【概要】
長井葉山は3週間前に偵察を行っている。そのときの教訓により山から下った後の林道歩きをなるべく避けるため長井市の蔵京地区から登ることにした。また最近の大雪を考えると鳥居の登山口から登るのは雪崩の危険もあり今回は広域農道から直接尾根にとりついた。このほうがはるかに効率がよくまた楽に登って行けるのがわかった。また積雪が豊富なのでどこからでも登ってゆけそうだった。もちろん今日はひとつもトレースがないので一人だけの世界だった。
展望台のような地点を通過するとまもなく鳥居からのコースと合流した。頭上からは燦々と春の日差しが降り注ぐ。荒れ模様が続いていたので今日のような好天は久しぶりだった。昨日は猛吹雪だったが軽い雪はほとんど飛ばされたのか前回のような底なしの深雪ではなくなっていた。それでもはじめからスキー靴程度は沈むので疲れが少しずつ足にきた。積雪は前回よりもだいぶ増えているので小さなヤブなどはすべて雪の下に埋まっていた。白兎尾根はひどいところでは背丈ほどにも深くえぐられているのだが、今年の大雪のためすっかり雪に埋まっている。どこが登山道なのかさえわからないところもある。尾根が大きく広がったような錯覚さえ感じるようだった。
しかしそれにしてもラッセルがきつい。かなり登ったのだろうと思っても標高はまだ500mだったりする。とりあえずの目標を前回の670m地点にたててみた。それを超えれば次は700m。今度は800mと言った具合に100m刻みに目標を決めていった。そうしないとくじけそうだった。日差しは強く汗がとめどなく流れた。800mを超えると葉山の稜線が前方に現れる。そこからの光景はまさに圧巻だった。春のような陽光を受けて山全体が輝いていた。そこは勧進代尾根から連なる葉山の稜線の一角だったが、ここが見慣れたいつもの長井葉山とはとても思えないほどだった。平坦で広い尾根を過ぎると斜度が次第にきつくなっていった。それに連れてラッセルも思うように進まなくなる。スキーのトップが雪面からでてこない。膝ラッセルとなると直登するのが困難になり大きくジグを切らないと登れないので時間ばかりがかかった。
標高1000mを超えると、さっきまでははるか高みに見えた葉山の稜線が、いよいよ間近に迫ってきたのを実感できるようになった。気温も下がってきたためジャケットを着た。この辺りはブナの疎林帯となっていて素晴らしい景観が広がっている。斜度も雪質も適度でスキーで下るのが実に楽しみなところだ。最後の急坂を登り切ると斜度ががくんと落ちてようやく山頂の一角に登り着いた。そこは見渡す限り平坦で広い雪原になっていた。雪はそれほど沈まなくなっていてどこでも自由に歩いてゆけそうだった。少し進むと潅木の間から葉山山荘が見えた。もしかしたらたどり着けないかも知れないといった気持ちにもなったのだが最後は気力だけだった気がする。よくがんばったものだと自分を誉めてやりたかった。疲れはピークに達していたが登り切った喜びが少しずつこみ上げてくる。
葉山山荘へは後で立ち寄ることにしてまずは葉山神社に参拝だ。葉山湿原は広々とした雪原となっていてその先に見える白い山並みは大朝日岳だった。厳冬期の大朝日岳を見るのは久しぶりのような気がした。何枚も写真を撮った。いくら眺めていても飽きなかった。少し左手に移動すると今度は祝瓶山が見えてきた。奥ノ院まで足を伸ばせば全体が見渡せるのだろうがもう一歩も動けそうもないのでここで満足することにする。しばらく雪原を散策してから葉山山荘に戻った。遅い昼食をとっていると足が攣った。
休憩を終えればさっそく滑降にうつろう。本当はそこらじゅうを滑りたい誘惑に駆られたのだが今日は残念ながら体力が残っていない。下りの余力がどうにか残っているだけのようだった。滑り出しの一角に立つと眼下に長井市内が見えた。そして周りを見渡せばワクワクするような斜面が四方八方にあるのである。広々とした尾根をスキーで滑走する快感をなにに例えたらいいのだろうか。どこへでも下って行けるというのがなにか不思議な感動でさえある。この尾根は登り一層だった反面、下りとなると今度は滑り一層となる。左に右にそしてトラバースをしながらまた尾根に戻ってとその連続だった。下るにつれて雪が重くなったがテレマークスキーの場合はあまり関係がない。というよりも適度に制動がかかるのでむしろ滑降がしやすくなる。6時間近くかけて登ったところもスキーはやはり早い。足が途中で攣ったりしなければもっと早かったのだろうがそれでも広域農道へは約1時間で降り立った。少し道路なりに進めばあとは駐車地点までスキーで下って行けるのだ。誰にも会わない一人だけの山スキー。静かでそして充実した一日が終わる。