山 行 記 録

【平成22年4月3日〜4日/鳥越川から鳥海山】



林道の歩き始め



【メンバー】西川山岳会14名(佐藤辰、柴田、菊池、クサナギ、神田、荒谷、石川、大江、鳴海、蒲生)
       ※ゲスト(天童山岳会・後藤)、斎藤師匠、茨城(飯田、福田)
【山行形態】山スキー、冬山幕営装備一式
【山域】鳥海山
【山名と標高】鳥海山(新山) 2,236m
【地形図】(2.5万)鳥海山、(20万)村上
【天候】(3日)曇りのち風雪(4日)快晴
【温泉】秋田県にかほ市象潟町横岡 湯の台温泉「鶴泉荘」300円
【行程と参考コースタイム】
(3日)林道9:00〜獅子ケ鼻10:00〜930m峰〜テン場(標高980m地点)12:30(幕営)
(4日)テン場8:00〜七五三掛10:10〜新山山頂12:20-13:20〜テン場14:20〜獅子ケ鼻15:30〜林道16:30

【概要】
 鳥海山を山スキーのエリアとしてみた場合、他の山域とは別格のものがある。それはスキー場がないためにその標高差をほとんど自分の足で稼がなければならないからだ。これは山頂までの登頂に苦労する分だけ、充実感も多いということと同義であって、山スキー愛好者にとっては垂涎のエリアであろう。鳥海山には四方八方からコースがとれるが、この鳥越川コースは、登りの標高差が約1800m以上、山頂からの滑走距離14kmもあることから、鳥海山の山スキーとしては随一のロングコースにはいる。祓川コースが約4.5km(片道)、百宅(大清水)コースが約6km(同)ということを考えれば、このコースがいかに長大なものだということがわかる。例えていえば百宅コースを二往復するようなものなのである。

(1日目)
 昨年は所用があってこの会山行に参加できなかった。今回は衰えきった体力をつけるためもあって久しぶりに仲間達との山行に加わってみることにした。鳥海山の広大な山麓に抱かれての幕営生活も楽しみであった。

 予報では明日は晴れそうなものの、今日は雨が降り出すとのこと。里で雨の時は山ではきっと雪になるだろうと思っていたのだが、歩き始めは意外と高曇りの天候であった。気温が高いのだろう。たちまち汗が流れてしまい、シャツを一枚ずつ脱いでいった。

 今年は予想よりも雪が多く感じた。全体的には少ない印象だが、ここ数日間で降った雪も多いのだろう。林道はかなり手前から残雪があって最初からシール登行が可能だった。積雪量も多いので山頂からノンストップで滑走が楽しめそうである。中島平をショートカット気味に横切って行くとまもなく稲倉岳が正面となる。

 穏やかだった天候も930mのやせ尾根が近づくにつれて雪が降り出し、そう思うまもなく風雪模様となってしまった。だれがこんな天候の急変を予想しただろうか。やせ尾根手前で昼食兼休憩をかねて時間調整をするのだが、ただ休んでいるだけで体が冷え切ってしまいそうだった。休憩は早々に切り上げて早めにテント設営をしようかということになった。しかし、風雪はより激しさを増すばかりで森林限界を超えればとてもテントの設営などは不可能に思えた。結局、予定していた幕営地点まで行くのは中止とし、防風も考えてはるか手前のブナ林に幕営することになった。そこはちょうど窪地のような場所であり、悪天候時のテン場としては最適な場所であった。

 悪天候の時のテント設営はなかなかたいへんなものだが、山岳会の仲間はみんな手慣れたものである。いつものように柴田氏は芸術品のようなトイレを男女別それぞれに作ってくれて、まさしく鳥海山麓の豪華ホテルがたちまちできあがった。テントに入ればなにはともあれ明日の好天を祈念して乾杯となった。7人用のエスパースに14人が車座になるとさすがにすし詰め状態となったが、こんな悪天候の時には狭いテントが逆に温かい。テント内はまさしく天国であった。

 風雪は一向に止む気配はなかった。外の荒れ模様を余所に僕たちは早い時間から宴会モードに突入となった。この日のメニューは竜門小屋の管理人である石川さんによる鴨鍋である。この鴨肉は普通の手段ではとても手に入らないような極上のものらしっかた。これを特別なルートで仕入れてきた名料理長石川さんのおかげで、下界では味わえないような超豪華な夕食が楽しめたのだから僕たちは幸せであった。

(2日目)
 翌日は予報通りの快晴の空が広がった。前日の猛吹雪がまるで嘘のようなピーカンであった。僕たちは5時起床ではあったが、14名分の朝食ともなると一度にはできず、その分だけ予想以上の時間がかかった。

 テン場出発は午前8時だった。今日の行程はロングコースなのでほとんどの人達はサブザックに身を整えていた。テントはポールだけ抜き取ってテン場にデポしてゆく。日はすでに高くのぼり、強い日差しのため雪面がまぶしいほどに輝いていた。今日の登りは高度差にして1200m以上あるのだ。数字を考えると気が遠くなりそうな気がするのでゆっくりと登ろう。

