【概要】
積雪期の村山葉山へは、例年4月下旬頃の除雪完了を待って、畑集落から往復するコースがよく知られている。というよりも一般的にはこのコースしか無いといった方がいい。そういう意味で寒河江市幸生の柳ノ沢集落から尾根に直接取り付く今回のルートは、夏道などはない全くのバリエーションルートであり、積雪期限定のコースである。ここは3年ぶり3回目となる。
今日も好天の予報が出ていたが集まったメンバーは総勢4名。朝方はかなりの冷え込みがあって雪面は堅く今日はラッセルの必要がほとんどなさそうだった。除雪終了地点である柳ノ沢集落からは小一時間の林道歩きで右手の斜面へ取り付きだ。大場さんは先週もこのコースを往復したらしくところどころにうっすらとそのトレースが残っていた。目映いばかりの陽射しはすでに春の気配が漂っている。流れる汗をみてみんなアウターや冬シャツまで脱いで登った。
ナラ林からブナ林へと植生が代わると林間はより明るさが増した。前方に葉山の稜線が見えてくるとまもなく大滑山の直下となる。寒気が入っているのか風は冷たく、稜線からすこし降りた地点でのんびりと休憩をとった。前方左手には葉山の稜線があり、正面には牧場や観光ワラビ園の広い雪原が見えた。尾根の向こう側は畑集落だった。この区間ではスノーモービルが遊んでいたらしく、おびただしいほどの踏跡が散乱していたが、今日は途中から全部引き返していた。
大滑山をひと登りするとその先の1019m峰は西側を卷く。この辺りはブナの疎林が広がっているところで、その木立からは木漏れ日が燦々と降り注いだ。明後日は早くも3月でいつのまにか厳冬期は過ぎ去ったようだった。まもなくすると前方の高台との鞍部に出た。目前の急坂を登り切ると別世界が広がっているのである。高台にあがると真っ白い葉山の稜線が前方から目に飛び込んできた。そこには見渡す限りの雪原が広がっており、それは葉山の山頂直下まで続いていた。この光景を眺めただけでこれまでの疲れなどは忘れそうであった。振り返れば登ってきた大滑山や1019m峰ははるかに遠ざかっていた。左手には葉山奥ノ院と葉山神社が見えた。この雄大な光景は実に久しぶりで、右に左へと歩きまわりながら写真を撮った。
山頂直下までくるとさすがに風は冷たかった。風は空気を切り裂きながら稜線を駆け上がってゆくようだった。山頂までの斜面はガリガリに凍りついていてシール登高の限界を思わせた。葉山山頂には4時間20分かかって到着した。前回よりも30分も短時間で着いたことになるのだが、ラッセルがほとんどなかったためであろう。山頂では時々地吹雪のような雪煙が舞った。上空は澄んだ青空が一面だったが、月山の山頂は厚い雪雲に覆われていて全く見えなかった。どうもこの葉山から北の方角だけが晴れているようだった。
山頂での強風は治まる気配はなく早々に退散することにした。しばらくこの強風にあらがいながら稜線をたどってゆくのだが、北側には巨大な雪庇が発達しておりここは結構危険地帯だった。慎重に稜線を東に進み、大僧森までくるとようやく風が弱まってきたようだった。まだ僕たちは昼食前だったが、とりあえずひと滑りしようとなった。
大僧森沢の広大な斜面をスキーで滑降する楽しさは何にも代え難いものがある。シールをはがした僕たちは、もう待ちきれないといった感じで次々と斜面に飛び込んでいった。雪は適度に柔らかく滑りやすかった。南斜面にもかかわらずモナカにもなっていないのは幸いだった。しかし、不思議に雪面の凹凸がわからず何でもないところで転倒したりした。
ひと滑りを終えればとりあえず休憩だ。そこは大僧森の見える地点で、見上げると僕たちのシュプールがあり、見渡すばかりの大斜面と澄み切った青空が今日の最大の御馳走だった。風は全くなくなっていて初夏を思わせるような日差しがたまらなく心地よい。聞こえるのは遠くを流れる風の音だけであった。
休憩地点からは沢に沿って下るだけだった。大僧森沢は南斜面だけに雪は重くなっていたが、春の息吹を体に感じながらの滑降は実に快適だった。いろんな雪質があってこその山スキーでもある。今年は大雪ということもあって至るところにデブリが残っていて、流れてまだ間もないデブリを通過するのはさすがに気分のいいものではなかった。雪崩の可能性は低いだろうとは思いながらも危険地帯は慎重に通過して、林道との合流点からはなおも大僧森沢に沿ってゆく。前方に杉林が目立つようになると柳ノ沢集落も近い。このコースは変化に富んでいるのが最大の魅力だろうか。出発してからすでに7時間をとっくにすぎていたが、僕たちはバリエーションルートを十分に味い尽くした充実感に満たされていた。杉林から抜け出して林道へと飛び出すと柳ノ沢集落まではまもなくだった。
遠方に葉山を望む |
ブナ林 |
雪原 |
雪原を歩く |
葉山山頂 |
稜線上の鞍部 |
大僧森付近 |
大僧森 |