ヤセ尾根やアップダウンを繰り返すと明瞭な尾根歩きとなる。右手には大桧原沢を挟んで台地状の石見堂岳が新雪をまとって輝いていた。700mを超えると前方に急斜面が現れる。ここをクリアすればまたなだらかな雪原が広がるようになる。この赤見堂岳コースはこんなことの繰り返しが続いた。高度1100mを超えると後続部隊から無線が入る。「初心者のことを考えてここで休憩とする。先発隊は行けるところまでいってほしい」とのことだった。時間は11時。タイムリミットを12時前後と設定し、僕たちはさらに上を目指した。
馬場平近くになると広い雪原となる。左手奥には障子ガ岳や紫ナデなどの山並みが見渡せる格好の展望箇所だ。前方には大きな雪庇が張り出していて、その奥には真っ白い赤見堂岳がそびえていた。歩き始めてまだ4時間弱。赤見堂岳までは最低でも6時間は必要なので山頂は最初からあきらめている。せめて馬場平までゆこうとさらに歩みを進めた。
この馬場平付近からの光景はまさしく桃源郷を思わせるところだ。無木立の雪原にはわずかのブナ林があるだけで、心が洗われる思いがする光景が展開する。いつきてもここは朝日連峰の奥座敷、あるいは別世界を感じさせた。馬場平から先はまだ距離が残っている。すでに西の空からは雪雲が近づいていた。今日はこの辺が潮時だろうと判断し、見晴らしのよい場所を選んで大休止とした。微風はあるもののほとんど無風快晴。石見堂岳や月山の展望をたのしみながらの昼食は至福の時間でもあった。
休憩が終われば待ちに待った滑降のはじまりだ。みんな思い思いのシュプールを描きながらの滑降は快適そのものである。スノーボーダーの若い鈴木さんは狭い林間をものともせずにスピードに乗って吹っ飛んでいった。この人は岩登りのは国体選手といっていたのだが、ボードの技術も並大抵ではない。僕も追いついてゆくのがやっとであった。
やがて後続部隊と合流するとそこからはのんびりとした滑降となる。下るに従ってパウダーから少し重い雪面へと変わっていた。おかげでターンも思うようにならないので転倒者も続出する。斜度があればそこそこ滑るのだが、緩斜面と重い雪質ではそう簡単ではなかった。山スキーが初心者の女性は柴田さんが付きっきりで面倒をみてくれている。
そんな矢先、先発隊の7名は少し急斜面を下ってみようかということになる。みんなを待っている間にまた登り返してくればいいという判断でもあった。ところが滑ってみるとこれが斜度があるだけに楽しいばかりであっという間に沢底近くまで滑っていってしまった。ここからは本来のルートに戻りつつトラバースを試みてゆく。もちろん後続部隊とは無線で連絡を取り合いながらである。
そのトラバースもなかなかうまくゆかず、結局ルートを見定めながら沢沿いに下ってゆこうとなった。そこまではよかったのである。しかし前方に堰堤が現れるとルートを大きく逸れているのを自覚しないわけにはゆかなかった。結局、渡渉を2回ほど繰り返して県道へと飛び出したのは時間もかなりたってからであった。山スキーでは少々のルート違いは当たり前だが、みんなには迷惑をかけてしまった。僕個人としてはアドベンチャーに満ちた山スキーらしい一日となって、いつにも増して充実した一日が終わった。
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登り始め |
快適な尾根歩き |
遠方に障子ガ岳 |
石見堂岳(馬場平付近) |
馬場平から滑降開始 |
至福の時間 |
ボーダー |
絶妙な滑りです |
最後は渡渉が待っていた |