しばらく南俣沢沿いの林道を歩くと約1時間で南俣沢出合に着く。朝から青空が広がり、快晴に恵まれるのかと思っていたら予想外に雪がちらついたりした。それでも気温は高いのでアウタージャケットは不要だった。尾根に取り付くとすぐになだらかなバカ平となる。カラマツ林に春の光が降り注ぐと林間はまばゆいほどに輝いた。さながら光のシャワーを浴びているような心地よさに僕たちは包まれた。
まもなく急坂となるとブナ林が目立つようになる。木立は疎らで深々とした新雪が林間を埋め尽くしている。やがて左手に竜ガ岳がうっすらと見えてくるようになると稜線はまもなくだ。僕は昨夜飲みすぎたせいで朝から頭痛に苦しんでいた。途中ラッセルを買って出て無理矢理汗を絞りだしたりしたのだが、なかなか快復することはなかった。結局最後は両足が攣りそうになっただけだった。
積雪は登るほどに多くなっていった。やがて夏道を逸れて竜ガ岳への直登となると部分的にはアイスバーンもみられるようになる。堅い雪面にうっすらと新雪がのっているので半数はスキーアイゼンを装着した。また最近の降雪でクラックを覆い隠している箇所が至るところにあるから要注意だった。僕はさっそくそのクラックにはまってしまい、仲間からは引っ張りあげてもらわなければならなかった。
アイスバーンは心配したほどではなくシール登高でも問題はなかった。むしろ稜線には多すぎるほどの積雪があり、季節外れのような激パウダーの様相を呈している。急坂をのぼりつめると竜ガ岳直下につく。竜ガ岳の山頂は目前だったが、ここから先は雪崩の危険が大きいことから今日の行動はここで打ち切りとなった。きょうも参加者は12名と昨日に続いて大所帯だ。おかげで休憩も大賑わいであった。
この頃になると澄んだ青空が広がっていた。心配していた天候も杞憂に終わりそうである。また気温は低いので雪質も良好。こうなると待ちきれない人達は休憩時間もそこそこに滑降の準備となる。竜ガ岳の北面はまさしく山スキーのためにあるようなところだった。ブナの間隔もほどよい状態で、木立をポールに見立てて滑降する快適さは格別であった。それに今回の積雪の多さである。みんな雄叫びをあげながら粉雪を舞い上げてゆく。昨日に続いて今日もパウダー三昧になろうとは誰が想像しただろうか。雪の少なさに嘆いた2月3月だったがここにきて自然は帳尻を合わせてきているようだった。
この竜ガ岳はどこでも滑降の対象になるような斜面が広がっていた。時間さえあればいたるところを滑り尽くしたい誘惑にかられるようでもある。今日は知られざるコースを知っただけでもずいぶんと得をしたような一日だった。快適な尾根を下るとバカ平だ。登りのトレースはさながらボブスレーコースであった。最後は長い林道区間が残ったがここも良くスキーが走った。市街地は雪を探すにも一苦労だが、ここ大井沢地区にはまだまだ豊富な積雪があり、僕たちのような山スキーヤーにとっては天国のようなところである。心地よい風を受けながら下ってゆくとまたたくまに大井沢温泉が近づいていた。