今回はここからただ登るだけではつまらないのでお釜の外輪である五色岳を巡ることにした。久しぶりの山行き。そして高山植物が花盛りの湿原を眺めていると気持ちが癒されるようである。この時期はワタスゲ、ハクサンチドリ、コイワカガミ、サラサドウダン、ツマトリソウなどが湿原を彩っている。一方チングルマは半分以上は花が散ってしまい赤色の果穂を風になびかせていた。僕はこのお花畑にすっかりはまってしまい、写真も撮り放題なのでなかなか歩みもはかどらなかった。お田ノ神湿原からは登山道をたどって馬ノ背へと登ってゆく。途中エコーラインを横断すればすぐに廃線リフトの小屋に着く。冬場には何度も通過しているところだが、カミさんは初めてなので新鮮な驚きを感じているようだ。本来の登山道は夏山リフトのある大駐車場から上がれるのだが、僕たちは人混みを避けるさめにそのまま廃線リフト沿いに進んだ。風は予想以上に強く寒いほどであった。下界は猛暑でもここだけは別世界。休憩時には上着を羽織らなければならなかった。
馬の背では多くの登山者や観光客が行き交っていた。ここからはまっすぐにお釜に下りてゆくだけだ。ロープをくぐるのに躊躇っていたカミさんも恐る恐るついてきている。カミさんは少しくだっただけで違って見えるお釜の迫力に驚いている。ざわめきだっていた馬ノ背の喧噪もすぐに遠ざかった。
岩稜帯を下っていると早くも五色岳を一周してきたと思われる単独の登山者とすれ違った。結局今日の五色岳で出会った人はこの一人だけであった。お釜の畔にでる直前で岩場への登りにさしかかる。登り切ったところは意外と広い砂礫地になっていてここには早くもコマクサが咲いていた。まだ時期的には早いつもりでいただけに予想外の喜びに浸った。コマクサは行く先々で出会う羽目になり写真撮影はここでも忙しくなった。見渡しても誰もいないので今日はこのコマクサの群落が二人だけの貸し切りのようだった。
稜線にはケルンが二つあり、ちょうど分岐点の標注のような役目をしている。五色岳の山頂は左へと進んだ一際高いピークだ。風は相変わらず強く稜線ではますます激しさを増してくるようであった。五色岳の山頂付近では時々砂塵を舞いあげながら東側に流れてゆく。さながら砂煙である。まもなく到着した五色岳の山頂からは火口壁の大迫力が圧巻であった。人口に膾炙しすぎた感じもするお釜だが、こうして人もいない五色岳山頂から眺める大パノラマにはあらためて感激するばかりだ。ここにもケルンが立っていて、近くにはこれから咲き始めると思われるコマクサが風に揺れていた。馬ノ背を歩いている人はあまりに小さくて目をよく凝らしてもよくわからない。多くの人で賑わっているのだろうが、ここまではその喧噪が少しも聞こえず、五色岳はまさしく別世界であった。しかし、山頂の風の強さはハンパではなくこれでは休憩どころではなかった。見上げると青空に残雪の岩肌が映えて初夏の高山といった風情がたっぷりだが、昼食はお釜の畔に下りてからとることにした。
僕たちはお釜の畔でのんびりと休憩を楽しんだ。下界の暑さがここでは信じられないような快適さがあり、横になっていると僕はいつのまにか眠っていたようである。目を覚ましたときには1時間ほどが経っていた。休憩が終われば馬ノ背まではまた200m近い登り返しが待っている。またあの騒々しいような馬ノ背に戻るのは気が重かったし、いつまでも休んでいたかったのだがそうもしていられない。
あまりにのんびりとし過ぎたのだろうか。体は重く馬ノ背への登り返しは結構つらいものがあった。しかし、カミさんは普段は目にすることのできない風景を初めて眺めて満足したのか、今度は刈田岳にも立ち寄ってゆこうという。はじめは体調に自信がなさそうにしていたのだが、ここまでゆっくりと歩いてきて予想外に元気を取り戻したようであった。
馬ノ背や刈田岳周辺は予想どおり大勢の観光客で混雑を呈していた。エコーラインを利用して県外からも次々と大型観光バスがやってくるようだった。ここでは登山者が逆に余所者のようでもあり大きなザックを背負っているのが少し恥ずかしいくらいだ。僕たちは人の目線を極力無視して先を急いだ。刈田神社に参拝すればもう山頂はご用済みである。馬の背からは登山リフトの左手に伸びている正規の登山道に沿って下った。ここでも出会う人は2〜3人といった程度でほとんどの人たちはリフトを利用して往復しているようであった。途中、ここには花らしい花はなかったがムラサキヤシオがひとかたまりほど近くにあって、その空間だけが際だつような華やかさに包まれているのが印象的であった。
チングルマ |
ワタスゲの咲く湿原を歩く |
五色岳のコマクサ |
休憩を終えて歩き始める |