【概要】
白髪山は「しらひげやま」と読む。山形県東根市と宮城県仙台市の間にある県境の山で、船形連峰の南方に伸びる尾根上の奥羽山脈の分水嶺の山でもある。一
方、寒風山は「さむかぜやま」と読み、国道48号線の県境にある関山峠から船形山まで続く尾根の中間に位置している。寒風山へは北からも南からも廃道同然
に荒れていたが、平成12年、自衛隊の通信用反射板建設のため整備され、関山峠から栗畑へ通じる奥羽山脈上の縦走が可能になったものである。白髪山と寒風
山間には前白髪山、戸立山、奥寒風山などの小さなピークがいくつもあるので、そのアップダウンを考えると侮れない気がしたが、一方、暑い夏の盛りには不向
きで、この紅葉の時期にこそふさわしいコースにも思える。標高を考えると関山峠から徐々に高度を稼ぎながら白髪山へと登るのが本来なのだろうが、登山口の
わかりやすい観音寺コースからの逆コースを往復することにした。いわば最高地点の白髪山から寒風山へと下りて行き、戻りは逆に白髪山への山登りの行程であ
る。
昨日は目の覚めるような快晴の一日だった。しかし、秋の好天は長続きすることはなく、今日は朝からどんよりとした曇り空が広がっていて、天気予報によれ
ばまもなく初雪の便りも聞こえそうだともいう。おそらく今回が今シーズンの最後の機会かも知れなかった。観音寺登山口にはまだ朝早いということもあって、
軽自動車が4台ほどしかなかった。もしかしたらみんなキノコ採りの車なのだろうか。このコースは昨年、御所山までを歩いているので粟畑まではまだ記憶に新
しかった。
粟畑からは右手の山道へと登ってゆく。灌木帯を抜けると一面の笹原となり、登山道が緩やかに前方への高みへ と続いていた。ここは山スキーで昨年歩いているのだが、夏山と冬山では全く景観が異なり、まるで初めての山を登っているような気分である。傾斜がなだらか になるとまもなく標識のある白髪山に到着した。
山頂には標識があるものの、ほとんど消えかかっていて何とか判読できる程度であった。空は幾分明るくなった のだが、日差しはなく立ち止まると風は異様なほど冷たかった。それでも山頂からの展望は抜群で、切り立った岩壁を誇示している黒伏山がまず目に飛び込んで くる。周辺にはボコボコとしたピークが連なっており、中でもひときわなだらかな山容は月山だろうか。左手には朝日連峰、そして蔵王連峰の手前には面白山や 南面白山、また独特の姿を見せる大東岳が間近に聳え立っていた。この見渡す限りの大パノラマは予想外でもあり、眺めていても飽きることがなかった。
さて、白髪山から南に向う道は、急斜面の始まりだった。途中で一箇所だけトラロープが設置されているもの の、足場というものがなく、気を緩めると滑り落ちてしまいそうなほどの急坂が連続した。いったいどれだけ下ればいいのだろうかといささか不安になるほど高 度が下がってゆく。急斜面が一段落すると前白髪山で、少しだけ一息をついたものの、再び急坂となりどんどんと降りて行く。最低鞍部まで下るとようやく周囲 の景色を見渡す余裕がでてきて、右手には鮮やかな紅葉に彩られた泥沢源頭部があり、うっとりとする眺めが広がっていた。振りかえると白髪山が大きくのしか かってくるようだった。
鞍部から戸立山に続く道はナイフリッジのような狭い尾根上に続いていた。途中、『見晴らし台』と書かれた朽
ちた道標が木に挟んであり、その切り開きの高みからは宮城県側の山並みが見渡せた。徐々に疲れが溜まってきたのだろうか。戸立山への急斜面では足がもつれ
た。やっとの思いで登り切るとようやく戸立山の山頂に着く。ブナの小枝には古びた道標がぶら下がっていたが、山頂を示すものはそれしかなかった。1998
