山 行 記 録

【平成21年4月29日/大日杉〜地蔵岳〜大又沢〜飯豊山〜おむろノ沢〜地蔵岳



おむろノ沢をゆく



【メンバー】7名(柴田、上野、荒谷、大場、山下、大江、蒲生)
【山行形態】山スキー、春山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】 地蔵岳 1538.9m、飯豊山2102m
【地形図 1/25000】岩倉、飯豊山、大日岳
【天候】晴れ(快晴)
【温泉】飯豊町須郷「白川荘」400円
【参考タイム】
大日杉小屋5:20〜ザンゲ坂〜長ノ助清水6:30〜地蔵岳8:10-30〜大又沢出合〜おむろノ沢出合9:00〜無名尾根10:20-50〜飯豊本山12:00-13:00〜おむろノ沢出合14:00〜地蔵岳15:20〜長ノ助清水16:20〜大日杉小屋17:00
  
【概要】
 1年ぶりのおむろノ沢。昨年があまりに出来過ぎだったために西川山岳会としてはこのコースも定番になりつつあるようである。なお今年は雪が少ないため去年より3週間前倒しの計画とした。幸い大日杉までの通行がすでに可能だという情報を得たため早速実行となったものである。このおむろノ沢は往復2300mの標高差を登らなければならず、早出は必須なので昨年同様に集合は午前5時。前日から大日杉に車中泊の5名と当日の参加者2名を加えて今回は7名での出発となった。

 大日杉では朝から冷え込みが厳しかった。林道の除雪はようやく終了したばかりらしく周りにはまだまだ多くの雪が残っていた。おかげでザンゲ坂まではすべて雪上歩きが可能だった。そのザンゲ坂は朝方の冷え込みで雪は堅く締まり、アイゼンも必要な状況だったが、枝などにつかまりながらなんとか急坂を登る。この急斜面ではかなりの汗を搾り取られてしまった。尾根に出たところで下着をすべて脱ぎ上も半袖一枚になった。

 今日は朝から強い日射しが降り注いでいた。空を見上げても一片の雲さえ見当たらない。気温はすごい勢いで上昇しているようだった。尾根は完全な夏道であり、登山道ではイワウチワが盛りを見せていた。スキーに明け暮れている内に季節は否応なく進んでいるようであった。まもなくすると登山道にも積雪が現れる。それも前日降ったばかりのような新雪がいたるところにある。シール登高が可能となったのは長ノ助清水付近からであった。担いでいたスキーを下ろせる開放感ほどうれしいものはない。バックカントリーはシール登高があってこその楽しみだとあらためて思う瞬間でもある。左手に種蒔山や三国岳の稜線が見えてくるとダマシ地蔵もまもなくだ。地蔵岳の奥には飯豊山が大きく望めるようになり、このすばらしい光景に思わずたちどまってしまうほどである。飯豊山はまだ多くの積雪を抱いていて夏山とは全く別の風格を感じさせた。

 地蔵岳には3時間弱で到着した。ここからはいったんシールをはずして大又沢出合まではおよそ400mのスキー滑走となる。雪面はまだまだ堅いのでここは大きく左手から卷くことにした。大又沢の沢底に降り立つと雪渓には大きな穴が二つ開いていた。ここは昨年同様に急斜面を卷きながら迂回策をとった。少し下ればそこはおむろノ沢出合だ。この地点に立つとまるで異空間にでも放り込まれたような不思議な感動を覚える。普段では見慣れない光景が展開するからだろう。それは期待以上の景観を目にした時の喜びでもあった。おむろノ沢はデブリもあったが雪庇はほとんど落ち尽くした感じもあって問題はなさそうだった。

 しばらく快適なシール登高が続いた。そしていつもの地点からは尾根への急斜面へと取り付いてゆく。ここの急坂は石転ビ沢を髣髴させるようなところで上部は見えるのだがなかなか稜線は近づかない。斜度は少しずつきつくなっていった。雪の照り返しも暑くて喉の乾きには雪を食べて凌いだ。急斜面を登り切ると広い尾根に出た。この無名尾根はまるで広い雪原のようでもある。尾根上は開放感にあふれ、爽やかな風が流れると疲れ切った体がたちまち息を吹き返すようだった。

 無名尾根をしばらく登ると前方左手におむろノ沢の全容が現れてくる。前方には小さく本山小屋が見えてくるところだ。右手にはダイグラ尾根がありその奥には梶川尾根と杁差岳が見えた。見慣れない方角からの光景には思わず固唾をのんだ。一方、両足の筋肉は疲労で切れそうなほどだ。全身疲れ切っていたが一歩一歩ゆっくりと登った。

