【概要】
今週は恒例の山岳会主催による月山肘折。今回の参加者は15名と例によってマイクロバスをチャーターしての山行である。心配していた天候は良い方に変わり朝から青空ものぞく高曇りだった。月山スキー場は4日前にオープンしていて、リフト利用のらくらくスタートである。リフト上駅まで上がると多くのスキーヤーで賑わっていた。気温は高く無風とあって最初からジャケットは不要だった。シールを貼り終えれば一路金姥をめざす。雪は適度に柔らかくなっていて快適なシール登行だ。順調に金姥を過ぎ紫灯森を乗り越えれば牛首となる。ここはすでに山頂直下。アイスバーンでもなかったが休憩をとりながらここで全員アイゼンを装着した。山頂直下の急斜面を登り切れば鍛冶小屋跡。ここで全員の到着をまって山頂へと向かった。
月山には2時間30分で到着した。月山神社はまだ雪の下に埋まっていた。日帰りの登山隊3名による差入れの自然水でとりあえず乾杯だ。乾いた喉にはこれが驚くほど美味しくて感謝感謝。山頂からは360度の展望が広がる。あいにく鳥海山はうっすらとしか見えなかったがこれから向かう念仏ヶ原や小岳などの見晴らしはかなりよい。よくみれば念仏小屋も見えるではないか。今年の大雪で小屋は間違いなく雪に埋まっているだろうと予想していただけに半信半疑だったが位置と形から間違いなさそうだった。8人用のテントを2張り担ぎ上げていたが、悪天候の場合には2班別々に食事などをしなければならず、これでその心配もなくなったわけで一同喜んだのはいうまでもない。
月山の山頂からは広大な東斜面である大雪城の滑降が待っている。ところが滑りはじめてまもなく深々とした縦溝に足をすくわれて転倒者が続出する。最近の好天続きで雨が流れたためだろうがこの溝が一面に広がる様はまるで洗濯板である。大雪城のこんな雪面ははじめてだったが斜度が緩めばこの溝もなくなってあとは一路千本桜までは快適な滑降が続いた。千本桜では初夏を思わせるような日射しが頭上から燦々と降り注いでいた。千本桜でのんびりとした昼食のひとときが過ぎる。眼下には秘境念仏ヶ原が広がっていてここから眺める風景はまるで桃源郷にさえ思える。千本桜の急斜面を思い思いに楽しめばそこからは広大無辺ともいえるような尾根を勝手気ままに下ってゆく。そして再び目の前に広がる立谷沢川への急斜面。例年よりも積雪が多いためだろう。クラックもなく斜度も心なしか緩い感じで難なく沢底へと降り立った。ここで釣り師たち数名が立谷沢川源頭部へと向かって行き、残りのメンバーで一足先に念仏小屋をめざすことにした。
立谷沢川からはシールを再び張って沢沿いに登ってゆく。普段はそこかしこに雪解けの気配があるものだが今年はまだ大量の積雪に埋まっていてここが沢底とはとても思えない。まもなく飛びだした広大な雪原は秘境念仏ヶ原だ。のんびりと月山を振り返りながら平坦な雪原を歩いて行く。しかしいくら近づいても雪原があるだけで念仏小屋は見えなかった。いつもならば1km先からでも小屋は目視できるのだがどこまで近づいても見えるのは雪原だけだった。山頂から見えたのは間違いだったのだろうかと不安が募ったその矢先だった。突然小屋が目の前に現れたのである。なんと屋根から2m近い積雪が小屋を取り囲むようにして視界から遮られていた。小屋の後ろ半分は積雪に埋まり前半分、それも2階の一部分だけがわずかに出ているだけだった。これは風のいたずらとしかいいようがないがこんな雪解けの光景ははじめてだった。2階への出入口は半分ほどスコップで除雪すればよかった。そして雪のテーブルを小屋前に設営すれば残りのメンバーの到着を待つだけとなり早速小宴会が始まった。
