祓川から猿倉温泉まではショートカットの林道が走っている。例年であれば車を回すにはそんなに時間を要しないのだが、今年は祓川までの除雪で精一杯だったのか、温泉への林道除雪は全くされておらず、分岐点からすぐにUターンを余儀なくされてしまった。この区間の除雪が全くされていないというのは初めてだった。それだけ今年の雪が多いということだろうか。そのため今回は少し遠回りをして車を回さなければならなかった。
ボクは昨夜の宴会で呑みすぎてしまい朝から二日酔いだった。体調は悪くみんなからは15分ほど遅れてひとり歩き出した。しかし今日も快晴の空が拡がっていて天候の心配は皆無だった。風こそ昨日よりもあるが、涼しい分だけ登りやすいともいえそうで、今日も最高のツアー日和になりそうだった。
今日も昨日と同じルートで登って行く。2日目なので別ルートでもよいのだが山頂までのルートにコダワリは別にない。要は山頂まで楽に登れれば良いのである。気温は昨日よりも高いのか汗が結構流れた。この汗のおかげで悪かった体調が少しずつ回復してゆくのがわかった。
昨日との大きな違いは登山者の多さだった。なにしろ早朝から登り始めているつぼ足の登山者、山スキーヤー、それにスノーボーダーといった人達で今日の鳥海山は大賑わいをみせていた。どこを見渡しても人・人・人。それこそ蟻の大群が斜面の至るところに貼り付いているようだった。
山頂直下の急斜面は今日もジグは切らずに直登コースで登って行く。ここまで肌寒さを感じるほどの強風が流れていたのだが、この急斜面から不思議に風がなくなっていた。七高山の山頂はたくさんの登山者達で溢れていた。今日の所要時間は2時間30分。いつのまにか体調は元にもどっている。ここで休んでいると山スキーの達人の阿部さんや山岳会の鶴岡在住駒沢さんと偶然に出会った。いつもは出会うはずのない人達とこうして山頂で顔をあわせるというのだから世の中けっこう狭い。もしかしたらこの大勢の中にはもっと知り合いがいるのかもと思ったりもした。
ボク達は穏やかな山頂で1時間ほどのんびりとした時間を過ごした。登りの疲れはすっかりとれている。体調も万全。それでは今日のメインディッシュといこうか。山頂直下の快適なザラメパーンを瞬く間に滑り終えるとひとまず七ツ釜避難小屋へと向かった。七ツ釜小屋からのルートはほぼ北東方向に伸びる尾根である。最初こそ広い斜面があるだけで方角を定めにくかったが、まもなくするとスノーモービルのトレースが現れる。そのトレースに沿ってところどころにポールが立っていた。ボク達はしばらくそのポールを目印に下った。
今日は初めてのコースということもあって次々と現れる光景が新鮮だった。いたってなだらかな勾配が続きスキーで滑る快適さはなんともいえない。ところどころに広々とした急斜面が現れたり、雄大なゲレンデのような斜面がでてきたりと実に変化に富んでいて、ここは七高山の山頂から駐車場へと単純に滑るコースにはない楽しさがある。それもこれも今年の雪の多さのおかげなのだろうが、ここは百宅コース以上に楽しめるコースともいえそうである。やがてポールやスキーのトレースはなくなったが、スノーモービルのトレースにはその後もところどころで出会った。
まもなくすると左手遠方に祓川ヒュッテが見えてくると今日の行程の約半分を滑ってきたことになる。まだ同じだけの距離が残っていることを思えばこのコースはやはり相当に長い。一気に滑って行くのがもったいなくてボク達は途中で何回かの休憩時間をとった。下るほどに気温は高くなっていて途中でみんなシャツを脱いだ。スキーが走らなくなると全員でワックスを塗りなおしたりもした。そして右手前方に黒森というピークが見えてきたところで大休止だ。いくら滑ってもまだまだ先がありそうなのでこんなにワクワクするのは久しぶりのような気がした。そこからは遠方に「フォレスト鳥海」らしき建物が小さく見えた。そして予想通り尾根がつながっているのをあらためて確認した。
大休止を終えれば再びスピードに乗って尾根なりに滑って行くだけだった。高度はかなり下がったというのに積雪はまだまだ豊富だった。エンディングが近くなると広大だった尾根も少しずつ狭くなってゆく。樹林が少し混んでくればブナ林のツリーランとなり尾根の末端が近づいていた。そして最後の急斜面を下りて行くと広い雪原に出る。前方には雪に埋もれた建物の一部が見えている。法体の滝へ通じる林道は目前だった。