この日は雲ひとつないような澄んだ冬空が朝から広がっていた。しかし、9時頃になると急速に薄雲が広がり始 め、朝方の好天はまるで嘘だったかのような空模様に変わってしまった。それでも本格的に崩れる感じはなく、ときどき雲が流れて目の覚めるような青空が顔を のぞかせた。西大顛への登りでは知らず知らずに汗が流れた。
週末まで続いた好天のおかげでそれほどラッセルの必要もなく、西大顛の山頂には1時間ほどで到着してしまっ
た。いつもよりもハイペースだったようだ。遅れて出発してきた大場さんもほとんど同時に到着となりこれでメンバー全員が揃った。まだ誰も踏み入れていない
山頂。時間的にこの日の二十日平は僕たち以外にいないようである。山頂からは米沢市街地が見渡せた。天気予報に反して置賜地方ではまだ雪の降り出す気配は
なさそうだった。
さてここからは東斜面の滑降をとりあえず楽しむとしよう。西大顛の東斜面は適度な積雪があって絶好のコンディションだ。同行の阿部さんにとっては昨年の
骨折事故以来のリベンジというので、勢い気合いも入ろうというもの。みんな急斜面にパウダーを巻き上げながら沢底へと降りてゆく。バージンスノーにシュ
プールを描く喜びはみんなも同じだろう。ビデオの撮影もまじえて楽しいひとときが過ぎてゆく。
東斜面からはトラバース気味に西吾妻小屋をめざした。西吾妻山への鞍部付近は結構な積雪があって、今日一番のラッセルとなる。といっても距離は短いのでたいしたことはない。天候は高曇りの様子だったが、西吾妻の山頂はというといつのまにか厚い雲に見えなくなっていた。
西吾妻小屋までくればさっそく昼食となる。天元台からきた山スキーの先客が僕たちと入れ違いに出て行き、小 屋の中では若女平を下るというスノーボーダー二人組が休憩中だった。気温の低さはあいかわらずで、熱い飲み物やカップラーメンが美味しい。特に今日のよう な寒い日では極上の食べ物とさえ思えてくるようだった。
西吾妻山までは約10分。山頂では視界はほとんどなかった。ホワイトアウトというほどではないがさすがに 2000mの山頂である。気温の低さはハンパではない。これまで体験したことがないような厳しい寒気にはほっぺたが焼けるような痛みを感じた。シールをは がして一刻も早く樹林帯に逃げ込もう。
山頂からはいよいよ二十日平へのツアーコースだ。波打つような斜面をしばらくトラバース気味に東へと移動 し、東斜面に飛び出すと快適パウダーをしばらく堪能した。中津川源頭部からは魅惑の斜面が沢底へと広がっているが、ここはやすやすと誘惑に乗ってはいけな い箇所でもある。無理はせずに樹林帯へと方向転換だ。堅く締まったベースに20センチ程度の新雪が降り積もった樹林帯は思いの外スキーが走った。南斜面は 快適なツリーランの始まりであった。例年だと1600m付近の平坦地はラッセルが必要なほどなのだが、今回は不思議なほどに楽々と滑ってゆける。気温が低 いので雪質もよかったのだろう。普段ならばところどころで休むところも、私達は写真やビデオ撮影を楽しみながら一気に平坦部まで下った。
しばらくツリーランを楽しみながら下れば、眼下には早くも二十日平が見えてくる。この区間も斜度が緩やかな
のにスキーはよく走り、右へ左へと自由自在だった。その快適な滑降も二十日平までくればもう終点が近い。午前中は晴天だったスキー場もいつのまにか津々と
雪が舞い始めていた。このコースの最後は中ノ沢を横断してツアーが完了する。心配していた渡渉箇所も完全に埋まっていて対岸へは難なく渡った。対岸はすで
にデコ平スキー場の一角である。ゲレンデに飛び出すとあとはスキーセンターめざして下るだけだった。
西大巓への登り |
西大巓直下の樹氷原地帯からのぞむ磐梯山や猪苗代湖 |
西大巓東斜面 |
西大巓東斜面 |
西大巓東斜面 |
西吾妻小屋 |
二十日平付近 |
二十日平 |