岩野橋からはほんの短い区間だったが、林道の一部に雪解け水が溢れていて、そこはスキーを担いだ。雪は少しづつ多くはなってきたものの、それでも例年よりはかなり少ないのだろう。歩いていると上空には早くも青空が見えた。気温も高くて汗が流れるほどだ。今日は手袋さえ不要である。予想どおりの回復傾向に気持ちまでが晴れ晴れとしてくるようだった。千座川本流と支流との合流点までは2時間近くかかった。ここから予定では沢を遡行して稜線まであがる計画だったようである。しかし沢が雪で埋まっておらず、至るところで大きな口をあけていては二の足を踏むどころではなかった。今年の雪の少なさを嘆くばかりである。これでは危険きわまりなくルート変更も視野に入れながら林道をしばらく進むことにした。
さらに上流部付近まで登ったところで沢へ降りられないかしばらく沢の状態を仔細に検討してみた。しかし雪の少なさは明瞭だった。今年の千座川源流部滑降はあきらめるしかなさそうだった。僕たちは1211m峰へとまっすぐに伸びる尾根に取り付くことにした。そんなときひょこっと丹野さんが顔を出した。みんなが驚いたのは当然だった。朝方の無線を聞きつけて、それから僕たちを追いかけてきたというのだからすごい嗅覚の持ち主というしかない。また一人楽しい仲間が増えてうれしくなるようだった。
取付からは急坂の始まりだった。いままで稼げなかった高度を一気に取り戻すかのような怒涛の登りとなった。そのハンパではないきつい登りに喘ぎ声が漏れてくるようだった。日射しも強くて暑い程だ。喉が乾くと雪を食べながら急斜面を登った。その急な勾配も1時間ほどすると徐々に緩やかになる。周囲はいつのまにか美しいブナの疎林帯となっていた。積雪も豊富でいまから下りが楽しみな区間でもあった。ようやく1211m峰へと到着したのは登り初めて4時間たってからであった。稜線はさすがに風が強くときどき地吹雪が舞った。振り返ると村山市や東根市の市街地が眼下となり、遠くには甑山や蔵王連峰も見えた。晴れ渡った時の冬景色は何とも言えなかった。眺めていると時間の経つのを忘れるようだった。
大きな雪庇が張り出した稜線をさらに進むと、前方右奥には2週間前に歩いたばかりの烏帽子岩へのスカイラインが見えた。たった2週間前なのにまるで遠い日の出来事のようだった。すぐ先の高みは1278m峰でこのまま歩いて行けば小僧森、大僧森、そして葉山の山頂へ続く主稜線だ。しかしアップダウンが続くだけなので山スキーを楽しむにはこの辺りがベストのようであった。今日はここを山頂と決めまずは昼食休憩としようか。風を避けるために1211m峰に戻ることにした。稜線の東側はほとんど風がなく、春の日射しが燦々と降り注いだ。
1211m峰からの滑り出しは緩斜面と疎林帯が広がっていて、まるで山スキーの天国を思わせるようだった。みんなも待ちきれないのか我先にと斜面に飛び込んでいった。僕もあまりに快適なため撮影する気持ちさえ起こらない。半分ほど一気に下ると急斜面に出た。ここは慎重さを要するところだが雪も重くなっていて思わぬところで足を取られたりした。しかし降雪直後の新雪はどこでも滑って行けそうである。みんなはそれぞれのコース取りで自分の山スキーを楽しんでいる。尾根の取付付近まで下ればメインの滑降はほとんど終わりだ。あとは林道にそってのんびりと下るだけであった。広々とした緩斜面に刻まれた僕たちのシュプールをしばらく眺めながらの休憩時間は至福を感じさせた。ここはスノーモービルのようなけたたましい爆音や不快な踏跡も見当たらない。まさしくバックカントリーの見本のような葉山の山麓が今日は僕たちだけの貸し切りであった。
2時間以上も歩き続けた林道だったが下りは楽々だった。ただスキーに乗っていればよかった。今日の気温はかなり高かったのだろう。林道も終点近くになるとブレーキがかかってスキーがうまく走らない。気温の上昇でさらに融雪が進んでいるようだった。まもなく岩野橋が見えてくると熊野神社も近い。往復16キロのやや長めのワンディツアーが終わった。
熊野神社を出発 |
岩野橋 |
しばらく林道歩きが続く |
尾根の急登 |
尾根も緩やかになる |
山頂へと続く平坦な稜線 |
時折風雪が舞う |
1278m峰と烏帽子岩の稜線(右奥) |
滑降に舞う |
こんな所を滑ります |
滑降 |
滑降 |
滑降 |
滑降 |