【概要】
3連休の中日。大荒れという天気予報が少し緩んだのをみて近場の天元台へ向かった。川西町付近は猛吹雪だったが、小野川温泉では青空が広がり、天元台では再び視界がなくなってしまうという、今日は目まぐるしく天候が急変した。
北望台では風雪が吹き荒れていた。どうするか迷うところだったが、天気図ではそれほど悪化するようでもなかったので、まずは中大巓をめざすことにした。こんな天候で山に入っているひとは一人もなかった。北望台からは昨日までの降雪がかなりあり、樹林帯に一歩を踏み出すことさえためらってしまいそうだ。スキーは膝上まですっぽりと沈んだ。これでは途中で引き返すしか無いなあと僕の気持ちは少しも弾まない。吾妻連峰はこの連休でとんでもないような豪雪になったようだった。
一人のラッセルはつらいものだった。さらに今日の冷え込みも厳しく平地でも氷点下6度。山の気温は氷点下10度を軽く超えていることだろう。厚手の手袋でも動かさずにいるとたちまち凍傷にかかりそうだ。黙々と猛ラッセルに励んでいるとまもなく中大巓直下となる。樹林帯が薄くなったこともあって周囲は厳しい風雪だ。しかし、ここまでくれば梵天岩までもうひとがんばりだろうと少し欲がでてくる。
梵天岩へは1時間30分かかった。通常は1時間もかからないところだが、今回はショートカットにもかかわらずやはりラッセルに相当時間がかかっているようだった。天狗岩もひどい吹きさらしのためほとんどGPS頼りに進んだ。地形図もなにもないGPSだがポイントだけでも視界のない時には強力な味方となる。今日は西吾妻小屋も割愛しツアーコースへと一直線に向かった。
シールは西吾妻小屋の下部付近ではずした。体は腰付近まで沈んだ。滑り出してもなかなか先へとは進まなかったが、少し勾配が出てくるとようやくスキーが走り出した。それでもへたにターンをすると止まってしまうので、両足を揃えほとんど直滑降気味に下った。これまでも深雪は何回も経験している若女平だがこんなに激パウダーは初めてだった。しかしもう引き返せない地点まで進みすぎていた。こうなれば少しでも標高を下げることに専念する。尾根をはずさないように、そのことだけに気を配り続けた。
大荒れだった天候も途中から青空が広がり始めると、緊張感は一気にほぐれていった。風雪のあとの樹林帯は美しい。梢のいたるところまで新雪がびっしりと貼り付き目映いほどに煌めいている。写真もとる余裕もでてきて頻繁にカメラを取り出した。
下れば積雪も少しは少なくなるだろうと考えていたがそれは甘かった。若女平に下る付近もほとんど勾配を感じないほどなだらかなものとなっていた。いつのまにか若女平の平坦地に出てしまい、そこからは雪漕ぎの連続となる。普段ならば若女平で昼食だが今日はそんな余裕もなさそうだった。へたをすれば途方もないようなラッセルに時間をとられ、日没になってしまいかねないのだ。今回は休憩無しで下ろう。この区間では前回と同様にカモシカのラッセルに遭遇した。ルートはほとんど同じだった。カモシカにはカモシカなりの、いわばケモノ道が冬場にもあるのかもしれなかった。
強清水直前の急斜面もターンの必要はなく、ほとんどまっすぐに滑り降りた。ヤセ尾根も危険な感じは全くない。カラマツ帯も滑りにはならずほとんど推進滑降気味に進んだ。そして最後の急斜面へと飛びだした。ここは滑りなどほとんど出来そうもない急勾配で誰しも通過に難儀する箇所だが今回だけは違った。何の不安もないどころか、今日のツアーで一番快適に滑ることのできた区間となったのである。藤右エ門沢にかかる橋まではきわめて短時間で滑り降りた。終わりよければ全てよしである。見上げると澄み切った青空があった。今日は千変万化のような天候だったが、こんな時でもなんとか予定した時間内にツアーを終えて深い充足感に浸った。一方では単独で膝上ラッセルのときの若女平は、今後間違っても決行すまいと堅く決心した一日でもあった。