天気予報によれば低気圧通過のため下り坂らしく、昼過ぎからは雨が降出す予報が出ている。しかし、そんな予報に反して朝から秋空を思わせるような青空が広がっていた。県道山形白鷹線を「県民の森」へと向かい、山辺町にはいってすぐの十字路を右手に進むとまもなく嶽原の登山口に着く。
登山口には赤い鳥居が立ち、水洗トイレのある駐車場も整備されているようだった。車は1台もなかったがまもなく登山者がひとり車でやってきた。てっきり今日は二人だけなのかと思っていただけに、少し賑わいそうな様子にうれしくなる。その人は4、5人ほどの連れがいるらしく、その仲間が来るのを待っているようであった。
鳥居をくぐって石段を登り始めると両側には太い杉並木が続いていた。歴史を感じさせるような荘厳とした参道の雰囲気が漂っているところだ。道はまるで林道のように広くここは昔から頻繁に歩かれているようであった。次第に山道らしくなると途中に水場が現れる。湿度が高いこともあって今日は蒸し暑く、ここまで汗がしたたかに流れていた。そんな疲れた体にここの冷たい清水はまさしく生き返るようでもあった。
左手に尾根らしきものが見えてくると山頂はまもなくだった。鳥居から山頂までは小一時間。やはりここはハイキングにふさわしい山のようである。山頂には虚空蔵神社が建っていて、近くには休憩舎もある。この白鷹山は何年か前の冬に訪れて以来だから懐かしさが漂う。私達は参拝を済ませてから神社の裏手に回りひと休みをとることにした。神社の裏側はちょうど西側にあたり、樹林の間からは雨量観測の大きなレーダーが見えている。涼しい北西からの風が流れていて、久しぶりに山歩きの心地よさを味わった。
そのうち単独の登山者が一人休憩舎の西側から現れた。小滝口から登ってきたらしく、その人と入れ違いに私達は下り始めることにした。大平コースは石造りの鳥居をくぐって立派な階段を下るようだった。下る際、小滝口から登ってきた人からここの階段は滑るから注意するようにといわれていたのだが、そんな忠告も役にはたたなかったのか、二人とも言われるそばから転んでしまった。苔が生えていることと、階段には気付かない程度のわずかな勾配があって滑りやすくなっているようだった。ここは要注意の階段のようである。階段を下り終えた地点が国道348号へ下る分岐点になっていた。大平には左へと進んでゆく。道巾は広くて、またよく踏まれているのでとても歩きやすい尾根道であった。嶽原口もりっぱな表参道と思ったのだが、この大平へのコースも昔から歩かれている雰囲気が漂っている。しばらくは平坦な尾根道が続き、最後の方になるとようやく急坂となって高度を下げ始めた。そして降りきったところに「うがい場」の水場がある。周囲には杉の倒木が多く、スギカノカなどのキノコが早くも目立ちはじめていた。
しばらく沢沿いに歩くと樹林帯が終わり草原のような場所にでた。草原を抜け出ると嶽原から続く道路に飛びだして山道は終わる。入口付近には大平登山口の標識が立っていた。ここから嶽原の駐車地点までは15分ほどの車道歩きとなる。日差しが降り注ぐ中、田舎道をのんびりと歩くのは楽しいものであった。途中の大きな沼は釣り堀となっていて太公望たちが静かに釣り糸を垂れていた。しかし、下り坂という予報はまんざら嘘でもなさそうで、薄雲が広がりはじめた空からは少しずつ日の光は失われつつあるように見えた。