歩き出しが遅かったこともあって斜面には多くの登山者が貼り付いていた。しかし好天の割合には少ないようだ。GWの初日ということもあり関東や関西方面からは今晩か明日到着といったところだろうか。こちらは順調に登って行き七ツ釜小屋へと登りついた。これで半分の行程を稼いだことになり山頂まではもうまもなくだ。最後の急斜面はそれぞれのペースで登って行くだけだ。雪は柔らかく滑落の心配もないのでスキーアイゼンの必要もない。しかしザックの肥やしにしておくこともない。ボクは急斜面直下でアイゼンをつけてみる。ただでさえ楽に登れる今日のコンディションだからアイゼンがあれば最大傾斜に沿って直登が可能だった。登りはきついが最短コースで上がってゆくのが結局一番楽なのだ。
七高山山頂には3時間で到着した。大場さんは遅れて出発したというのに早くも愛犬パウダーとともにボクのすぐ後ろを登ってきていた。山頂からは新山が目の前だが、見渡してもひとの姿は見当たらなかった。風もなく寒くもない穏やかな鳥海山山頂。今日は東斜面から百宅コースへと下りて行く予定をたてている。体調が万全ならば大清水まででも下りて行きたいところだが、4時間も運転してきた疲れもあってその元気はすでに無い。遅れていた最後のメンバー2名が登り着いたところで全員そろったが、この2名が少し疲れ気味なのか再び登り返す元気がないというので残りの5名だけで唐獅子小屋へと下ることになった。
東斜面に回り込むと広大な斜面が広がっていた。祓川からの斜面もとてつもなく広いのだが、東斜面はさらに広大といった印象がある。それに木立が全く見当たらないというのもいい。祓川方面と比較すると眺める風景が全く違うのである。沢筋の斜面には縦溝があるがそんなところを無理して滑る必要はひとつもなく、少しコースを東に振ると広大でメローな斜面がどこまでも続いていた。かんじんの唐獅子小屋はまだ見えなかったがこの大斜面を前にしてみんなはタガがはずれたような感じで一気に唐獅子小屋へと下りてゆく。ここは快適な斜面が延々と続いていていくら滑っても先が見えないといった感じだ。ボク達はトップスピードにのって小屋まで600mの標高差をほとんどノンストップだった。
唐獅子小屋の周囲はまだ多くの積雪に埋まっていた。これでは上から眺めても見つけられないわけであった。小屋の正面に回ってみると冬期入口のドアや外壁の一部が飛ばされたのかなくなっていた。これはたぶん2週間前の暴風で壊れたものと思われた。小屋からは一休みをとることもなく荒谷さんは早々とシールを貼って登り始めている。ボクは慌てて後を追わなければならなかった。みんなタフだねえと思わずに入られない。滑りでも体力を消耗したのか、この登り返しは結構つらい。ボクはところどころで立ち止まり呼吸を整える必要があった。とても七高山の山頂までゆく元気はないので1900m地点からトラバースにうつることにした。祓川コースへと戻るには1kmほどの大トラバースである。タダでさえ疲れる長いトラバースだが、この区間はさらに深々とした縦溝が刻まれていた。スキーはその溝のトップを飛んだり跳ねたりといった具合に進んでいくわけであり、延々と続くこのトラバースではさすがに両足がおかしくなりそうだった。
眼下に見慣れた祓川コースが見えてくると、付近には人影がほとんどなくなっていた。まだまだは日没には早かったがすでに午後3時近い時間ともなると陽は西に大きく傾いていた。ボク達は快適すぎる東斜面を楽しんできたこともあり、祓川まではただ流して行くだけといった感じだった。山頂で別れた2名とは祓川ヒュッテ近くで合流し、そこからはこれから始まるであろう宴会を楽しみに駐車場をめざして下って行くだけだった。