山 行 記 録

【平成22年6月26日/梶川尾根〜地神山〜丸森尾根



梶川尾根から望む杁差岳



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】梶川峰1692,3m、扇ノ地紙1889m、地神山1,849.6m
【地形図】(2.5万)飯豊山、長者原(20万)福島
【天候】晴れ
【温泉】小国町長者原「梅花皮荘」500円

【参考タイム】
飯豊山荘6:20〜湯沢峰7:40〜滝見場8:05〜五郎清水8:45〜梶川峰9:45-10:10〜扇ノ地紙10:45〜地神山11:10〜
地神北峰11:30-11:50〜丸森峰12:10〜飯豊山荘14:10

【概要】
 久しぶりの梶川尾根である。調べてみたら7年ぶりというから、我ながら驚きだった。体力が落ちているのでできれば日帰りは避けたかったのだが、早ければ夕方から雨が降り出す予報が出ている状況ではしょうがない。早出をすればなんとかなるだろうと早朝自宅を出た。梅雨の真っ直中にあって今日は中休みなのか、気温は30度を超えるらしかった。しかし、コンビニをまわっているうちに、よけいな時間をとってしまい、飯豊山荘からの歩き出しは6時半近くになっていた。朝の清々しさは消え失せて陽はすでに高く、日差しは強くなり始めていた。

 飯豊は5月のホン石転ビ沢以来だが今日はその時よりも車が少なかった。全部で20台程度だろうか。登山届けを提出し湯沢橋を渡るとすぐに梶川尾根の登山口に取り付く。ここは日本でも有数の急登尾根だが、久しぶりに登ってみたら、以前の記憶以上の斜度があって、今更ながらびっくりするほどだ。まるで岩登りの取り付きそのものだ。約600mの高度差を一気に登るのである。当然ながらすぐに汗が全身から噴き出した。まるで一年分の汗をかいたような気がした。

 ようやく1020mの湯沢峰に着くと一段落だ。ここからはダイグラ尾根や前方に飯豊の主稜線が見えた。沢筋にはまだまだ雪渓が残っていて、それはいつもの年よりもかなり多いようにも見える。雪解け水の流れる音がいたるところから聞こえている。この分ならば今日は水には苦労することもなさそうな気がした。湯沢峰からは一旦下ってゆくと滝見場への登りとなる。この辺りは勾配もなだらかで、さらに木陰のおかげで冷気が辺り一帯を覆っており気分が一新するようだ。気温は一気に下がったのか、驚くほどひんやりとしている。歩いていると熱くなった体が生き返るような心地よさに包まれた。

 滝見場では一人の登山者が休んでいた。泊まりの装備らしくザックは結構大きかった。ここからは梅花皮大滝が望める唯一の場所なので、写真を数枚撮ってから再び登りへと取りかかった。見上げると遙か高みにダケカンバが見えた。滝見場から3本カンバと呼ばれる地点まで一気に登るのである。ここは500mほどの急な登りとなる。この付近ではまだシラネアオイが咲いていた。少し登ればハクサンイチゲやサンカヨウが目立った。残雪を踏む場所も結構あって、つい最近までは一面雪の斜面だったようだ。以前、下ったときも夏道を探しながら下ったことを思い出した。

 まもなく五郎清水までくると、ザックがひとつデポされていた。水場まで水汲みにいったのかもしれない。僕は水は豊富だし、この先雪渓の融雪水もとれそうなのでそのまま通過した。ここまでも残雪がけっこう豊富だったが、梶川峰直下まで登るとこれまでとは桁違いの残雪が山の斜面を覆っていた。ここはトットバノ頭で少し前に遭難騒ぎがあった地点でもある。まだまだ多くの残雪に覆われ、夏道を隠しているので、いましばらくは注意が必要なようである。

 梶川峰では寒いほどの風が吹いていた。ここから先は灌木が全くなくなり、広々とした草原が広がっている。高原逍遥といった言葉が似合いそうな区間でもある。肌寒いと感じたのはたぶん大量の汗で濡れたシャツのせいかもしれなかった。休んでいると、まもなく登山者が一人登ってきた。五郎清水にデポしてあったザックの持ち主で、聞いてみると小国山岳会の人であった。今日は梅花皮小屋の小屋番だそうである。話をしているとさらに山岳会の若い男が一人登ってきた。かなりの軽装でザックとは呼べないほどの小さな袋のようなものを背負っているだけだった。

 梶川峰から扇ノ地紙まではこのきつい梶川尾根でも最高の高原散策が楽しめる区間だろう。登山道の両側にはチングルマ、コイワカガミ、ミツバオウレン、ショウジョウバカマ、ミヤマキンポウゲなどの高山植物が咲き乱れでいる。また草原のところどころには空の青さを写して光り輝く池塘が点在している。さらに残雪を豊富に抱いた飯豊の山々が周囲を取り囲む。ここはまさしく飯豊連峰の桃源郷を感じさせた。

