山 行 記 録

【平成19年8月5日(日)/坊平〜仙人橋〜中丸山〜熊野岳〜お田ノ神〜坊平



お田ノ神湿原と熊野岳



【メンバー】単独
【山行形態】夏山装備、日帰り
【山域】蔵王連峰
【山名と標高】中丸山 1562m、熊野岳1841 m
【地形図】(2.5万)蔵王山、(20万)仙台
【天候】晴れ
【温泉】長井市「はぎの湯」400円
【参考タイム】
坊平7:20〜仙人橋7:40〜中丸山8:50〜熊野岳10:10〜馬ノ背11:00〜お田ノ神11:40〜坊平ライザ駐車場12:50

【概要】 
 早朝の坊平高原にはまだ誰もいなかった。梅雨が明けた山形県内は今日も猛暑日になる予報がでていたが、ライザスキー場の駐車場から上空を見上げると、薄黒い雲が覆い被さっていて、馬ノ背はおろか中丸山さえ見えなかった。これは予想外の天候だったが、日射しがないのはかえって歩きやすい。今回のコース上には水場がないので水筒を満タンに満たして出発した。

 ゲレンデを登ってゆき、第1リフト終点からはもったいないほどの高度差を下る。仙人沢へと降りてゆくと喧しい蝉の鳴き声が頭上から降り注いだ。いつもながらここは急斜面だが、沢音と川風が夏の暑さをつかの間忘れさせてくれるようだった。仙人吊橋は頑丈で、人が歩いただけでは少しも揺れることが無い。車でさえも通れるのではないかと思えるほどだ。対岸に渡ると中丸山への急登が始まる。6月に痛めた足首の靱帯がまだ完全ではないので今日もペースはゆっくりである。途中から雲の中に入ったらしく、視界はなくなったものの、かえってその涼しい空気がありがたい。ときどき沢から吹き上がってくる風は冷たいほどだった。

 やがて前方に中丸山が現れる頃には雲の上に飛び出したようだった。ここからはところどころに木道が現れる。日射しが降り注ぐだけに真夏の暑さも戻ったのだが、高度はすでに1500m近い。朝日連峰ならば古寺山と同じ標高である。吹く風はさらに爽やかさを増し、やはり夏山は早出に限るなあ、などと当たり前のことを思ったりした。やがて木道の傍らに標注が立っている中丸山に着く。ここまで約1時間半であった。意外と早い到着に気をよくして、冷たいものを食べたりしながらのんびり一休みとした。

 中丸山から熊野岳への区間は夏道としては初めてだ。いったん山頂から下ると再び樹林帯の中になる。ここは山スキーで熊野岳から下ったときのいつもの休憩地点だが、潅木に遮られて展望はなく、冬の景色と夏山とではまるで別世界だった。鞍部からは小さなアップダウンを繰り返しながら少しずつ熊野岳に近づいてゆく。気温の上昇とともに下界を覆っていた雲も徐々に晴れてゆき、右手には登山リフトのある大駐車場が見えてきた。手前のピークを乗っ越すと前方には熊野岳の荒々しい山容が目に飛び込んでくる。その付近からはまだ200mほど登らなければならなかったが、涼風は爽やかで夏の暑さをしばし忘れさせてくれた。

 初めてのコースとはやはりいいものだ。登山道にはママハハコやヒメシャジン、ウツボグサなどが目に付くぐらいであまりなかったが、見る風景は冬とは違ってみな新鮮に映った。やがて樹林帯が終わり、熊野岳の岩稜帯に飛び出すと視界は一気に広がった。この分岐点には標注はないが、枯れかかった木の杭が目印として立っている。ここから山頂までの区間はコマクサが至る所に咲いているのでびっくりするほどだった。時期的にはもう遅いかもしれないと考えていただけに、これはうれしい驚きだった。まさしく群落といっていいほどのコマクサが出迎えてくれたのだから、登りの疲れを忘れそうである。コマクサは朝の湿った空気に長い時間触れていたらしく、まるで雨上がりのように花全体がしっとりと濡れていた。

 熊野岳の山頂まで来ると登山者が目立ってくる。みんな刈田岳や蔵王温泉からきた人達のようだった。汗をかいた体には少し肌寒いほどの冷たい風が流れていて、まさしく天然のクーラーを味わっているかのようであった。熊野岳の山頂付近にもコマクサが群落となっているはずだったが、すでに終わってしまったのかほとんどみられない。それだけに今日、中丸山を経由してきたことを喜んだ。馬の背からはエメラルドグリーンのお釜が眼下に見えた。空気が澄んでいるからなのだろうか。お釜の輪郭も湖面の鮮やかさもいつもより明瞭だった。ここでお釜を眺めながら少し昼食を兼ねた休憩をとることにした。馬ノ背は大勢の人達が行き交っていたが、お釜の淵まで少し降りてくるとウソのような静けさだ。いつまでも休んでいたいような爽やかな山の風が吹き渡っていた。

 馬の背から登山リフト上駅までの区間はいつのまにかコンクリートの舗装路に変わっていた。私は登山リフトを横目に見ながら廃線リフトの下を下った。リフト小屋を過ぎるとお田ノ神避難小屋までは道が不明瞭となる。というよりも湿地帯の中の歩きとなり、いたるところに踏跡が点在していた。湿地帯はキンコウカが盛りでワタスゲも多かった。背丈を越すような灌木のトンネルを抜けると広々としたお田ノ神湿原に出た。ここもキンコウカの群落が広がっていて、その鮮やかさ、美しさに目を見張った。このコースを歩く人はほとんどいないらしく、踏跡もわずかしか見当たらない。今日は一人の人にも出会わなかった。この美しい湿原と風景が独り占めであった。

 刈田岳や熊野岳周辺の喧噪が嘘のような静寂さに包まれていた。ここの湿原が秋にはどんな色合いをみせるのだろうかと考えるのは楽しかった。紅葉に彩られた湿地帯をあれこれと想像しながらお田ノ神を後にした。お田ノ神避難小屋からは迂回路の標識があってエコーラインをほとんど歩かずにライザスキー場まで降りてゆくことができた。見覚えのあるリフト終点の小屋などが見えてくると登山道はまもなく終わりだった。ここからはゲレンデを自由に歩いてゆくだけだが、気温があまりに高くて休む気にはなれない。こんなに暑いのならばもっと山頂でゆっくりとするべきだったと思っても後の祭りだった。私は一息にライザスキー場の駐車場へと戻ることにした。


仙人吊橋


中丸山山頂


熊野岳が前方に


熊野岳から望む中丸山


コマクサと熊野岳(奥)


お釜(左奥は後烏帽子岳)


お田ノ神湿原のキンコウカ大群落と熊野岳


ライザスキー場からの中丸山


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