西川町付近は濃霧に包まれていたが月山第1トンネルを抜けると庄内側は雲ひとつない快晴の空が広がっていた。月山や湯殿山は澄んだ青空に惜しげもなく輝くような姿をさらしていた。北月山荘に集合したのは4名。姥沢駐車場に戻ったところで偶然に山岳会の菊池さんと出会いこの時点では総勢5名でツアーが始まった。リフト乗り場はまだ肌寒いような霧の中だったがリフトの途中で雲海から抜け出すと上空は信じられないほどの晴天であった。雲海から飛び出しているのは朝日連峰の一部分だけでこの神々しいばかりの光景にしばし見とれた。
リフト終点からはちょうど1週間前の月山肘折と同じ行程から始まる。気温はすでに高くただ立っているだけでも汗が流れそうで最初からシャツ一枚で歩き出した。雪面が柔らかいのでトップは等高線に沿ってトラバースを続けてゆく。上り下りがほとんどないことからこれは効率がいい。おかげでほとんど疲れを感じることもなくリフト終点から45分で牛首に着いた。牛首からは早くも最後の急斜面となる。山頂近くで知人のIさん(環境省)と出会った柴田氏はここでも一人拉致してしまい今日のツアーは総勢6名になった。
月山の山頂も今日は穏やかであった。積雪は一週間前とほとんど変わらないように見える。北方をみれば雲ひとつない快晴の空に白い鳥海山がぽっかりと浮かんでいた。今日の北月山コースはこの鳥海山をめざして下るだけである。トップが走り出すと雪崩をうつように次々と北月山荘に向かって滑走していった。
1週間前の大雪城とは違って北月山コースは極上のザラメ雪となっていた。メンバーの足並みも揃っているのでたちまち仏生小屋へとたどり着く。今年のペースはだいぶ早いようだ。仏生小屋で昼食後はさらにスピードに乗って広大な弥陀ヶ原を下ってゆく。ボク達の他にも北月山荘をめざしているものがいるらしく何人かのシュプールが斜面に残っていたが、どこにも姿が見えないところを見るとかなり早めに下ったらしかった。
心地よい薫風を体全体に感じながらの広大な弥陀ヶ原の滑走は至福という言葉しか見当たらない。北月山コースはスキー滑降の快適さからいうと数ある月山のツアーコースでもでも随一だろうと思う。八合目小屋付近も雄大な雪原がどこまでも広がっていてどこがゲレンデの端っこかは全然わからないほどだ。急斜面を降りたところで左手の斜面へと降りてゆき、そこからは沢沿いのルート取りで983m峰へと向かった。常にはヤブが多くてとても滑降にならないルートが今年の豪雪のおかげでどこもゲレンデのようなのだ。辺り一帯は美しいブナの疎林が広がっていてまるで夢を見ているような幸福感を味わいながらの滑降が続いた。
たどりついた983m峰ではいつものように最後の大休止となった。気温も高く休んでいるとうたた寝をしたくなるような気持ちよさだった。983m峰からは最後の斜面が楽しめる。今年の残雪は異常なほど多いためどこでもスキーは自由自在だった。常には尾根沿いに滑ってゆき三角峰を経由するのだが今回は全く関係がない。とにかく雪が豊富なために四方八方どこへでも自由なのである。フラットな斜面を滑り降りてゆくとそこはすでに鶴巻池キャンプ場だった。ここでようやく先行者に追いついた形となり前方には7、8名の人たちが見えた。
鶴巻池キャンプ場の施設や建物はまだ多くの残雪に埋もれていた。ボク達はここからひと登りで北月山スキー場の上部へと登り着いた。今は廃業している北月山スキー場も最近は雪が少なくてなかなか滑ることができなくていたが、今年は駐車場の目の前でもまだ2メートル以上の積雪があるのである。ボク達はこの幻のゲレンデを北月山荘の目の前までスキーで滑り込みツアーが終了した。