湯殿山ホテルからは旧112号線が走っており、今はまだまだ雪の下だが、このルートに沿ってゆけば難なく稜線へと登れそうだった。最後までたどれば月山第1トンネルだが適当なところから尾根に取り付いた。そこはブナの疎林帯であり、朝日を浴びながらのシール登行は心地よいばかりだった。今日の天候は先週とは一転して雲一つ見あたらないような無風快晴。願ってもない好天にメンバーからも笑顔が絶えなかった。
1時間ほどすると斜度もなだらかになり、まもなく広々とした稜線へと登り着いた。左手には品倉尾根があり、右手に湯殿山が大きく迫る。まるで厳冬期の大朝日岳をみているような山岳景観にしばし見とれた。まぶしいほどの朝日が横から差し込み、湯殿山は深い陰影を見せている。早朝、晴れたときの雪山は本当に美しい。こんな光景が楽しめるならば何度でも訪れたい誘惑に駆られそうだった。
平坦な雪原地帯をしばらく進むと急坂直下となる。背後には先週登った石見堂岳や赤見堂岳があり、右手には鍋森や離森山の秘峰が連なる。その奥には以東岳や障子ガ岳までも見えるのだから、今日は見えないものはないほどの展望が広がっていた。
高度も上がったせいか風は冷たかった。日差しは強いので南面はすでに雪は柔らかくなり始めていたが、それでもみんなはスキーアイゼンを装着した。僕はアイゼンがないのでシールを頼りにしながら急坂に取り付いた。登るに従って高度感もでてきて周りの光景がなおいっそう魅力を増し始めていた。
湯殿山到着は午前9時50分。まだ10時にもなっていなかった。2時間ちょっとで着いたことを考えるとこのルートは第1トンネルからよりもだいぶ距離は短いようだった。時間はまだまだ早く、とりあえず山頂から東斜面をひと滑りしようということになる。そして石跳川に降りてから大休止をとることにした。東斜面の滑降は久しぶりだった。今年の残雪はきわめて多いためだろうか。東斜面というと雪崩の危険も多く、かなりの急斜面なのだが、今回は斜度もだいぶなだらかに見える。さらに雪面はすでにザラメとなっていて滑降は快適だった。みんな思い思いにこの大きな東斜面を楽しんで石跳川へと下った。
石跳川で休んでいると鳴○さんが遅れてやってきて再び全員が集合となった。さてここからは石跳川を遡りながら装束場へと登り返しだ。といっても標高差はあまりない。のんびりと登っているとまもなく装束場に着く。右手には多くの雪をいだいた姥ガ岳がある。まるで厳冬期のような雪の多さにあらためて驚いた。左手には湯殿山の北尾根がいくつものピークを連ねながら山頂へと伸びていた。
装束場からは適当な尾根をみつけて湯殿山神社へと下ってゆく。ここは初めての滑降コースでもあり、実に新鮮だった。いつもは反対側の石跳川へ下るか湯殿山へと登るだけだからだ。西斜面といっても気温もだいぶ上がっており下るには支障はなかった。適度な斜度と柔らかくなり始めた雪面は滑っていても気持ちが良かった。まもなく湯殿山神社が近づいたところで、仙人沢を横切りながら対岸へと移った。ここでようやく昼食のための大休止となり、しばらく歓談の時間を楽しんだ。鳴○さんが相変わらず遅れていてみんな心配していたのだが、1時間ほどすると装束場から下ってくるのが見えて一安心となった。
鳴○さんが遅い昼食をとっている間、僕たちは湯殿山神社奥ノ院の見学会となった。冬期間の今は神様もいないというので、きっとバチも当たらないだろう。雪に閉ざされた湯殿山神社奥ノ院をくまなく歩いてみると、夏の喧噪とは全然違って感激が全く違って見えた。
長い休憩時間が終わればあとは除雪が進んでいる車道に沿ってスキーを走らせるばかりだった。湯殿山ホテルまではまだかなりの距離が残っていたが、斜度も適度にあってスキーで下るのは快適だった。途中で湯殿山の山頂で休憩中だという安達さんに無線を飛ばし、僕たちの姿を山頂から確認してもらったりした。大きな赤い鳥居のある参篭所はまだまだ多くの残雪で埋まっていた。僕たちは再びスキーを飛ばしながら湯殿山ホテルへと向かった。日差しはあくまで強く、降り注ぐ日の光はすでに春のものだった。
湯殿山ホテル前 |
快適な尾根歩きです |
快晴 |
急坂の始まりです |
急坂が続きます |
けっこうきつい登りが |
湯殿山に到着 |
東斜面の滑降 |
東斜面の滑降 |
東斜面の滑降 |
東斜面の滑降 |
東斜面の滑降 |
石跳川を遡ります |
装束場(奥は品倉尾根) |
湯殿山神社奥ノ院にて |
湯殿山参篭所を振り返ります |