出発は午前7時。3日目というのにみんなはいたって元気だった。念入りにワックスを掛けなおしているものもいて、最終日への意気込みが伝わってくるようである。連休最終日という事もあって昨日に比べると駐車場の車が驚くほど少なくなっていた。鳥海山を見渡しても登山者の姿は数えるほどしかいなかった。
まだ朝早い時間というのに気温はかなり高めだった。冬用の下着を着ていたのだが暑さに耐えきれなくなり途中で下着を脱いだ。今日も同じルートで山頂をめざしていったが、さすがに3日目ともなるとすっかりこの鳥海山に慣れてしまったのかみんなには余裕の表情が漂っている。山頂直下の急斜面こそそれぞれのコース取りになったものの、足並みは3日間で一番揃っていたようだった。
山頂到着は10時30分。昼食にはまだまだ早いので軽い休憩だけをとって滑降を開始することにした。今日の滑降コースはできれば滑ったことがないところをと七高山から北面コースを滑ることにした。地形図では外輪に沿っていかにも滑りやすい斜面が真北方向へと続いている。さすがに一番高いピークからの滑降は無理で偵察してみると10mほど下った地点から北面に移動すれば問題なさそうだった。
小さな岩場を乗り越え北面へとトラバースを終えると眼下には広い大斜面が拡がっていた。シュプールもないところを見ると誰も滑ってはいないようだった。雪面は極めてフラットであり、まるで自然が作り出した広大なゲレンデだった。メンバーは我慢しきれなくなったのか一気に最大傾斜線に沿って斜面に飛び込んでいった。斜度が緩んだところからは北へ北へと転進してゆく。小さな尾根を次々と乗り越えてゆくとやがて新山の北面が見えてくるようになる。そして稲倉岳や扇子森などが視界に飛び込んでくる。普段には見慣れない光景が次々と展開してゆくのだからこれは楽しいばかりだ。斜面をつなぎながらスキーで滑降して行く快適さもなんともいえない。それは一見パズルを解くような楽しみのようなものでもある。
しかし下れば下るほどブッシュも目立ちはじめてくるようになる。雪面のつながりや祓川への戻りのルートも考える必要がありそうだ。できればこのまま祓川ヒュッテまで下ってしまいたかったがどこかで大きな登り返しかヤブ漕ぎをする必要がでてきそうなのをみて早めに広い斜面にでることにした。そして大きくトラバースをしてゆくと七ツ釜避難小屋の上部に飛びだした。七ツ釜避難小屋からは滑り慣れたコースが続いているだけである。適当にターンを繰り返しながら高度を下げて行くと眼下に祓川ヒュッテが見えてきた。最後の急斜面を滑り終えるとそこからは駐車場まではまもなくだった。