 目の前の高みを乗り越えると鳥海山の全貌が現れた。それは何回眺めても迫力ある光景だった。七高山と新山の鋭い二つの頂きはまさしく双耳峰だ。雪を抱いた姿はまるで日本の光景ではないようにも見える。今回はスノーシューの二人組もゲストで参加していた。この茨城の若い二人組は自家製のスノーボードを持ってきていてなかなかユニークだ。つまりあわよくば鳥海山の山頂から滑ろうという魂胆らしかった。

 僕たちの歩みは遅々として進まなかった。山頂は紺碧の空にはっきりと見えるのだが、あまりに雪原が広大なために距離感に錯覚があるのだ。しかし、七五三掛の急斜面さえ越せばそこはすでに1800m。すでに行程の半分以上は過ぎているのだ。山頂までは標高差にして約400mだが、僕は久しぶりの山行ですでに疲れ切っていた。両足はちょっとした拍子につりそうになっていた。

 左手に荒神ケ岳が迫り、見上げる空は濃い群青色だった。まるで宇宙の闇が透けて見えるかのようだ。例年だと左手から新山へと直登するのだが、今回は安全策をとって山頂へは千蛇谷を詰めてゆくことにしたようである。遠回りにはなるのだがこれだと全員が安心して新山へと登り詰めることができる。右手の七高山は巨大なシュカブラの岩壁になっていた。エビのシッポの極致とでもいおうか。想像を絶するような風雪に常に晒されているのだろう。今日もこのシュカブラに強風があたり、それが雪煙となって岩壁を這いあがって行く。まるで雪煙が生き物のように直登してゆくのである。こんな光景をみるのは初めてだった。

 まもなくすると七高山との鞍部にでて、そこから新山へはひと登りであった。先行組は早かったが遅れているひともいる。僕たちはさっそく新山への岩峰に登ることにした。前回もスキーでピークに立ったが、今回はスキーアイゼンさえ効かないほど凍っている。それでも柴田さんと僕は根性でスキーで山頂に立った。この達成感はスキーで登り切った者だけのものだろう。感無量の思いに浸りながら周囲の風景に酔いしれた。

 まもなく全員が無事そろったところでとりあえず昼食としよう。しかし山頂は風が強くとても休めるどころではない。東北で1、2位を争う標高だけあって、風の冷たさはハンパではないのである。僕たちはシールをはずしていったん新山への東側へと降りた地点で大休止をとることにした。そこはちょうど鞍部になっていて風はほとんどない場所だった。しばらく山頂を踏んだ余韻に浸りながら昼食時間を過ごした。

 新山からは標高差1800m以上の滑降が待っている。部分的にアイスバーンはあるものの、前日の新雪がほどよいパウダーとなってターンを助けてくれた。この時期にきてこれ以上の雪質はなかなかないだろうと思えるほどでる。しばらく登りの疲れなどすっかり忘れたかのように、みんな広大な斜面にそれぞれ散っていった。山頂では手先が凍りそうな程気温が低かったのだが、少し下ると風は全くなくなってしまった。そして気温の上昇を肌で感じるようになった。

 スノーシューの二人組は最後尾を追ってきていたが、今日のスキー組は予想以上に足並みがそろっていたせいで、この二人組とは次第に距離が離れていった。しかし、今日の快晴ならば心配ないだろうということで、僕たちはテン場まで一気に下った。

 テン場までは山頂からおよそ1時間で下った。スノーシュー組はまだまだ下ってくる様子はなさそうだった。ここで予定があって早立ちする者とスノーシュー組を待つ組とに分かれての行動となった。僕を含めて3名はしばらく誰もいなくなったテン場でスノーシュー組を待つことになった。それでも二人は予想以上に早めにテン場へと下ってきた。僕たちはパッキングの手伝いをしながらしばらく時間を費やした。テン場の後片づけが終わればスキー班3名と二人組とに別れて一路、駐車場へと下るだけである。しかし、スキーと歩きでは比較にならないほどの違いがある。先発隊はすでに温泉へでも向かったのか無線もつながらなかった。

 結局、僕たちは4時半頃に駐車地点に着いたのだが、歩きのスノーシュー組もそれほど待つことなく下ってきてびっくりした。僕たちとは30分程の違いしかなかった。二人はきっと迷惑をかけているのことを気にして全区間走ってきたのだろうと思った。こうして14名による山行は最高の天候に恵まれて無事に終わった。あとは温泉を楽しみにするだけである。振り返ると空には雲一つ見あたらない。その青空にくっきりとした白い鳥海山が、午後の日差しを浴びて鈍く輝いているのが印象的であった。


鳥海山をバックに(帰路)


笑い声が絶えないテント内


名シェフ


快晴の二日目


稲倉岳をバックに


新山が目前


新山のピーク目前


山頂に立つ


山頂に立つ


山頂に立つ


七高山のシュカブラ!


千蛇谷の滑降


稲倉岳を正面に


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