山 行 記 録

【平成20年11月1日/朝日連峰 おけさ堀〜昭和堰〜奥ノ院〜葉山山荘



奥ノ院から望む祝瓶山



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】朝日連峰
【山名と標高】葉山1200m
【地形図】(2.5万)羽前葉山、(20万)村上
【天候】快晴
【参考タイム】
登山口8:00〜オケサ堀9:20〜嘉永堰10:20〜勧進代分岐10:30〜昭和堰分岐10:35〜昭和堰10:50〜奥ノ院11:45-12:10〜葉山山荘12:20〜昭和堰分岐12:40〜オケサ堀13:40〜登山口14:50

【概要】
 長井市史によると「昭和堰」とは、葉山東面の集落である勧進代村へ取水するために、長井葉山の西斜面を流れるいくつもの沢水を集めながら、長井葉山の山頂直下に作られた用水路である。嘉永6年の大旱魃を機に、草岡村には「桶佐(オケサ)堀」、勧進代村には「嘉永堰」を開削したのが始まりで、その後、昭和7年から昭和9年にかけて「嘉永堰」の堰幅を拡張補修し、鍋割沢からさらに奥にある御秘蔵沢まで延長し、新たな用水を確保すると共に、「昭和堰」とあらためたのが由来のようである。当初の「嘉永堰」の開削工事は、予定された堰筋に大岩や大木の根が顕われるなど、かなりの苦難を極めた工事のようであった。

 早くも11月である。今日は朝から雲ひとつないような青空が早朝から広がったため、久しぶりに長井葉山に出かけてみることにした。祝瓶山荘も身近な登山口だが葉山登山口となると距離は自宅から10キロもないので、まさしくお気軽ハイキングという気分である。オケサ堀経由の長井葉山は実に5年ぶり。その間も結構長井葉山には登っているのだが、最近は他の登山口ばかり気になっていて足が遠のいていた。

 大石大明神のある登山口から見上げると、きらめくような紅葉と青空が眩しかった。こんな日にはただ山頂を往復するのはもったいないので昭和堰コースをたどって奥ノ院へと向かうことにした。少し遠回りにはなるのだが、それでも全行程は16kmほどである。この昭和堰も調べてみると3年ぶりであった。

 昨夜まで降り続いた雨のせいで山道は少しぬかるんでいた。それもまもなくすると落ち葉の降り積もった気持ちの良い登山道へと変わった。ブナやナラの落ち葉はサラサラと乾いていて、歩くとサクサクとした音がした。戦国時代に朝日軍道として作られたこの登山道は、荷馬車も通れる道として整備されたおかげで、勾配はゆるやかでほとんど疲れも感じない。ところどころにショートカットの道もあるのだが、今日はむしろ距離があるのが心地よく遠回りをしながら登った。

 オケサ堀では東側に続く山道をたどってオケサ堀展望台へと回ってみた。展望台からは長井市内や白鷹町の一部も見えて、尾根から眺めるものとはひと味違う景色が楽しめるところだった。近くには祠もありこの新鮮さがなかなかに楽しい。またオケサ堀からは先週訪れた三淵への登路もあるので久しぶりに少し足を踏み入れてみた。今日は好天のおかげでこういった道草がなんとも楽しくてしょうがなかった。

 オケサ堀からも快適な尾根道が続いた。登るに従って落葉した木々がほとんどとなり、スカスカした樹林帯には燦々とした陽の光が降り注ぐ。ときどき灰色一色の樹林帯に赤や黄色のカエデがポツンと残っていたりするので、その鮮やかさには驚くほどだ。深くえぐれた登山道には多くの落ち葉が降り積もり、フカフカした感触はまるで絨毯か羽根布団を思わせた。そして灰色のモノトーンに映えるナナカマドの赤い実と、どこまでも澄んだ抜けるような青空。こうした全てのものが晩秋の山歩きの楽しさをあらためて思い出させてくれるようだった。

 昭和堰分岐からは葉山山荘への直登ルートを見送り左手へ折れて行く。たった3年前のことにもかかわらず、昭和堰コースの詳細はほとんど忘れていて、なにか新鮮な山道を歩いている気分に浸った。このコースは高度を約1340mに維持しながら山塊を大きく迂回するように作られている。高低差はほとんどないのでハイキングの楽しさを存分に味わえるコースでもある。とくに今日のような好天に恵まれれば、三体山、柴倉山、祝瓶山、大玉山、北大玉山、平岩山、大朝日岳と連なる山並みが全て見渡せるから楽しさもまた格別となる。特に冠雪したばかりの大朝日岳はあまりの白さにびっくりするほどだった。何回か小尾根を回り込むと奥ノ院がようやく正面となる。急坂を登り切ると奥ノ院は目前だった。

 奥ノ院の山頂では冷たい風が上空を舞っていた。降り注ぐ日射しはすごく明るいのに気温は真冬並みの寒さだった。急いで防寒着を着込みアウタージャケットも羽織った。すでに晩秋を通り越し、間違いなく初冬の空気があたり一帯を満たしていた。山頂からは祝瓶山の端正な姿が正面に見えた。朝方よりも雲が少し出てきたものの、明るさがまだ損なわれてはいない。雪崩に磨かれて黒光りする山肌も鮮明に見えるようだった。山頂の西側はあまりに寒く、昼食は反対側の岩陰に身を寄せてとることにした。登山者は一向にやってくる気配はなかった。
 
 奥ノ院からは葉山山荘経由で下ることにした。葉山神社からは再び大朝日岳が望めるので最後の展望を楽しんだ。雪化粧を済ませた大朝日岳は、葉山とは全く別の世界に鎮座しているかのようであった。山荘の中には人のいる気配がしたが立ち寄らないでまっすぐに下った。私とは別のコースを登ってきた人がいるのかも知れなかった。まだ正午をまわったばかりだったが、すでに日射しは西に傾き始めていた。木立を抜けてくる陽の光は驚くほどの柔らかさを感じさせた。

 下りもいたって快適で、一気にオケサ堀まで下った。今日は快晴にもかかわらずこのコースを歩く人は他に見当たらなかった。静まり返った山間に、鈴の音だけが異様な大きさで響きわたった。オケサ堀からは山の陰となるために日影が多くなる。小春日和のような温かい日射しから去るのが妙に寂しくなり、しばらくここで大休止をとることにした。ザックからガスコンロを取り出して、お湯を沸かしコーヒーをドリップした。淹れたてのコーヒーの香りが晩秋のオケサ堀に漂ってゆくのを感じる。あまりに美味しいので3杯ほどコーヒーを淹れなおした。葉山にきてこんなにのんびりとするのは久しぶりのような気がした。


コース概要(5万分の1地形図)


冠雪の大朝日岳(葉山神社から)


尾根途上から仰ぐ葉山


昭和堰分岐


昭和堰標柱


昭和堰の登山道


昭和堰から大朝日岳


葉山奥ノ院山頂


葉山湿原


長井市内の風景


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