山 行 記 録

【平成20年4月5日〜6日/鳥越川から鳥海山】



朝のテン場と鳥海山(二日目6:30)



【メンバー】西川山岳会9名(柴田、菊池、上野、クサナギ、荒木、石川、山下、鳴海、蒲生)
     ゲスト(神田)※二日目、山中、阿部(弟)大場氏と合流(合計13名)
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山幕営装備一式
【山域】鳥海山
【山名と標高】鳥海山(新山) 2,236m
【地形図】(2.5万)鳥海山、(20万)村上
【天候】(5日)曇りのち晴れ(6日)快晴
【温泉】秋田県にかほ市象潟町横岡 湯の台温泉「鶴泉荘」300円
【行程と参考コースタイム】
(5日)林道10:00(380m)〜獅子ケ鼻11:20〜930m峰13:00〜テン場(標高1120m地点)14:30(幕営)
(6日)テン場8:20〜七五三掛10:10〜新山山頂12:00-13:20〜テン場14:20〜獅子ケ鼻15:15〜林道15:30

【概要】
 鳥海山を山スキーのエリアとしてみた場合、他の山域とは別格のものがある。それはスキー場がないためにその標高差をほとんど自分の足で稼がなければならないからだ。これは山頂までの登頂に苦労する分だけ、充実感も多いということと同義であって、山スキー愛好者にとっては垂涎のエリアであろう。鳥海山には四方八方からコースがとれるが、この鳥越川コースは、登りの標高差が約1800m以上、山頂からの滑走距離14kmもあることから、鳥海山の山スキーとしては随一のロングコースにはいる。祓川コースが約4.5km(片道)、百宅(大清水)コースが約6km(同)ということを考えれば、このコースがいかに長大なものだということがわかる。例えていえば百宅コースを二往復するようなものなのである。

(1日目)
 1年ぶりの鳥越川である。あまりに素晴らしいコースのために、今年から山岳会主催によるスキーツアーとして“昇格”を果たした。日帰りでも可能のコースだが、初心者でも確実に山頂を踏ませることを標榜している当山岳会としては幕営が基本となる。長い滑降も魅力的だが、この時期、鳥海山の懐に抱かれての幕営生活は、まるで桃源郷に遊ぶような心地よさがある。宿泊での参加者は10名。そして日帰りで翌日追いかけてくるメンバーが3名と今年は大所帯となった。

 昨年よりも数百メートルほど林道の奥まで進み、雪が現れたところから登り始めとなる。ここでの標高は390mで、山頂までは1850mも登らなければならない。それだけ滑ってこられるということでもあるのだが、さすがに途方もない高度差と距離を思うと目眩がするようだ。獅子ケ鼻が近づくと林道の傍らには早くもミズバショウが咲いていた。獅子ケ鼻をショートカットしながら中島台へと進んで行くと、途中で山岳会の佐藤(俊)さんと天狗小屋の主人、山田さんと出会った。二人は早くも下ってくるところであった。聞いてみると目的はスキーではなさそうだった。二人とも同じ山岳会の仲間であり先輩でもある。しばらくみんなと談笑してから別れた。

 930m峰が近づくとヤセ尾根となる。ここまで登ると前方左手に忽然と鳥海山が現れる。この信じられないような迫力ある光景は日本ではなかなか見られないものだ、異国を思わせるような風景にいつもながら感動させられる。目前には稲倉岳の荒々しい岩壁が立ちふさがり、急峻な岸壁ではデブリも多くみられた。陽射しは春を思わせたが、風が強くジャケットはなかなか脱ぐことはできなかった。

 豊富な積雪に助けられて快適なシール登高が続く。稲倉岳を右手に見ながら登り詰めるとやがて森林限界となる。若いブナ林が散見するところで、まだ芽吹き前のブナは瑞々しい美しさに満ちている。小休止しながら鳥海山をバックに記念撮影して再出発する。鳥海山の山頂付近に雲が少しかかっているものの、ほぼ快晴の天候にみんな満足顔であった。

 森林限界を過ぎ急斜面を登ると昨年の幕営地付近だ。今年もこの1100m付近を幕営地点と決める。幕営地点が決まればテント設営だ。今日のメンバーは10名なので8人用のエスパースと3人用のゴアライトの二張りを設営する。風も考えて雪壁も作り、さらに柴田氏特製のトイレもたちまちのうちに出来上がり、完璧なテン場の完成となる。このトイレは写真ではなかなか見せられないのが残念だが、ほとんど芸術品というほどの代物である。女性にとってはこのうえない天国のようなスペースでもある。

 テント設営が終わっても日没にはまだまだ早い。雪原に特製テーブルが設けられると、リーダーの音頭でさっそく乾杯となる。正面には鳥海山が聳えており、後ろを振り返れば象潟町や日本海、そして海に浮かぶ船までが見渡せた。このロケーションが我々だけの貸し切りなのだと思うと、何とも贅沢な時間を味わっていることに気付く。まさに至福の時間でもあり、ビールの味も格別だった。この絶景が最高のつまみとなったのはいうまでもなかった。

 夕刻が近づくと風の冷たさが気になり始め、そうそうにテントに入った。ガソリンストーブに火が入ると大きなコッヘルがかけられる。今日のメインディッシュは海鮮鍋。道の駅「鳥海」で仕入れた新鮮な魚介類が次々と鍋に放り込まれると、宴会はますます盛り上がってくるようだった。私はいつものように簡単に酔ってしまい早めのダウンとなった。テントの外に出てみると鳥海山や稲倉岳が残照に輝いていた。カメラを取り出して何枚も撮影してみる。いくら撮影しても撮りきれないほどだ。そのうち次々とメンバーも外に飛び出してきて、しばらくこの夕景のドラマに見入った。上空に少し残っていた雲はすっかり消え去っていた。その夜は満点の星空と煌々とした月明かりに鳥海山や稲倉岳がうっすらと浮かび上がった。

