山 行 記 録

【平成19年12月16日(日)/吾妻連峰 デコ平から西大巓】



西大巓山頂の筆者



【メンバー】2名(上野、蒲生)※西川山岳会
【山行形態】テレマークスキーによる山行、冬山装備、日帰り
【山域】吾妻連峰
【山名と標高】 西大巓1981m、
【地形図】(2.5万)吾妻山、(20万)福島
【天候】雪時々曇り
【参考タイム】
グランデコスキー場リフト終点11:30〜西大巓13:30〜東面滑降〜西大巓直下(昼食)15:00-15:20〜グランデコスキー場16:30

【概要】
 寒い朝だった。自宅の庭に出てみると横殴りの雪が降り続いていた。昨夜寝る前まではどこに行くかは決めていなかったが、床を抜け出してから気持ちが固まった。山岳会の上野氏がグランデコから西大顛を予定していたので、急遽裏磐梯に向かった。自宅を出てすぐに携帯に連絡してみると、上野氏はまだ眠っていた。しかし、こちらが風雪模様だと聞くと急に元気を出したようだった。私も同行者がいることで、安心して国道121号をひた走った。大峠道路は風雪だったが、喜多方市にはいると徐々に天候が穏やかになってゆく。裏磐梯の五色沼からデコ平へと左折すると、すぐに渋滞となりのろのろ運転が続いた。大勢のスキーヤーがグランデコへ向かっているのはわかったが、ペンション街付近から渋滞するのを見るのは初めてだった。渋滞の原因は路面が凍結しているために、都会からの車が普通タイヤだったり、冬タイヤを履いた車でさえもスリップしたりして、至るところで立ち往生しているためだった。グランデコの送迎用大型バスも登れずに乗客がバスから降り、全員が後ろを押しながら登って行くという、こんな異様な光景も初めて目にした。この渋滞につかまっている中、上野氏の車も登れなくなりそうだと無線が入り、そのため途中で引き返してきてもらうことにした。中間地点にある駐車スペースで落ち合い、そこからは私の車でグランデコに登った。この渋滞によって到着時間は2時間近くも遅れてしまい、予定が大分狂ってしまった。

 グランデコスキー場はこれまでにないようなほど混雑を極めていた。どこも雪がまだ少ないのでみなこの吾妻連峰に押し寄せてきたようだった。ゴンドラも大渋滞のためかなり待たされてしまう羽目になり、リフト終点を歩き出したのは11時30分。風雪は止まなかったが時折明るくなったりするので、時間の遅れはそれほど気にはならなかった。山形側の天候から比較すると雲泥の差であった。

 時間も遅かったためだろう。リフト終点からは先行者のトレースが樹林帯へと続いていた。踏跡の深さも膝近くあるのでこれはありがたかった。しかし、しばらく登ったところで関東圏からきたという3名の先行者に追い付いた。そこからはラッセルを交代したが、少し斜度が増すと膝上以上のラッセルだった。トップを受け持つとかなりの汗を搾り取られた。この2、3日、平地では雨模様でも高山ではかなりの降雪があったのを物語っている。潅木類はほとんど新雪に埋まり、まるで厳冬期のような様相を呈していた。

 雪の少なさを心配してきたのだが、この驚くような積雪は信じられない思いだった。さすがに吾妻連峰である。ゲレンデ付近の積雪から比較すると格段に雪の多さを感じた。そのうち5人の栃木グループが追い付いてきて、そこからはこの5人と交代で行うことになったため、ラッセルのつらさは半減した。西大巓まで直登するルートをとると無木立の斜面を通過するのだが、今回は右寄りの樹林帯を登ったため、強風の影響は最小限に押さえることができた。何しろゲレンデでは目も開けていられないほどの猛吹雪だったのだ。

