山 行 記 録

【平成20年6月15日/飯豊連峰 足ノ松尾根〜杁差岳



ハクサンイチゲと杁差岳



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】飯豊連峰
【山名と標高】大石山1567m、鉾立峰1573m、杁差岳1636.4m
【地形図】(2.5万)杁差岳、(20万)新潟
【天候】晴れ
【参考タイム】
胎内ヒュッテ7:00(自転車)登山口7:30〜大石山10:00〜鉾立峰10:40〜杁差小屋10:55〜杁差岳11:00-40〜〜鉾立峰〜大石山12:40-13:00〜登山口15:00〜胎内ヒュッテ15:10

【概要】
 杁差岳のハクサンイチゲが盛りだという便りが相次ぎ、久しぶりに登ってみることにした。足ノ松尾根から杁差岳へは6年ぶりだ。つい最近登ったような記憶があるのだが、人の記憶ほど当てにならないものはない。久しぶりに奥胎内に車を走らせていると、道路はところどころ新しく改良されて、さらには車道終点に建っていた古い胎内ヒュッテが、まるで都会で見るような豪華なホテルに変わっているのだから驚くばかりだった。

 当初は泊まりの飯豊連峰を予定していた。しかしこのところ体調が今ひとつなので今日は日帰りで杁差岳を往復してみることにした。足ノ松尾根は急登が続く反面、無駄のない登りが続くので、短時間で稜線に立てるのが魅力である。しかし日帰りで杁差を往復するとなると鉾立峰への上り下りがあるために、登りの累積標高差は約1700mほどにもなる。それに胎内ヒュッテから登山口までの1時間の林道歩きというのもちょっとつらい。それでこの林道区間は折り畳み自転車を利用することにした。

 奥胎内の駐車場はすでに満杯の状態で、すでに道路まで車が溢れ出している状態だった。ここはバードウオッチングを楽しむ人達でも賑わうところで、高価そうな双眼鏡や望遠鏡を構えた人達でヒュッテ周辺は賑わっていた。朝の涼しい時間帯に歩き出したかったがすでに陽は高く昇っていた。早速自転車で舗装路を走り出したのだが、ミニチャリの悲しさゆえなかなかスピードがあがらない。後でわかったことだが登山口までの標高差が120mもあるのだから、自転車とはいっても往路は少々つらい。途中では何回も自転車を降りて引かなければならなかった。それでも登山口までは30分でついたので半分は短縮できた形だった。

 足ノ松尾根の登り始めはかなりの急勾配である。まるでダイグラ尾根を登っているような錯覚さえ覚えるほどで、徐々に気持ちが萎えてゆくようだった。今日はよほど体調がすぐれないのだろう。脂汗のようなものが頭から流れ落ちてくる。強い陽射しは樹林に遮られ、林間を涼しい風が吹き抜けてくるのがせめてもの慰めになった。急登が一段落すると岩場を2ヶ所ほど通過する。ヤセ尾根なのでここは要注意区間だろうか。まもなくすると前方に大石山や鉾立峰を仰ぐようになる。右手に胎内ヒュッテから伸びる長い胎内尾根を眺めながらの登りが続いた。胎内尾根はまだまだ残雪が多く、青空に映える美しさは抜群だ。登山道の傍らにはタムシバやムラサキヤシオ、カタクリなどが目立った。

 ブナの新緑帯をしばらく登ると森林限界となり、頭上からはジリジリとした陽射しが降り注ぐようになる。付近にサンカヨウ、ツバメオモトが咲いている。樹林帯を抜け出すと大石山が大きく迫ってくる。高山植物も豊富でカタクリやショウジョウバカマ、コイワカガミなどがまだまだ盛りだ。麓は初夏でも山の稜線はまだ春を迎えたばかりのようである。ときどき吹き渡る風が爽やかで初夏の香りを運んでくるようだった。

 最後の急坂を一気に登って大石山に着く。山頂では4、5人が休憩中だった。ここはまるで芝生のような草地があって休憩には絶好の場所である。前方には頼母木山や頼母木小屋が間近に見えて、その後方には地神山。そして右端に少しだけ門内岳がのぞいている。冷たい水を飲み干すと汗をかいた体に染み渡ってゆくようだった。

