時々雪が舞うものの一部には青空も見えていて天候はそれほど悪そうには見えなかった。僕たちはゲレンデの左端から大きく巻くようにしながらシール登高を続ける。すると次第に汗が流れ始めてしまい、みんな途中でシャツを脱いだりしながら体温の調節をはかった。いくら厳しい寒気とはいっても登りでは結構な汗をかいてしまうのだ。
リフトのトップまで登り切ったところで適当なところから樹林帯へと入って行く。樹林とはいえ背丈は低いのでブッシュといったほうが適切か。この辺りから次第に風が強まり始めたため、ゴーグルをつけたりしながら完全防備に身を固めた。平坦部となると完全な吹きさらし状態となり、山頂からは強烈な風が雪を伴いながら舞い降りてくるようだった。まもなくすると先行者のトレースが現れ、しばらく後をたどってみると直ぐに先行者に追いついてしまった。先行者は同じ山スキーの人達で総勢6〜7名ほどいるようだった。そこから僕たち3名組は独自のルートで山頂めざして突き進んで行く。ラッセルといっても雪は軽いのでたいした事はないのだが次第に体が熱くなってくるようだった。稜線を見上げるとかなりの風雪なのだろう。山頂付近は全く見えなかった。
まもなく尾根への急坂へ取り付いた。樹林に守られて風はそれほどではないが、雪は絶え間なく降り続いていた。途中でシャリバテになり小休止をとったりしたが、あまりのんびりとした休憩時間は取れない。少しでも早い内に山頂を踏みたかったのだ。まもなく稜線へと飛び出すと、今までとは比較にならないほどの風雪が前方から吹き付けてきた。下界はいくら天候が良くても、やはり蔵王連峰の天候はハンパではなかった。
雪面は風雪で堅く締まった部分と吹きだまりがあって少々登りづらかった。ゴーグルはすでに凍り付いて視界はあまりよくなかった。尾根上のダケカンバがしなったままで凍り付いている。太いダケカンバが大きく曲がり、先端を雪面に突き刺したままの状態で尾根道をふさいでいるというのはちょっと異様な光景だった。
天候はますます悪化しているようだった。無理すればGPSを頼りに山頂を踏むのも可能かも知れなかったが、山頂直下まできたところで今日は引き返すことにした。標高は1600mを少し越えている。そこはちょうど不忘山の肩とよばれるところで山頂まではもう100mもなかったが、今日はここを山頂と決めることにした。悪天の中をさすがにここまで登ってくるものは誰もいないようだった
撤退ときまればさっそくシールをはがして滑降に移ろう。ブリザードの吹き荒ぶなかでの長居は無用というものだ。風を避けるため一目散に樹林帯へと逃げ込み、そこでツェルトを張りしばらく休憩時間をとることにした。こんな悪天候の時に急いで下ってもしょうがないのだ。ツェルトに潜り込んで休んでいると、近くをスキーヤーが下っていったのだろう。どこかから数人の雄叫びが聞こえてきた。みんな例年にない激パウダーに酔っているようであった。
休憩地点から下りはじめるとそこには最高のパウダーが待っていた。斜度はそれほどないにもかかわらず、スキーは滑りすぎるほどに滑るのである。これは厳しいほどの寒気と軽い雪質のためなのだろうと思った。これほどのディープパウダーは不忘山では初めてのような気がした。スキーは本当に面白いほどによく滑り、そしてスプレーを巻き上げながら一気に駆け下りて行く。不忘山でパフパフとした快適なパウダーは望外の喜びとしかいいようがない。途中で出会った人も今日の深雪には同じように驚いている。今日は山頂こそ踏めなかったもののそれでもお釣りがきそうなほどパウダーを楽しんだ一日となった。