蔵王ライザスキー場は駐車場でさえも視界不良だった。着いた時間も遅いというのに駐車場はガラガラに空いている。こんなときの蔵王の稜線は体も吹き飛ばされるような強風が予想されたが、まあ避難小屋までならば問題ないだろうとリフトに乗り込んだ。
リフト終点からはワカンや山スキーのトレースが残っていた。こんな天候でもやはり物好きはいるものだと思うとうれしくなる。登ってみるとラッセルというほどではなく、せいぜいくるぶし程度しかスキーは沈まなかった。視界はほとんどなく、追い討ちをかけるように強風が背中にぶつかってくるようだった。
リフト終点からは馬の背直下まで長いポールが道案内をしてくれるので迷う心配はなかったが、今日はそのポールさえわからないほどだった。黙々とトレースを追っているとまもなくお田ノ神避難小屋がうっすらと見えてくる。風雪は相変わらずだったがまだ時間も早いのでもう少し進んでみようかと欲がでてくる。さらにポール伝いに歩いてゆくと廃線リフト小屋に着く。強風はすさまじいほどで、視界は数メートル先さえわからなかった。先人達は刈田岳まで登ったのだろうか。人影もなく、ここに立ち寄ったという痕跡さえなかった。
馬の背まではもうひと登りだったが登ってもなんの楽しみもなさそうだと思うと意欲が湧かなかった。小休止を終えたところでシールをはずして避難小屋へと引き返した。するとブリザードのような強風が正面から襲ってきた。やれやれ、こんなことならば目出し帽やゴーグルで身を固めるべきだったようだ。そんなことを考えていると前方から単独のひとが登ってくるところであった。こんな悪天候によく登ってくるものだとあきれていると、相手から名前を呼ばれた。よくよくみれば友人の丹野さんであった。山の世界は相変わらず狭いなあと思わずにはいられない。悪天候などどこ吹く風だと思うような人たちはやはり世の中にはいくらもいるものなのだ。思わずうれしくなり立ち話をしばらくした。
お田ノ神避難小屋はまだ誰も入った形跡がなかった。中にはいるとさっそくストーブに火をいれて、備え付けのラジオをつけた。今日のような悪天候時はこの山小屋はまさに天国のように思えてくる。しばらくコーヒーを飲んだりしながらひとり憩いのひとときを楽しんだ。
休んでいる間にも天候が回復すればと思っていたがその兆しは微塵もなかった。後片付けを終えて小屋をでると入れ替わりにスノーシューの団体がやってきた。みんなはリフト終点からまっすぐに小屋へとやってきたようだった。先ほどの反省をふまえて今度は目出し帽にゴーグル、そしてネックウォーマーもザックから取り出した。これならば吹き荒れる風雪にも向かって行けそうだった。
リフトトップからはリフト下のパウダーを滑ってゆく。まだ誰もすべってはいないファーストトラックは至福の浮遊感を感じさせた。おっと怒られないうちに樹林帯へ潜り込んでゆかなければ。今日はこんなことでもしないと身がもちそうもなかった。整地されたゲレンデは全く滑る気持ちにもなれず、その後も狭い林間を滑りながら駐車場へとおりていった。