 大石山から鉾立峰までは1,3km、鉾立峰から杁差岳までは1,1kmほどだからそれほどの距離はない。多くの汗をかいたおかげで体調は戻りつつあるようだった。なによりも稜線を吹き渡る風が涼しくて、まるで天然クーラーのような爽やかさだ。つらい登りを耐えてきてよかったと思える瞬間でもあった。

 鉾立峰に向かうと登山道の両側にはハクサンイチゲの群落が続くようになる。前方には杁差岳が正面だ。まだまだ残雪の豊富な様子にうれしくなる。昨日山小屋に泊まったと思われる登山者達と次々とすれ違う。大石山から140mほど下り、鞍部から同じ高さを登ると鉾立峰だ。鉾立峰に立てばもう杁差小屋は目前となる。

 杁差小屋の手前は予想どおりハクサンイチゲのお花畑で満たされていた。これを眺めたくて今回登ってきたのである。カメラを取り出して四方八方から写真を撮る。周囲一面に広がるハクサンイチゲのお花畑はほとんど桃源郷の世界だった。すでに宿泊者は下山したらしく小屋には人の姿はなかった。山頂は目の前だった。

 6年ぶりの杁差岳山頂には11時に登り着いた。胎内ヒュッテを出てからちょうど4時間。体調がいまひとつでも登り切ることができた達成感は格別であった。山頂からは飯豊山が雲に見え隠れしている。反対側には権内尾根や大熊尾根が大石ダムへと続く。みな懐かしい風景が広がっていた。途中で追い越してきた登山者もまだ登ってこないようである。この静かな山頂が独り占めなのはうれしい。誰もいないのを良いことに横になって一眠りする。心地よい風が吹き渡り、至福の時間をしばらく味わった。

 まもなくすると人の話し声が聞こえてきた。この別天地もそろそろ明け渡しの時間のようだった。小屋から振り返ると杁差岳には薄雲が広がり始めていた。大石山までは下るというよりも稜線漫歩のようにも思えるほどで、ハクサンイチゲを愛でながら歩くのは楽しいばかりだった。この頃になると登り返しのつらさはほとんど感じないまでに体調は快復しているようだった。

 大石山で休んでいると見覚えのある人が頼母木から登ってきた。西川山岳会の志田さん夫妻だった。志田さんも頼母木山周辺のハクサンイチゲを眺めるために登って来たらしかった。しばらくすると志田さんたちは一足早く足ノ松尾根を下っていった。入れ違いに今度は関東からの団体と思われる人達が頼母木方面から大勢やってきた。日曜日ということもあるのだろうが、今日の飯豊連峰はかなりの混み具合のようである。新潟側は山形側の登山口よりも関東圏の人達には利用しやすいのかもしれなかった。

 大石山を下り始めると汗が全身から噴き出してくる。正午を過ぎて気温はさらに上昇し始めているようだった。熱中症が心配なので帽子の下にタオル垂らしながら下った。それでも暑くてたまらず、途中で雪渓を掘り出し、シャーベット代わりにして食べた。そして頭に雪を載せて帽子を被った。樹林帯に入るとようやく木陰が続くようになる。まだ梅雨にも入っていないというのにこの暑さでは今年もつらい夏山になりそうだと思うと気が重くなった。

 「滝見場」「姫子の峰」と通過してゆくと最後の急坂だ。振り返ると大石山の稜線には入道雲が中空に浮かんでいる。真夏はもう目前に迫っているようだった。怒涛のような急坂を転げるようにしながら降りて行くと登山口に降り着いた。ここからは自転車で下ってゆくだけである。林道や舗装道路を歩く必要がないというのは随分と気を楽にさせてくれるものであった。近くの草原にザックを下ろし、残っていた水筒をすべて飲み干した。青空と残雪とお花畑。そして今日の好天が加わって、まさしく山日和の一日が終わろうとしていた。


コースの高低図


足ノ松尾根登山口


まだ雪渓が残る登山道


ブナの新緑


胎内尾根、二ツ峰と一ツ峰


大石山付近から杁差岳を望む


杁差小屋から


杁差岳山頂と飯豊山


権内尾根


山頂から下山


大石山から頼母木山を


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