年版のエアリアマップには奥戸立山と記載されているのだが、整備されたのを機会に山名を訂正したものだろうと思われた。やがて木立の間からは三角形のすっ
きりとした山が前方に見えてくる。あれが寒風山なのだろうと思ったが、そこまではまるで谷底に下って行くようなほどの下りが待っていた。このコースは小さ
なアップダウンどころではなく、かなりきつい上り下りを覚悟しなければならないようだった。ここをまた戻ってこなければならないのだと考えるといささか気
が滅入ってくるようだった。
急坂を登り切ったところが奥寒風山だった。三角点はなくやはりブナの小枝に古びた標識がぶら下がっているだけである。ここからはいよいよ寒風山が前方に
迫ってきた。まさしく立ちはだかっているという圧迫感のようなものがある。この区間は短いとはいえ、大きな下りと登り返しであった。さすがにこのぐらい
アップダウンが連続すると両足はまるで棒のようである。一歩登ってはひと呼吸をつきながらの登りが続いた。そして傾斜が緩むと今日の目的である寒風山に到
着した。
山頂には二つの三角点があり、標識もきちんと整備されていた。周りはススキが視界を遮っていて関山峠の展望は余り良くなかったが、国道を走っている車の
音が耐えず聞こえていた。ほとんどここまで休憩を取っていなかったこともあり、ザックをおろして少し休むことにした。登山口からの距離は約6キロ、所要時
間は2時間15分である。短いような、それでいて下りにもかかわらず休みなしに歩き続けたことを考えると、結構時間がかかったような気がした。
さて、戻りの行程は逆に山登りがこれから始まるようなものだった。ふたたび多くの上り下りを繰り返すことを考えると閉口するようなものだったが、少し日
差しが出てきたこともあって、周りの風景には少し明るさが戻っている。紅葉の縦走路を再び楽しめるのだと思い直し、寒風山からの下山に取り掛かった。
一度歩いてきた道とはいえ、戻りの風景はまた全然違ったものにみえて新鮮だった。山登りは縦走もよいのだ
が、こんな楽しみがあるからピストンもそれなりに面白い。台地状の白髪山は遠方にみえていたが、そこまではまだ遥かかなたに見えた。さらに仰ぎ見るほどの
高さがあるので気が遠くなりそうであったが、ここは一歩一歩と登り返してゆくしかない。あの白髪山まではがんばろうと両足に力を込めた。
白髪山では大きなザックを持った登山者が4名ほど休憩中だった。今日はじめて出会った人達である。女性3名と男性1名。いずれも中高年で僕と入れ違いに
寒風山へ下り始めるところだった。彼女たちは昨日、船形山の山頂小屋に泊まり今日は寒風山へと縦走し、最後は関山峠へと下山するのだという。どうやら初め
ての縦走らしかったが、コースタイムなど尋ねられたりしたもののコースへの不安など少しもないような元気ぶりで、みんな笑い合いながら寒風山へと下って
いった。
白髪山からは1時間もあれば登山口に戻ることができる。登り始めは途方もない距離に思えた今日の行程も、終わってみれば紅葉を楽しみながら縦走を味わい
尽くしたような充実感がある。僕はこの白髪山でようやく大休止する気分になった。見上げれば日差しも差し始めて、小春日和のような穏やかな雰囲気に包まれ
ていた。周りには船形山、鳥海山、朝日連峰、そして面白山や蔵王連峰と、数え切れないほどの山並みがあり、この大展望を眺めながら時間の許す限り休んで行
こうと思った。
観音寺登山口 |
紅葉の登山道を歩く |
粟畑 |
仙台カゴと船形山 |
白髪山 |
大東岳と面白山山塊(奥は蔵王連峰) |
戸立山 |
奥寒風山 |
落葉した登山道を歩く |
寒風山 |
泥沢の渓谷と黒伏山(右上) |
寒風山へと縦走するパーティ(白髪山で) |