登山口では時々日射しが眩しいほどに降り注ぎ、半分あきらめていた気持ちも少しずつみなぎってくるようだった。山頂付近の天候はわからないが登ってみるしかなさそうだ。初めてのコースだったがよく歩かれている様子で道は予想以上によい。カラマツ林を過ぎると辺り一帯にはブナの二次林が広がった。斜度は緩やかでここはハイキングにこそふさわしいコースのようである。登りの所要時間が2時間程度なので体力的に疲労気味の僕にとってはほど良い山という感じであった。
暑い季節はいつのまにか過ぎ去り、山ではすっかり秋の気配が漂っていた。しかし上空では終始、轟音のような風音が止まず、時々ブナ林が風に煽られて大きくしなった。低気圧がちょうど上空を通過中と思われた。樹林帯のおかげで登るには支障はなかったが、天地を揺り動かすほどの風音は聞いていても決して気持ちの良いものではなかった。
高度が1300mを越えるとダケカンバやカラマツ、アカマツなどが多くなる。小さな沢を2箇所通過するとまもなく森林限界だった。いつのまにか日射しは全くなくなっていて、そこは濃霧と強風が吹き荒れる世界だった。山頂直下は大日向と呼ばれるガレ場でコガ沢に下る分岐点にもなっている。風はまさしく台風と同様で凄まじいほどだ。一歩進もうとしても体ごと吹き飛ばされてしまった。風速は軽く20mを超えているかもしれなかった。高度計は1615mを指していた。山頂まではもう40mほどしかなかったが、とても前進できるものではなかった。こんな荒れ模様では展望どころではない。あきらめて下ろう。途中で雨具をきていたが濃霧のためにすっかりと濡れてしまっていた。樹林帯にもどるまでは体を横倒しにして歩かなければならなかった。
ダケカンバの林に入ると風が治まり、ようやく一息を着くことができた。轟音のような風音は相変わらずで、まるでジェット機が休み無しに上空を飛んでいるような不気味さが漂う。予定ではもう少し天候は回復しそうな気がしていたのだが、山の天候は期待通りにはいつもゆかない。なだらかな下り坂だったが、こんなときに限って思わぬ怪我などするものである。意識して足下に気をつけながらブナ林の中を歩き続けた。(作業中)