山 行 記 録

【平成19年9月8日(土)〜9日(日)/朝日連峰 日暮沢から竜門山】



竜門小屋の朝



【メンバー】2名(柴田、蒲生)
【山行形態】夏山装備、避難小屋泊(竜門小屋)
【山域】朝日連峰
【山名と標高】清太岩山1,465m、ユーフン山1,565m、竜門山1,688m
【地形図】(2万5千)朝日岳、(5万)村上
【天候】8日(曇り時々小雨)、9日(晴れ)
【温泉】山形県朝日町 五百川温泉150円
【参考タイム】
(8日)日暮沢小屋 9:00(620m)〜清太岩山 12:00〜ユーフン〜竜門山 14:15〜竜門小屋 14:30(泊)
(9日)竜門小屋 8:30〜日暮沢小屋 11:30

【概要】
 日暮沢から登るこのコースは朝日連峰でも最短で主稜線に上がることが出来ることから、多くの登山者が訪れる。今日も駐車場には8台ほどとまっていた。昨日までは台風9号による風雨のため、県内は大荒れだったが、今日は台風一過ということもあって、快晴の天気予報がでている。気温もかなり高くなるようなので、短い行程ではあるが、早めの出発とした。今回は例によって、足のリハビリと管理人の慰問を兼ねての山行である。久しぶりの竜門小屋に泊まれるとあって、なんとなく心が弾んだ。考えてみれば、小屋泊まりは靱帯を損傷した飯豊連峰以来であった。

 登り始めるとまもなく竜門小屋の管理人である遠藤さんが山から下ってくるところに出会った。遠藤さん達は9月1日から昨日まで、1週間も三面の登山道整備にかかりっきりで、その作業は非常に困難を極めたらしかった。しかし、そんな疲れた様子もみせずに、これから北海道に行くのだといいながら、仙人のような出で立ちで急な登山道を早駆けのように下りていった。

 しばらく歩くと周りにブナが多くなる。そして次第にガスの中に入ってしまうと、全く視界がなくなってしまった。好天が予想されているというのに、山の回復は遅れているのか、期待はずれの天候に少し落胆する。終いには小雨がぱらつきだしてくる始末だった。

 ゴロビツの水場を過ぎた辺りで荘内の石川さんが一人下りてくる。石川さんとは月山肘折ツアー以来だったが、先ほどの遠藤さん達と一緒に三面コースの整備を手伝っていたらしく、言葉だけだったが労をねぎらって別れた。それからも黙々と登り続け、急斜面を登るとようやく森林限界に飛び出した。しかし、視界の悪さは相変わらずで、後方に聳えているはずの月山は影も形もわからない有り様だった。管理人代行を頼まれていた柴田氏には清太岩山でようやく追いついた。柴田氏は傘を差して昼食中であった。なにも見えない中で私も腰を下ろして休むことにした。雨は大降りとはならなかったが、濃霧が山全体を包んでいるといった状況で、白い闇はいくら待っても晴れる気配はなかった。

 柴田氏は登山道を整備しながらなので、極めてのんびりとした行程だった。雨は降っても視界があれば展望を楽しめる区間だったが、今日はそれさえも望めない。ユーフン付近ではミヤマアキノキリンソウやマツムシソウが盛りだった。そんな花たちを眺めながら歩いていると、後から見覚えのある人が追いついてきた。なんと鶴岡の天狗、佐藤さんであった。こんな天候の中、出会えるとは思っていなかっただけにお互いに驚いてしまった。それも竜門への小屋泊まりだというのだから、”天狗”の異名をとる佐藤さんにしては、今回のようなのんびりとした山行はめったにないのかもしれなかった。

 その後も天候は変わりがなかった。しかし、しっとりとした小雨の中を歩くのもそれほど悪くはないものだ。灼熱地獄のような真夏の暑さよりは、はるかに登りやすいのはいうまでもなかった。怪我を経験してみると、山をこうして歩けるだけでもありがたいと、なにか山の神に感謝したいほどだった。柴田氏は相変わらずピッケルを使いながら、水路を作る作業を続けていた。竜門小屋には2時半ころに到着した。小屋の周囲でも視界は全くなかった。

 小屋では佐藤さんがすでに濡れたものを干したりして小屋泊まりの準備をしているところだった。小屋にはその後、誰もやってくるものはなく、3名だけの貸し切りのようだった。狐穴では安達さんが小屋番だが、あちらもお客さんは岡山からの人が一人だけらしかった。無線のやりとりをしていると、大鳥池付近で遭難事故が発生した一報が飛び込んできて、一瞬、緊張感が走る。その仲立ちを安達さんが行っているようだった。我々はその無線を傍受しながらその行く末を案じていると、しばらくして遭難者がヘリで救出されるらしいことがわかり、今度はそれを肴にしながら再び酒を酌み交わすのだった。

 翌日起き出してみると、上空には雲一つ見あたらなかった。放射冷却現象で気温がだいぶ下がったためか、昨日の雲はすっかり下界を覆い尽くしていた。そして徐々に窓際が明るさを増してくると、3名とも外にでて、ご来光を眺めた。天狗角力取山から出谷川には絶え間なく滝雲が流れ続けている。いったいどこから湧いてくるのか、まるで大水が激流となって下流に注いでいるかのようだ。音もなく静かで、そして清々しい竜門小屋の朝だった。佐藤さんは7時頃、日暮沢に下っていった。

 私は柴田氏の小屋の整理や掃除などが終わるのを待って一緒に下山を始めた。昨日の天候とは一変して、今日は天候が良すぎるくらいだ。後ろ髪を引かれる思いで小屋を後にしなければならなかった。日暮沢までは3時間足らずで下れるので、あわてる必要がないのがよけい恨めしいような思いがした。

 気温は時間の経過とともに上昇していった。それにともなって下界を覆っていた雲海も一気に吹き上がってくるようであった。そしてひとまとまりだった雲は、それぞれに散らばってしまい、いつのまにかまとまりがなくなっていた。こんな爽やかな山日和にもかかわらず、新たに登ってくる登山者は見あたらなかった。時々真夏のような陽射しが降り注ぐこともあったが、下から吹き上がってくるガスが心地よく、単調な尾根道も予想外に楽しみながら下ることができたのは幸いであった。まるで秋の到来を思わせるような涼風が吹き渡ると、疲れていた体もたちまち快復するようである。日暮沢小屋には約3時間で降り立った。今回も問題なく山を楽しめたことで足の快復も順調のようだった。この分ならば大朝日岳や飯豊本山へも近いうちに登れるかも知れないと、久しぶりに安堵感と充実感を味わった二日間が終わった。


早朝の月山と雲海 竜門小屋で


竜門小屋


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