志津温泉で準備を整えてとりあえず姥沢までスキーを担いで登りはじめる。ネイチャーセンターを過ぎると除雪が終わった両側は見上げるほどの雪壁になっていた。例年よりも数メートルは高いだろうと思われる雪壁が延々と続いた。そんな舗装道路をのんびりと歩いていると、ガイドツアーの人達なのだろうか。なにがしかの特権を持っているのか、通行止めのゲートを突破し姥沢まで何台もの車があがってゆく。結局、志津温泉から歩いたのは西川山岳会の我々だけだった。
姥沢はまだ今週末の営業に向けて除雪の作業中だった。リフトの鉄塔下もようやく除雪が終わったばかりらしく、まだ整備の途中のように見えた。それにしても今年の月山は例年にないほどの積雪量があって驚くばかりだ。振り返ると残雪に輝く朝日連峰がまぶしかった。しかし上空は青空が広がっているのだが、姥ケ岳付近は濃いガスに覆われていて天候はあまりよくなかった。この視界の悪さと強風では紫灯森を越えられるかどうかはまだわからない状況だった。リフト上駅に着くと姥沢へ車であがってきたツアー客が何組かいて、みんなは天候の回復を待っているようだった。何人かは姥ケ岳へと取り付いていたようだったが、山頂付近は全くみえなかった。天候はかなり厳しいだろうと思われた。一足先に登っていったガイドツアーの人達が、悪天候に耐えきれなくなったのか早々と途中で引き返してきたようだった。
リフト上駅からは強風と寒気のために雪面はガリガリのアイスバーンになっていた。僕たちは上駅で休憩をとりながらアイゼンを装着した。よってここからは限られた人達だけの世界となる。そのためもあってメンバー二人が途中でリタイヤとなり引き返すことになった。金姥から紫灯森までは厳しいほどの風が吹いていた。それに視界もないので山スキーとしては最悪の天候ともいえ、また雪面はアイゼンさえやっと効くようなまさしく氷だった。それでもなんとか悪条件を乗り越えて5人は紫灯森の山頂に到着した。紫灯森の標高はおよそ1700mあり、風の強さは予想通りハンパではなかった。とても休めるといった状況ではないのでシールとアイゼンのまま品倉尾根へと降りていった。
するとどうだろう。少し下ったあたりから風は一気に弱まり、目の覚めるような青空とともに視界が広がったのだ。これをみてすかさずシールとアイゼンを外して一気に滑降となったのはいうまでもない。時々ガスがまとわりつくものの、時間とともに晴れて行くのは明白のようだった。驚いたのは天候ばかりではなかった。たぶん地震の影響なのだろうが、大きなクラックがいたるところに走っていたのである。斜面のあらゆる箇所に大きな割れ目が刻まれているといった光景はこれまで見たことがなく、品倉尾根は危険きわまりない状態になっていた。クラックはこれから徐々に広がり始めるはずなので、このコースは春スキー本番となる今後がとくに要注意となるだろうと思われた。
積雪の多さにも助けられて登り返しも楽勝だ。ひときわ大きなピークである1619m峰は目前だった。いつのまにか上空には雲がほとんどなくなり、願ってもない山日和の天候となっていた。1619m峰からはアイスバーンだったが、下るにしたがって雪は徐々に滑りやすいものになっていた。1302m峰では無風快晴の中、滑ってきたばかりの1619m峰を眺めながら僕たちはのんびりと大休止をとることにした。気温もかなり上がっていて先ほどまでの寒気がまるでウソのようだ。今日はツェルトもなにも必要がなかった。
1302m峰からはこのコースのハイライトだ。100万人ゲレンデとも200万人ゲレンデとも僕たちが呼んでいる大斜面が広がっているのである。休憩地点からは登り返しもなく湯殿山スキー場まで下ってゆけるのだ。雪面はすでに柔らかく、メンバーはそれぞれに雄叫びをあげながらこの大斜面を下っていった。途中でかんじきを履いた地元の二人連れに出会ったが、1302m峰直下のアイスバーンを見て引き返してゆくところだったようだ。出会った人はこの歩きの二人組だけであり、今日の品倉尾根は僕たちだけの貸し切りだった。
快適なツリーランはそれからも延々と続いた。春の日差しが燦々と降り注ぐ中、適度な斜度の滑走は楽しいばかりだった。やがて渡渉地点を経ても雪質には変化がなかった。品倉山の裾野を過ぎれば湯殿山スキー場までまもなくだ。しばらく推進滑降を続けると湯殿山スキー場の第3リフト付近が前方に見えてきた。
高い雪壁が続く廊下 |
姥沢到着です |
姥沢から登ります |
朝日連峰を振り返る |
リフト上駅に到着です |
1619m峰で |
1302m峰で休憩です |
1619m峰を仰ぐ |
100万人ゲレンデです |
滑降コースを眺めています |
100万人ゲレンデの滑降 |
100万人ゲレンデの滑降 |
100万人ゲレンデの滑降 |
100万人ゲレンデの滑降 |
品倉山直下 |
湯殿山スキー場へと滑り込みます |