今日の行程は大沢小屋までの往復の予定だが、出発する時間も遅く、はたしてどこまでゆけるかどうかわからなかった。まあゆけるところまで行こうかということで歩き始めた。小屋から500mほどすると狭い山道へと進みウバコースへと入る。しばらく歩くとやがて村山野川へと降りてゆく。ここからは沢歩きが主体なので全員長靴である。水量はそれほどではないが、うっかりすると深みにはまりやすいので要注意だ。小1時間もするとウバコースとの合流点に着く。合流点からは野川の支流であるウバ沢に沿って登って行く。滑滝と葉を落ち尽くしたブナ林が実に美しく目を見張るようだ。ここは登山地図にも二万五千の地形図にも記載されていないルートだが、途中には赤布や標識もあって迷うような心配はなかった。
途中で山の恵みを探しながらののんびりとした山登りが続く。収穫はほとんどなくがっかりだったが、スカスカとしたブナ林は明るく歩いていても楽しい。流れが少なくなり右手の山道へと上がってゆくと姥地蔵へとぽんと飛び出した。
姥地蔵では先日降ったと思われる雪がまだ残っていた。近くのピークに立つと御所山が目前に見えた。高曇りの一日だが見晴らしはよく、360度の展望が広がっていた。姥地蔵は昔、姥捨て山だったのだと柴田氏が説明してくれる。しかし、この大きな地蔵をいったいどうやって持ち上げたのだろうか、などと様々な疑問が湧く。地蔵様はどうみても100kg以上はありそうなのである。ここでは昼食をとりながらしばらく思い思いの時間を過ごした。
姥地蔵から大沢小屋へはまっすぐ北方向へと降りてゆくのだが、いきなりのヤブこぎの始まりだった。それに下り始めは急斜面のため何回も尻餅をついてしまった。下るに従いますますヤブが濃くなって行き、密藪同然となっていった。足下の確認もよくできないのでルートファインディグをしながらの悪戦苦闘が続いた。それでも傾斜が落ちてくる付近まで下ったのだが、すでに時間は1時半すぎており、タイムアウトとなった。大沢小屋へはもう少しらしかったが、午後の日差しもすでに大きく傾いており、柳沢小屋へ戻る頃には夕刻になりかねないので引き返すことになり、大沢小屋は次回への宿題となった。
柳沢小屋は薪ストーブ付きの素敵な山小屋だった。僕たちは食材班とか暖房班とかに手分けしながら作業を分担し、遅れて参加した神田さんを待って4時頃から宴会が始まった。その夜は館岡高校山岳部の合宿と一緒になり、賑やかな晩秋の山小屋となった。僕は懐かしい仲間達と久しぶりに出会った喜びで調子に乗りすぎてしまったのだろう。酒を少し飲み過ぎてしまい、結局二日酔いのため翌日の山行きは参加出来なかった。