【概要】
今回は数ある吾妻連峰のツアーコースでもめずらしい部類に入るコースだ。奥羽本線の峠駅前でスキー履き、ツアー終点の大沢駅でスキーをはずすという、文字どおり駅前から駅前への縦走は、考えただけでもワクワクしそうなコースである。峠駅の標高は約630m。栂森までの標高差は1000mもあるというから結構体力的にはきついコースだが、スキー場がないだけに全て自分の足で標高を稼がなければならないので、これぞ山スキーと呼べるものでもある。
栂森は6年ぶりとなる。それまでは3年ほど毎年ツアーを楽しんでいたのだがその後はなかなか機会がなかった。まあ結構登りがたいへんだということから、体調が万全なときに実施したいということもあったのだろう。峠駅には僕達の他に宮城からの3名組が一緒に降り立った。この人達はこの栂森が初めてだということもあって終始僕達のトレースをたどることとなった。
今日も昨日に引き続き快晴の予報が出ていた。峠駅からは目の前の急な法面を登って尾根に取り付き、古く朽ち果てたツアー標識がところどころに残る杉林を抜けるとまもなく尾根上に出る。今日は風もほとんどなく山スキーのツアー日和だった。振り返ると栗子山や蔵王連峰など宮城や福島県境の山並みが朝日を浴びて煌めいている。今年の大雪のおかげで雪面はとても広くて歩きやすかったが、尾根の東側には雪庇が大きく張り出しており、そこは常に気を配りながら登った。まもなくすると左手の大滝沢沿いには滑川温泉、大滝沢を挟んで向こう側には東大巓から家形山へと続く稜線が見えた。1133mピークを右手から巻いて登り返したところが平坦なダケカンバ林だ。この頃から気温はぐんぐんと上がり始めていた。休憩時には菊池さんが峠駅で購入した「峠のちからもち」をみんなで御馳走になった。
小栂のピークを左手から巻いてゆくと鞍部へひょこっと出た。目前には栂森の大きな斜面が迫っていた。鞍部からは右手の尾根にトラバースするのが正規ルートだが、ここは吾妻連峰でも唯一雪崩の恐れのある地点である。雪質を慎重に観察しながらのトラバースは緊張感が走ったが、積雪が多くいつもよりも斜度が緩やかで、斜面はそれほど危険な状況ではなかった。しかしそれは今回の状況だけであって、ここが危険地帯なのは変わりがないので要注意だ。対岸の尾根に無事たどり着いた僕達は安心して山頂をめざすだけだった。すでに両足はかなりの疲労を感じていた。
栂森の山頂には峠駅から3時間45分で到着した。途中で何回も休憩時間をとったことを考えると今回のペースはかなり早いものだった。広い雪原からは視界を遮るものはなく、栂森からは大展望が広がっていた。雲ひとつ見あたらない快晴の空と、眩しいほどの雪の世界にただただ酔いしれるようだ。それからは山頂での楽しい休憩のひとときを過ごした。そろそろ下ろうかという頃になって、宮城の3人組が後方から追いついてきた。
山頂からは大沢下りのルートに接続するように下ってゆく。もちろん一直線にめざしても良いのだが途中、急斜面があるのでいつものように左手から巻いてゆくと、眼下一面に滑りやすい緩斜面が続くようになり、そこからはメンバー各人が思い思いにパウダーを楽しんだ。そして立ち止まったところがちょうど砂森のコルであった。
ここからも快適な斜面が続くのだがあいにく距離はそれほどない。平坦な茂皮平からはすでに林道の道形があり、スノーモービルの踏跡が散乱していた。このトレースのおかげでスピードに乗ってゆけるとはいえ、残念ながらバウダーの快適さは微塵もなくなってしまった。
放牧場は多くの積雪に埋まって一面の大雪原となっていた。栂森からの行程もかなり長い距離があるのだが、終わってみればいつもの半分ほどの時間しかかかっていない。ここから大沢駅まではまだ5kmほど残っているのだが、スキーツアーとしてはほとんどエンディングを迎えようとしていた。僕達はゆったりとした気分に浸りながらコーヒーを飲み、今日の行程をみんなで振り返った。ここからは広々とした放牧場を下り、林道に沿ってゆけばまもなく大沢駅だ。楽しい時間ほど短く感じるものである。祭りの後の寂しさのようなものを一方で感じながら僕達は大沢駅へと向かった。
早朝の峠駅 |
栗子山が遠方に見えます |
春の日差しを浴びながらの休憩です |
山頂直下のトラバースで |
山頂直下のトラバース |
砂盛のコル |
放牧場 |
大沢駅にゴールインです |