昼前後からは雷の恐れもあるという予報も少し気がかりなので早立ちした。まだ7時前なのに大石橋の駐車場はすでに満杯で手前の大駐車場に止めた。登山届記載所に届けを提出しさっそく登り始める。しばらくゆくと大朝日岳との分岐点には「飯豊・朝日を愛する会」で設置したと思われる、祝瓶山を示す真新しい白い標柱がたっていた。
急坂を登るとすぐに汗が噴き出した。今日は体調の悪さに加えて朝からの蒸し暑さも追い打ちをかけるようである。じっとりとして不快な気分が終始まとわりついた。登りが一段落すると前方に一ノ塔のピークが見えてきたが、その上部には広い範囲に雲がかかっていた。だらだらとした稜線歩きが終わると今度は一ノ塔への急坂となる。ここを登れば山頂も目前となるのだが、体調は一向に快復はせず、何回か途中で休まなければならなかった。
一ノ塔にはちょうど9時についた。ここまで2時間もかかっている。山頂は相変わらず雲に隠れて見えなかったが、時々薄日が差し込むと針生平が俯瞰できるまでになった。残りの標高差は約200m程度だから山頂まではまもなくだ。そんな時一人の登山者が下ってくるのに出会った。声をかけてみると、意外にも赤鼻尾根を下るのだという人であった。聞き間違えではなかった。もちろんその分岐点は祝瓶山の山頂直下であってとっくに通り過ぎてきたわけである。どうやらその人は分岐を見逃し、誤って小国側へと直進してきたものらしかった。福島から来たというその人とは赤鼻尾根の分岐まで一緒に案内することにした。
ヒメサユリは赤鼻尾根の分岐近くまできたところでようやく出会うことができた。そして分岐を過ぎるとヒメサユリはいたるところに咲いているのが目に入ってくる。祝瓶山のヒメサユリはちょうど今が盛りをみせていて、登山道の両側は群生しているといった華やかさに満ちていた。祝瓶山の北斜面にはまだ雪が残っていて、この淡いピンクのヒメサユリと新緑のブナ林や潅木類、そして残雪の白さがとても美しく、しばらくカメラの撮影に時間を費やした。
やがてたどりついた祝瓶山の山頂には結構人だかりができていた。小国側から登ったのは他に一人だけで残りは長井側からの団体達であった。その人たちの情報によると長井側ではすでにニッコウキスゲもかなり咲いているということだったが、考えてみると小国側には一輪も見あたらなかった。僕たちは全く雲の中に入ってしまったらしく山頂からの展望はなかった。僕はとりあえずおにぎりなどを食べ終えると横になって晴れるのを待つことにした。眠りながら耳をそばだてていると、団体の残りのメンバーと思われる人たちが次々と登ってくるようだった。全員揃ってしまうと、団体組は山頂の寒さにうんざりしたのか、ザックからエスパースを取り出して山頂に設営した。みんなテントの中に入ってしまうと一人取り残された気分にもなったのだが、一方ではむしろ静かな山が戻って来たような雰囲気に満たされた。
その後いくら待っても晴れる兆しはないのをみて僕はまもなく下山することにした。下山を始めると往路ではまだつぼみだったヒメサユリが早くも開花しているのが印象的であった。下るほどに気温が上昇してきて汗は止めどなく流れ続けた。朝方の涼しさはとうになくなり暑くなる一方のようであった。今日の蒸し暑さにもかかわらずこれから登ってくる人もいて多くの人達とすれ違った。
空は幾分晴れ間が広がり明るさを取り戻していた。しかし、大玉山や北大玉山までは展望が利くようになったものの、大朝日岳は以前として分厚い雲に覆われたままであった。僕は山頂の空気に触れて気分も一時は落ちついたかに見えたのだが、今日の空模様と同様に、頭痛はまだすっきりとは治りきってはいなかった。むしろ無理をして下り続けると倒れてしまいそうなほど体調は悪化しているのも感じていた。途中では何回か腰をおろして休憩をとった。結局、登りで要した以上の時間をかけて大石橋まで下らなければならなかった。
大石橋 |
大朝日岳と祝瓶山との分岐 |
一ノ塔から針生平を見下ろす |
祝瓶山 |