(2日目)
 翌日は6時に起床した。鳥海山はすでにモルゲンロートに染まりはじめていた。早くも一人二人と登ってくる人たちも目立った。暑くもなくそれでいて寒くもない、清々しい山の朝であった。見上げると雲ひとつ見当たらない青空が広がっていて、まさしくドピーカンの一日の始まりであった。

 朝食を食べていると日帰りで登ってくる山中さん達から無線で連絡が入った。みんな予定どおりのようである。今日は不要なものはテン場に置き、アタックザックで山頂を往復するから身軽だ。テント撤収をしていると、森林限界を日帰りメンバーが登ってくるのが見えた。

 テン場出発は午前8時。今日は山頂までの1100mの登りと結構長丁場である。ゆっくりと登ろう。放射冷却現象もあって、雪面は堅く凍り、おかげでどこでも自在に歩いて行けるようだった。風も穏やかで快適なシール登高が始まった。

 稲倉岳が後方に遠ざかると徐々に七五三掛が近づいてくる。みんなは千蛇谷を詰めてゆき、私は直登気味に登っていった。千蛇谷を見下ろすとメンバーがまるで米粒みたいにしか見えず、千蛇谷の広大を思わずにはいられなかった。七五三掛をすぎると左手に荒神ケ岳が迫ってくる。見上げると群青色の空が大きい。まるで宇宙の闇が透けて見えるかのようだ。外輪山から荒神ケ岳までは大量の雪に覆われていて境目もわからないほどだった。今年の積雪は例年よりは遥かに多いという印象である。千蛇谷を大きくショートカットしてゆき、荒神ケ岳を卷いて行くと新山は目の前だった。

 一足早く到着した私は山頂にスキーを立ててみんなの到着を待った。山頂からは対岸の七高山に登山者が一人立っているのが見えた。外輪山にも歩いている人が何人かいるようであった。スキーでこの2236mの新山に立てるのはこの時期限定である。山スキーにのみ許された特権でもある。続々と到着するメンバーも次々とこのコブのような新山の山頂にスキーで立った。

 燦々と降り注ぐ陽の光はすでに春の陽射しだった。鳥海山での休憩は至福を感じさせた。この陽射しを浴びながら横になると、うつらうつらと眠くなってくる。ここが鳥海山の山頂ということを忘れそうであった。

 山頂での休憩が終わればいよいよ長い滑降の始まりだ。2236mの山頂から下れるこの快適さをどう表現しようか。雪質も快適そのもので、みんなの表情は笑顔にあふれている。広大な斜面のどこをどう滑っても良いのだというこの開放感は鳥越コースならではのものだ。適度な急斜面から千蛇谷に入ると、みんな一斉に飛び散っていった。総勢13名ともなるとまるで広大なゲレンデを眺めているかのようでもある。千蛇谷の端から端までターンを試みると、向こう側にいるメンバーがまるでゴマ粒のように小さくみえるだけだった。それほどこの時期の千蛇谷は広大そのものだった。いくら滑ってもなかなかテン場までは着かない。この大きな北斜面が今は我々13名だけの貸切だというのが信じられなかった。滑っても滑ってもコースには果てがないようだった。もうテン場を通り過ぎたのではないかと訝しむメンバーさえいるほどであった。

 テン場には長い時間を要してようやく戻ってきたといった感じだった。山頂からは1100m以上も滑降してきて、通常の山スキーならばこれで終了となるはずなのだが、駐車地点の林道まではまだ標高差700m以上も残っているのである。滑走距離は山頂からテン場以上にあるのである。あらためてこの鳥越川の長さを思わずにはいられなかった。テン場で手短に後片づけを終えると再出発だ。今度は重いザックに振り回されるようにしながらの滑降となり、これまでのように自由にはターンをさせてはくれなかったが、一方では斜度も徐々に緩やかになってゆく。この付近はただスキーの上に乗っているだけでよいので楽しいばかりだ。中島台の樹林帯も快適なツリーランを楽しみながらの滑走が続いた。

 今日もまた獅子ケ鼻はショートカットしてゆく。そして林道に出るとあとはまっすぐに滑って行くだけだった。林道の雪は腐っているだろうと予想していたのだが、これが意外や意外でスキーは快適に走った。駐車地点まではまるで動く歩道に乗っているようなものであった。今回も新山のてっぺんから一度も登り返すこともなく1850mの高度差を滑り終えた。この快感というか充実感はしばらく忘れられないような予感がした。



鳥海山を眺めながら乾杯!(テン場にて)


モルゲンロートの稲倉岳(二日目)


早朝のテン場(二日目)


扇子森付近を登る石川さん(二日目)


広大な千蛇谷では登山者がまるで米粒のよう


新山の山頂に立つ!


新山山頂 ※上野氏撮影


新山山頂(望遠)※上野氏撮影


七高山直下の巨大なシュカブラ


千蛇谷は広大なゲレンデ


まるでゲレンデ ※上野氏撮影


稲倉岳が正面 ※上野氏撮影


寂しいですが鳥海山とお別れです


ルートMAP

inserted by FC2 system