後続の釣り師達が小屋に到着したのはしばらく経ってからだった。みんなが揃ったところであらためて乾杯となる。釣り師達による今日の釣果は大きな岩魚が二匹だった。みんなに披露されたあとは早々と骨酒へ召されてゆく。南無阿弥陀仏。できあがった骨酒はみんなで回し呑みとなり、宴会は時間を忘れて延々と続いた。その後もほかにやってくるパーティもなく今日はボク達だけの貸し切りだった。日没後は小屋の中へと引き継がれて念仏ヶ原の夜が更けていった。
翌日は5時起床。外に出てみると快晴の空が広がっていた。月山は朝日を浴びてひときわ白く輝いている。その神々しいまでの姿はここまでたどり着いた者だけの特権でもある。この光景は数え切れないほど眺めているが何度見ても感動する。見上げても雲ひとつ見当たらなく今日も暑くなりそうな予感が漂っていた。
全員で記念写真を撮影し7時40分に小屋を出発した。すでに気温はかなり高く下着一枚で十分でもちろん手袋さえも不要であった。念仏小屋からはいつもの快適なシール登行が続いた。天候が良いだけになんの心配もなく快調に小岳へと登った。小岳からは快適なスキー滑走の始まりだ。赤砂沢に沿って尾根を快適に飛ばして行く。降りきった沢底からはすぐに978m峰への登り返しである。気温はどんどん上昇していて汗が流れた。978m峰からひと滑りすればネコマタへの最上部にたどりつく。ネコマタ沢の沢底は大量のデブリに埋まっていた。しかし、おおきなブロックはほとんど落ちていて、例年のようなクラックもほとんど見当たらず斜面もフラットだった。とりあえず撮影のため中間地点まで滑りおりた。それでも人間雪崩が頻発するのがネコマタ沢である。今回もコンディションは悪くないにもかかわらず難儀するメンバーが続出した。気温が上がったために雪がかなり重くなっていた。この急斜面を滑り降りるまでに時間がかかったが全員無事に通過したことで胸をなでおろした。
ネコマタ沢の末端からは778m峰への登り返しとなる。南に面した雪面はすでにグズグズとなってツボ足では膝近くまで潜る。こんなときのトップはかなりつらい。778m峰からはブナ林をすり抜けながらのツリーランが連続する。そして途中から大森山直下までは長いトラバース区間となる。小岳を出発してから、赤砂沢、978m峰、ネコマタ沢、778m峰と尾根を次々につなぎながら変化するコースは最大の魅力でもあり何回経験しても飽きることがない。トラバースが終えればそこは大森山直下だ。ここから大森山山頂までは見上げるほどの急坂が待っていた。今回は雪がかなり融け出していることからシールで登ることにした。
大森山に早めに登り切ったメンバーはさっそく宴会用のテーブル設営だ。ここは年に一度だけ開店する「レストラン大森山」。ザックに残っていた食材や飲み物などが各自から次々と雪のテーブルに広げられる。最後尾のメンバーがかなり遅れていたが大江さんが付いていてくれている。メンバーはみな無線を持っているから状況は手に取るようにわかるのだ。そのメンバーを待って最後の楽しい歓談が始まった。西側をみれば通過してきたばかりの小岳があり、その右手には真っ白い鳥海山が空に浮かぶ。肘折温泉はもう目前に迫っている。繰り広げられてきた夢のような舞台が間もなく終わろうとしていた。
大森山の山頂からは最後の滑走となる。ブナ林を縫って行くこの区間は一部に急斜面があるもののツリーランが楽しめる。そしてザラメの急斜面を滑り終えれば林道だ。林道に降り立てば今回のツアーも終盤となる。林道をショートカットで滑って行くと肘折温泉の朝日台に飛び出した。朝日台はまだまだ多くの積雪に覆われていた。朝日台からは肘折小学校前へと滑り込んでツアーは終了となる。そこには事務局長自らが運転するマイクロバスがボク達の到着を待っていてくれた。下山後は「肘折いでゆ館」のしっとりとした温泉に浸ってこの二日間の汗を流した。舟形町「重作」の蕎麦で締めくくり、西川町の開発センターで解散となった。