葉山山荘

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