 扇ノ地紙は分厚い積雪に覆われていた。大きな標柱もまだ頭しかみえていない。ピークに立ち新潟側を見れば懐かしい二ツ峰を抱いた胎内尾根があった。そしてほとんど雪がなくなった二王子岳の大きな山塊がどうだとばかりに誇示している。扇ノ地紙の標高は約1900mある。天然のクーラーの様な涼風が県境を流れていた。ここからはなだらかな稜線歩きを経て地神山へと向かった。地神山が近づくとハクサンイチゲの群落があった。こうしてみると飯豊は花の山だなあと思わずに入られない。岩場を少し回り込むと地神山山頂だった。誰もいない静かな山頂で小休止をとる。昼食はどこでしようかと迷うところだがまだ11時を少し過ぎただけなので少し先にすることにした。

 地神山の北斜面ではミヤマキンバイやハクサンイチゲ、イワカガミ、チングルマが盛りで、その可憐な花々は疲れ切った心や体を慰めてくれた。杁差岳や頼母木山をバックに写真を撮っていると、頼母木小屋泊まりだという登山者が数人、地神北峰から下ってくるところだった。まだ時間も早いので天候の良い内に門内岳まで往復する予定らしかった。

 地神北峰から丸森峰までもまだ豊富な残雪が残っていた。ガスられると初めての人ならば、間違いなく道に迷うだろうと心配になるほど雪はかなり多い。ここからは梶川尾根の眺めも良いので、草むらにザックを下ろし、少し長めの昼食を取ることにした。残雪の傍らからは音をたてて融雪水が流れていた。飲んでみると切れるほどの冷たさだった。周囲を見渡しても人の姿はどこにもなかった。静かなこの風景は心を和ませてくれた。

 丸森峰までの広い雪原をトラバース気味に下って行く。アイゼンが必要なほどの急斜面だったが、2本のストックを束ねて簡易グリセードで下る。清々しい青空をバックに残雪上には爽やかな風が流れていた。しかし展望がきくのも丸森峰までで、そこからは展望はほとんどなくなった。考えようだが、熱い日差しに体を焼かれるよりは樹林帯の方がはるかに増しである。灌木のトンネルは熱くなった体温をかなり下げてくれた。棒尾根のような急坂だったが、登山道の傍らにはサンカヨウ、ミツバオウレン、シラネアオイ、ツバメオモトなど様々な高山植物が咲いており、単調な下りでも退屈することはなかった。そして疲れた体が癒されるようだった。

 正午はとっくに過ぎていたが、こんな時間でも泊まりの装備を背負いながら、登山者が次々と登ってくる。他人の心配をする余裕はなかったが、みんなも今日の暑さに喘いでいるようだった。夫婦清水まで下ればだいぶ標高が下がったのを実感する。1050m。もう600mを下ればよいだけなのだと思う一方、下れば下るほど気温が上がってゆくばかりで体が参ってしまいそうだった。

 そんなとき、道のかたわらにヒメサユリが数輪咲いていた。今年初めて見るヒメサユリである。周りにはヒメサユリの蕾も多く、隣にはミヤマツツジの鮮やかな赤い花が彩りを添えていた。そして、道端には白いコイワカガミやサンカヨウ、また潅木に混じってタムシバやムラサキヤシオが盛りだった。

 同じ高さに見えていた正面の倉手山がだんだんと見上げるようになる頃、ようやく眼下には天狗平や飯豊山荘の屋根が見えてくる。私は全身から汗が噴き出していた。下るに従って気温がぐんぐん上昇し始めており、途中でペットボトルに詰めていた融雪水を頭からかぶったら、一瞬倒れそうになるほど目眩がした。一種の脳震盪を起こしたらしかったのだが、半分熱中症だったのだろう。僕にとってはやはり夏は苦手な季節である。暑い時期にはやはり登るものでは無いなあと少し後悔しながら飯豊山荘をめざした。


梶川尾根登山口


湯沢峰から稜線を望む


滝見場からの石転ビ沢


サンカヨウ


梶川峰


イワイチョウ


チングルマ


キンポウゲと北股岳(右)


扇ノ地紙


ミネザクラと杁差岳(扇ノ地紙から)


二ツ峰(地神山付近)


ハクサンイチゲと二王子岳(地神山付近)


ハクサンイチゲ(地神山付近)


杁差岳(地神山付近)


ヒメサユリとミヤマツツジ


飯豊山荘に無事下山する


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