大黒天の駐車場では大型バスなどが入れ替わり立ち替わり発着していた。ザックも何も持たない、多くの観光客によるハイカー達で溢れている。11時近い時間帯とあって気温はかなり高くなっていたが、それでも下界と比べれば遙かに過ごしやすく、吹く風は爽やかだった。駐車場での気温は23度。下界から見れば8度から9度は違う。半ズボンとTシャツ姿で上り始める。エコーラインを上り始める頃は薄雲が広がるあいにくの天候だったが、刈田岳や五色岳は明瞭な姿を見せており、視界を遮るものはなにもなかった。
刈田岳では多くの観光客や家族連れで賑わっていた。その人混みをかき分けるようにしながら、馬の背からはお釜の方へと下ってゆく。ロープを乗り越えれば全く人の姿はなくなり別世界となる。ここからが今日の本当の山登りのようであった。今日の天候は変わりやすいのか、いつのまにか熊野岳は薄黒い雲に覆われ始めていた。視界がなくなりつつあったが、濃霧は幸いに五色岳の方までは降りてこないようだった。
この五色岳へは2回目だが今回もお釜の淵を反時計回りにたどることにする。稜線に上がるとコマクサが群落となっていた。見渡す限りに咲いている様はまさに圧巻だ。今日の目的の半分はこのコマクサにもあったのでとりあえず満足感に浸る。お釜の方からは寒いくらいの風が吹き上がってくるので汗をかいた体はたちまち生き返るような心地よさだった。
緩やかな傾斜を登り詰めると五色岳の山頂に着く。ここには道標などはないが見晴らしは絶景である。馬の背までの距離は1kmほどもあるだろうか。人の姿は小さくてほとんどわからなかった。ここは観光客も訪れることのない静かな蔵王の秘密の場所のようである。風があまりに冷たいので、少し下った付近で昼食をとることにした。温度計をみると気温は19度しかなかった。
まわりからは小鳥のさえずりや風のながれる音が聞こえるだけである。今日は誰もここまで降りてくる者もいない。熊野岳のざわめきが時々風にながれてくるだけで、ここは刈田岳や熊野岳の喧噪とは別世界だった。今日はしばらくここで避暑地の快適さをのんびりと味わうこととにした。