本山小屋を出ると風は穏やかなものになっていた。雪質も大分緩んでいて登ってきたときのアイスバーンではなくなっている。絶好の滑降条件と言っても良さそうである。おむろノ沢は昨年とほとんど変わらないほどの大雪面であった。斜度もかなり急なのだがあまりに広いので恐怖感などはほとんどない。まさしくこの楽しみのために苦しい登りに耐えてきたのだ。遠慮は無用である。一人が滑り始めるとメンバーは次々と急斜面へと飛び込んでいった。その様子はまるでゴムが切れてしまった紙飛行機のようでもある。しばらく至福のような時間が続いた。
急斜面の末端付近で尾根が両側から迫る狭い場所がある。通称ノドと呼んでいるところだが、その地点を過ぎれば後は安全地帯だ。ここからは緩斜面となりあとはおむろノ沢出合までまっしぐらだ。ここもスキーは結構走った。振り返るとたちまち後続が見えなくなってしまった。おむろノ沢出合では雪解け水を飲みながら乾いた喉を潤した。みんなの表情もおむろノ沢を無事に滑り終えた満足感に溢れている。シールを貼りなおしていると近くでウグイスの鳴き声がした。そして青葉の香りを運んでくるような薫風がどこからともなく流れてくる。ここはまさしく別世界だった。この人里離れたこのおむろノ沢に佇んでいると時間の立つのを忘れてしまいそうであった。
おむろノ沢出合からは地蔵岳への登り返しが待っている。今回は元のコースを戻らずに地蔵岳へと直登してみようかと新たなルート探索が急遽決まった。未知のルートというのはそれだけで魅力的だ。登るに従って背後の飯豊山が大きく立ち上がってくる。その飯豊山は離れてゆくどころか逆に迫力が増すようだった。まるで望遠で見ているような風景にみんなが圧倒された。ブナの芽吹きにはまだ早かったもののここは桃源郷のようなものだろう。信じられないようなブナ林が広がっていたりしてこの予想外の展開には驚きの連続であった。
地蔵岳山頂に戻ったのは15時20分。朝歩き始めてからちょうど10時間であった。まだまだ陽は高い。それに今回は雪が豊富なのでまだまだ滑って行けるのである。部分的には狭い雪稜もあったが横滑りなどを多用しながら凌いで行く。雪が豊富というのはこんなに楽なのかと思うほどの快適さだ。あまりに快適なために気付いたときには長ノ助清水を通り過ぎてしまっていた。あとはスキーを担いで大日杉に下る行程が残っている。しかし30分もすれば下界なのだ。長い一日だったが今年もまた飯豊本山からのダイレクトコースを滑り切った喜びが心をいっぱいに満たしている。この心地よい余韻に浸りながら僕たちは大日杉に向かった。
大日杉 |
ザンゲ坂 |
長ノ助清水でスキーをはく |
尾根に日射しが降り注ぐ |
見た目よりきつい斜面です |
飯豊山が左手に |
地蔵岳が正面! |
おむろノ沢出合付近 |
無名尾根への急斜面を登る |
稜線に到着です |
続々と稜線に到着 |
無名尾根をゆく |
地蔵岳をバックに |
本山小屋が正面! |
冬期入口の掘り出し |
小屋から眺める三角点 |
トイレもまだ雪の中 |
おむろノ沢への滑降開始 |
ノドの通過 |
至福の時間 |
至福の時間 |
至福の時間 |
至福の時間 |
至福の時間 |
至福の時間 |
至福の時間 |
おむろノ沢出合のスノーブリッジ |
ここから地蔵岳への登り返しが始まります |
桃源郷のようなブナ林が広がっていました |
大日杉に無事到着 |