 西大巓の手前のピークを越すともうそこは山頂直下となる。ここでラッセルを5人組に譲り、私達もほどなく西大巓の山頂に到着する。ここは強風のため標柱がでていたりするものだが、今回は全てが雪に埋まっていた。スキーをはずすと腰まで体が沈んでしまうので、あわててスキーをつかんで雪から抜け出さなければならないほどだった。ホワイトアウトではないものの視界はなく、西吾妻方面はほとんど見えなかった。しかし、東斜面をのぞいてみると、滑降するには支障がないほど雪面がはっきりと見えている。先行していた5人組は手早くシールをはずすと、喜びの雄叫びをあげながら一人また一人とこの急斜面に飛び込んで行った。5人は中ノ沢の源頭部付近まで降りてゆき、その姿は豆粒のようにしか見えない。我々も遅れをとってはいられないとばかり後に続いた。ここは急斜面にもかかわらずへたにターンをしようとすると、ほとんど滑りにはならなかった。思い切ってスピードに乗るとようやくスキーが浮いてくれた。まさしく激パウダーである。この浮遊感は久しぶりであった。続いて降りてきた上野氏もすでに大興奮状態である。あまりの快適さに写真を撮るのを忘れていたためか、上野氏はもう一度登り返してお互いに写真を撮ろうと云う。すでに2時近い時間で昼食もまだだったが、こんな機会はそうないだろうと、お互いにシールを貼りなおして急斜面を登り返した。幸いに先行者のトレースがあるのでこの登り返しは楽をさせてもらった。

 この楽しいパウダーを2回繰り返し、再度登り替えしたところでようやく昼食休憩とした。風は穏やかとはいえ、稜線の風は半端ではない。さっそくツェルトを張って潜り込んだが、それでも雪はツェルトの中に容赦なく吹き込んできた。冬山では暖かいものがなによりの御馳走だ。休みなしの行動が続いて体がかなり冷え切っていたのだろう。テルモスでお互いにカップラーメンを作り、腹に入れるとようやく生き返ったのを実感した。しかし、時間はすでに午後3時を過ぎている。5人組も近くでツェルトに潜り込んでいたが、私達は一足早めにツェルトを撤収することにして下山にとりかかった。

 滑り出しは快調だった。大量の積雪に助けられ南斜面を直滑降で滑って行くと、スキーがまるで舟のように浮いてくれた。普段はシュカブラが目立つ南斜面だが、今日の積雪は有り余るほどで、パウダーを十分に楽みながら滑ってゆく。ところが樹林帯に入ると少々の斜度ではスキーが走らなくなってしまった。いわゆる下りのラッセル状態であった。そのため登ってきたトレースを探しながら下った。トレースに合流するとその踏跡を絡めながら快適に滑って行く。オオシラビソの樹林帯は混み入っていてブナ林のツリーランとはいえなかったが、恐ろしいくらいの激パウダーは反面、適度な制動がかかるので難儀することもなかった。

 あまりに深すぎるパウダーも困りものだというのは、2年前の若女平でも経験していたのだが、今回はそれに近い状況であった。何しろ私のストックが手元まですっかり埋まってしまいそうなほどなのである。今シーズン初めての腰高パウダーは、とても言葉には言い尽くせない至福を感じさせた。

 ようやくゲレンデトップに飛びだしたときには最上部のリフトはすでに運転を終了していて、スキーヤーは一人も見当たらなくなっていた。周囲はすでに薄暗く、もう少し遅ければヘッデンが必要なほど日没が迫っていた。後はスキーヤーがいなくなったゲレンデをのんびりと下るだけである。激パウダーを味わってきた我々にとって、ゲレンデは何の魅力も感じなかった。ただ休憩をほとんど取らなかったためだろうか。両足だけは今にも痙攣しそうなほど疲れ切っていた。


一時的に青空も広がる


底なしのパウダーにストックが埋まる(写真は筆者)


西大巓東面滑降(1)


西大巓東面滑降(2)


西大巓東面滑降(3)


西大巓東面滑降(4)


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