 本山小屋にはちょうど正午に登りついた。昨年よりも20分も早い到着であった。本山小屋からの展望は文句無し。飯豊山の三角点、御西岳、大日岳は新雪を抱いてまぶしいほどに輝いている。まさしく絶景であろう。春山では霞がかかることも多いのだが今日だけは特別のようだ。見えないものはほとんどないといっても良さそうなほどの大展望であった。上空は素晴らしい快晴だったが風は冷たかった。これでは寒くてとても外での休憩は無理だろうと、柴田氏はさっそく冬期小屋入口の掘り出しにかかった。小屋にはいると別世界のような暖かさを感じた。僕たちはスキー靴を脱ぎしばらくのんびりとした時間を過ごした。

 本山小屋を出ると風は穏やかなものになっていた。雪質も大分緩んでいて登ってきたときのアイスバーンではなくなっている。絶好の滑降条件と言っても良さそうである。おむろノ沢は昨年とほとんど変わらないほどの大雪面であった。斜度もかなり急なのだがあまりに広いので恐怖感などはほとんどない。まさしくこの楽しみのために苦しい登りに耐えてきたのだ。遠慮は無用である。一人が滑り始めるとメンバーは次々と急斜面へと飛び込んでいった。その様子はまるでゴムが切れてしまった紙飛行機のようでもある。しばらく至福のような時間が続いた。

 急斜面の末端付近で尾根が両側から迫る狭い場所がある。通称ノドと呼んでいるところだが、その地点を過ぎれば後は安全地帯だ。ここからは緩斜面となりあとはおむろノ沢出合までまっしぐらだ。ここもスキーは結構走った。振り返るとたちまち後続が見えなくなってしまった。おむろノ沢出合では雪解け水を飲みながら乾いた喉を潤した。みんなの表情もおむろノ沢を無事に滑り終えた満足感に溢れている。シールを貼りなおしていると近くでウグイスの鳴き声がした。そして青葉の香りを運んでくるような薫風がどこからともなく流れてくる。ここはまさしく別世界だった。この人里離れたこのおむろノ沢に佇んでいると時間の立つのを忘れてしまいそうであった。

 おむろノ沢出合からは地蔵岳への登り返しが待っている。今回は元のコースを戻らずに地蔵岳へと直登してみようかと新たなルート探索が急遽決まった。未知のルートというのはそれだけで魅力的だ。登るに従って背後の飯豊山が大きく立ち上がってくる。その飯豊山は離れてゆくどころか逆に迫力が増すようだった。まるで望遠で見ているような風景にみんなが圧倒された。ブナの芽吹きにはまだ早かったもののここは桃源郷のようなものだろう。信じられないようなブナ林が広がっていたりしてこの予想外の展開には驚きの連続であった。

 地蔵岳山頂に戻ったのは15時20分。朝歩き始めてからちょうど10時間であった。まだまだ陽は高い。それに今回は雪が豊富なのでまだまだ滑って行けるのである。部分的には狭い雪稜もあったが横滑りなどを多用しながら凌いで行く。雪が豊富というのはこんなに楽なのかと思うほどの快適さだ。あまりに快適なために気付いたときには長ノ助清水を通り過ぎてしまっていた。あとはスキーを担いで大日杉に下る行程が残っている。しかし30分もすれば下界なのだ。長い一日だったが今年もまた飯豊本山からのダイレクトコースを滑り切った喜びが心をいっぱいに満たしている。この心地よい余韻に浸りながら僕たちは大日杉に向かった。



 大日杉


 ザンゲ坂


長ノ助清水でスキーをはく


尾根に日射しが降り注ぐ


見た目よりきつい斜面です


飯豊山が左手に


地蔵岳が正面!


おむろノ沢出合付近


無名尾根への急斜面を登る


稜線に到着です


続々と稜線に到着


無名尾根をゆく


地蔵岳をバックに


本山小屋が正面!


冬期入口の掘り出し


小屋から眺める三角点


トイレもまだ雪の中


おむろノ沢への滑降開始


ノドの通過


至福の時間


至福の時間


至福の時間


至福の時間


至福の時間


至福の時間


至福の時間


おむろノ沢出合のスノーブリッジ


ここから地蔵岳への登り返しが始まります


桃源郷のようなブナ林が広がっていました


大日杉に無事到着


地蔵岳への登り返しで


コース概要


inserted by FC2 system