三体山へは合地沢の桂谷吊橋を渡ることから始まる。山腹をへつるように進むとやがて桂谷集落のあった付近を通過する。今でこそダム建設などで道路も良くなり何の苦労もなくなったが、桂谷というと少し前までは秘境ともいえるような山奥であった。この辺境の地に集落があったなどとはとても信じられないほどだ。まもなくすると桂谷分校跡地の標識に出会う。辺り一帯は草が生い茂っていて昔日の面影はない。林道を右手へと折れて行き、しばらくゆくとやがて三体山登山口だ。ここまで約40分。山菜採りなどの道草のため意外と時間がかかっていた。
尾根に取り付くと急坂の始まりだ。足場といったものもないので登るのに結構難儀する。登山道にはギンリョウソウやイワウチワ、ショウジョウバカマなどが目立つ。ミヤマツツジもところどころに点在するがムラサキヤシオはまだ蕾であった。怒濤のような急斜面が一段落すると左手には長井ダムの工事現場が望めるようになる。視界が効くのはこの辺りまでで次第に濃霧に包まれてゆく。雲行きも怪しくなりはじめている。どうやら雨雲のなかに入ったらしかった。813m点をすぎてしばらく登るとやがて雨量計跡地に着く。標高は約950m。なんとか読める程度の看板が足元に横たわっているだけで、ここに雨量計があったという形跡は見られない。
道ははっきりしているのだが、4年前と比べると木々が大きく生い茂り、少しヤブっぽい箇所が目立った。初めてならば少し迷いそうなところだ。急斜面をさらに登ると雪渓を2ヶ所横断する。残雪に加えて今日の濃霧ではコースが少々わかりづらくなっていた。もうまもなく山頂だろうという地点で、周囲が急に薄暗くなり、ほとなく不気味な雷鳴が轟いた。こんな場所での雷はやはり恐い。雷鳴はなかなか遠ざかる様子はないので、しばらく腰をおろして雷の通り過ぎるのを待つことにした。そんなことをしているうちに雨がポツリポツリと降り出してきてしまった。
これでは山頂での昼食はあきらめるしかないようだ。ザックをおいて山頂を往復してくることにした。三体山の山頂にはちょうど3時間で到着した。小雨が降りしきる中の山頂では気分もいまひとつだ。三角点の少し先が展望台になっているのだが、当然ながら見えるものは何もなく、ただ白い闇が漂っているだけである。今回も祝瓶山の雄姿はお預けとなってしまったようだ。また三体山からは西山新道にも下りてゆけるのだがこちらもあきらめるしかなかった。この三体山は身近な山でありながらなかなか山の女神は微笑んではくれない。三体山の象徴となっている「臥竜の松」だけを確認して僕たちは雨の山頂を後にした。